少女
少女の霊がでる。
黒猫と共にでる。
軒先に腰を下ろし、
通りを眺めている。
†
陽がよく照った冬の日に、決まってでる。
彼女の半径五メートル、
冬枯れた樹木が緑をたたえ、
木漏れ日を投げかける。
そこは春。
そしてわたしは、ぶ厚い冬の装い。
時空間がゆがんでいる。
彼女はミッドセンチュリーの子ども服。
赤毛の三つ編み、おさげは二本。
肩の動きに合わせて揺れる。
ゆがんだ時空間から、
あたたかい春の風が吹いてくる。
深呼吸する。
鼻歌が耳につく。
名も知らぬジャズ・スタンダード。
待ち人へ贈る歌。
†
「ただ、待つということがどれほど幸福なのか」
誰も応えない。
「わたしには、そんな豊かな時間があったのか」
近況を思い返す。
満杯の生活。
どこに「待つ」ことの余裕があるだろう。
古き良き少女は、まだ通りを眺めている。
きっと何時間だって待てる。
来る日も来る日も待つ。
すこし座る。
コンクリートの地面はひんやりしている。
ひとつ向こうの大通りから聞こえる、
車どおり、人の吐息。
なにをそう、急くことがあるだろう。
わたしは、わたしに云う。
なにをそう、飽くことがあるだろう。
わたしは、だれかに云う。
†
少女の霊がでる。
少女と共にでる。
黒いおさげをなびかせて、
通りを眺めている。
*
Kise Iruka text 125;
Ghost Girl.
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