若いうちはミニマリストにならなくていいんじゃないか
私は小さい頃からモノを増やすのが嫌だった。だから、お金を使うことで罪悪感を抱くのと相まって、モノを買ってこなかった。このミニマリズム的生活は大学卒業まで続いた。だが、ここ1年程で、若いうちからミニマリストになるのは良いことばかりではないのでは、と思うようになった。
3年ほど前、イギリス留学中に住んでいた私の部屋には備えつけの金属枠のベッドとクローゼット、生活必需品のほかにほとんどモノがなかった。この無機質な部屋を見た私の友人は、「よくこんなところに住めるね、病院みたい」と直球なコメントをくれた。
ちなみにその友人の部屋は留学期間の1年しか住まないとは思えないほど、お気に入りのサッカー選手のポスターやらフラッグやらが色々と飾ってあった。その彼は「自分はマキシマリストだ」と豪語していた。
その当時はモノは少なければ少ないほど、片付けが楽だし、モノがないのをクールだと思っていた。
この考えに変化があったのは、大学院生になってから。これまでほとんど勉強したことがない分野を専攻した私は、いっぱいいっぱいになって最初のセメスターを過ごしていた。もちろん、病院のように無駄なモノがない無機質な部屋で。
勉強自体は苦ではなかったから、睡眠時間や食事を削ってガンガン課題を進めていた。いわゆるランナーズハイみたいになっていたと思う。そして、少し体調を崩して冬休みに長めに日本に滞在することにした。
滞在中に姉に言われたのが「○○(私)はたしかにシンプルでまっさらな空間が好きだろうけど、住む場所としてはどうなんだろう。例えば、美術館に行って『こんなホワイト・キューブに住みたい!』とは思わないんじゃない」ということ。
言われたときは、まだミニマリズムの思い込みに固執しており膝を打つほどには納得できなかったけれど、それまでは「無駄」と思っていたものを少しずつ買ってみるようになった。
はじめに、以前見かけてすごく可愛いと思ったアルパカのぬいぐるみを買った。ぬいぐるみなんてミニマリストが最も排除したいものの一つだろう。でも、本物のベビーアルパカの毛で作られたそのぬいぐるみはふわふわでとても愛おしく、部屋にいてくれるだけで微笑みたくなる。あとは、ポストカードを少し買って壁に貼った。
そして、スケートボード。スケボーは4年ほどずっとやりたいなと思い続け、「でもどうせ飽きるだろうし」と自分に言い聞かせて諦めさせていた。コンプリートデッキ、ヘルメット、プロテクターをそろえて2万円以上かかったし、もちろん置き場所が必要になった。
でも、スケボーを始めたことで思わぬ副産物があった。「私、スケボー始めたんだ」と言うと話のネタになるのはもちろんだけど、スケボーを通じて深まった友人関係がある。しかも一人とだけでない。
例えば、知り合い程度だったアメリカ出身の子もひょんなことからお互いスケボーをやっているということが分かり、意気投合して一緒に練習したり、遊んだりするようになった。
そして、ファッション。私は小さい頃からファッション雑誌や服のコーディネートを考えることが大好きだった。将来は何らかの形でファッションに携わりたいと思っている。でも、ファッションはミニマリストを目指し始めた人なら初期段階でかつ徹底的に手を付けたい領域だろう、私も必要最低限の服しか持ってはいけないと思ってきた。
ただ、ミニマリズムから距離を置き、無くても生活に支障はないが好きなモノ(洋服含め)、を少し増やすなかで、将来ファッションやアートを仕事にしたいと思っている人が、必要最低限の服しか持たないのはどうなのだろうと思い始めた。
もちろん今でも、流行に乗ってとっかえひっかえ服を購入し着るのは私の目指すところではない。ただ、まだ自分のスタイルも定まらず冒険したいと思っている私が、「Tシャツは白無地、黒無地、プリントの3枚しか持ってはいけない」とルールを設けてしまうと、どうしたって自分のスタイルは見つからない。
さらに、いくら「ファッションが好きです、仕事にしたいです」と言っても「Tシャツとジーンズばかり着ているのに…?説得力がないなぁ」と思われるかもしれない。
つまり、私が気づいたのは「若いうちから『無駄なモノを省く』ことにあまりに固執していると、そのモノを媒介にして得られたはずのことも得られないし、将来の選択肢を狭める可能性もあるかもしれない」ということ。
ミニマリストのブログや体験談を見てみると、元々モノがあふれかえっていたが、それに嫌気がさしてミニマリストを目指すようになったというパターンが多いように感じる。
彼らは一度どうしようもないほどに沢山のモノを所有した経験があるから「○○は買っても結局使わなくなる」「△△は自分に必要がない」と判断できるのだと思う。
それすらも経験したことがない私は、自分の生活に何を残したいか、何が不要かまだよく分からない。ミニマリストを目指すには早すぎる。40代くらいになって、気がついたら自分にとって必要なもの、好きなものだけで囲まれていた、となっていたらいい。
巷ではミニマリズム的考えが流行しているけれど、考えなしに迎合し実践するのはどうだろうと思う。
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