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星番

 2000年目にもなると、もう何もすることがなくなってしまう。

 人の一生の20倍だ。

 わたしは、100年毎に、

 性格や趣向を、アトランダムにシャッフルできる機械に入る。

 前のループまでは、なんとかそれでやり過ごせたが、

 もうそろそろ限界を感じた。

 初めは――

 すなわち、わたしが、母の体から産み落とされた時、

 仮に、オリジナル、と云おう。

 その100年間は、社交的な性格だった。

 趣味は、何かを鑑賞することだった。

 観たもの聴いたもの感じたものを、

 誰かと共有するのが、

 楽しみだった。

 しかし、その次の100年間は、そうも云っていられない。

 わたしはこの星の留守番として、

 一人、暮らしていくのだから、

 社交性とか、感性の共有とか云っていられなかった。

 だから、次の100年間、それ以降は、

 一人でなんとかできる趣味に落ち着くほかなかった。

 例をあげよう。

 みっつ前の時は、音楽家だった。

 倉庫からピアノを発見したので、弾いてみたが弦が切れていた。

 なので、いつか工作が好きだった時に切り倒した木材の残りを使って、

 バイオリンを作って弾いた。

 確か、ふたつ前の時は、絵描きだった。

 キャンバスは大量に用意されていたのでそれを使った。

 星座の動物を、図鑑から漁って描き写すのが好きだった。

 この間までは、文学者だった。

 まず、古い哲学を勉強して、それから本を何冊も書いた。

 晩年は、装丁にも興味が出てきて、

 全部きちんと綴じていた。

 今日からまた、100年が始まるけれど、

 昨日までは、もうさすがにないだろうと思っていた。

 でも、しかし、バリエーションは実に多彩で。

 今日から、わたしは宇宙工学者だった。

 倉庫から、今度は航行計画書を見つけた。

 まず、わたしは計算から始めた。

 次に、宇宙船が安全に着陸するにはどうすればいいか考えた。

 その次に、丘の向こうへ住居を移した。

 丘のてっぺんから少しだけ顔を覗かせる建物に、

 興味は湧いていたものの、調べるほどではなくて、放ったらかしにしていたが、

 思い立って行ってみると、そこは工場だった。

 わたしは、工場の一室に寝泊まりした。

 わたしは、宇宙船の着陸ベースを作って、来たる日を待った。

 その日は早起きして、いろいろなことを片付けた。

 自分が作ったバイオリンや、譜面を整理したり、

 自分が描いた絵を、綺麗に飾ったり、

 自分が書いた本を、書棚に並べたり。

 他にもいろいろな作品や書類を、きちんと片付けた。

 それが昼過ぎに終わると、

 わたしは簡単に食事を取って、

 昼寝した。

 芝生の緑が心地良かった。

 そろそろ時間になって、わたしは準備を始めた。

 着陸ベースの最終確認を終えて、

 チャンネルを合わせて信号を打った。

 しばらくすると、くれなずんできた空に、

 燃え盛る火球が見えてきた。

 茜色に煌めくそれは、太陽がもう一つできたかのようだった。

 徐々に、火球は接近してきて、

 着陸ベースの真上までやってきた。

 宇宙船のロケット噴射が熱い。

 じきに着陸を完了した宇宙船から、人が降りてきた。

 彼らは何やら聞き取れない言葉でわたしに語りかけた後、握手を求めてきた。

 感謝の言葉だろうと受け取る。

 続々と人が降りてくる宇宙船の出入り口は、

 怪しく光が揺らめいていて、気持ちが悪かった。

Kise Iruka text 104;
Pollution.

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