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"(NOT) EPILOGUE" PLAYLIST 解説

僕の父・鈴木晴雄の四十九日法要を終えた後の食事は、ジェローム・キルボフに頼む以外の一切の選択肢を考えられなかった。

父の最期の外出晩餐は、彼が営む「Tinc Gana Tokyo」での夜だったし、父は僕の最近とても大事にしている友人をリスペクトしていたし、毎回ジェロームの店で美味しい料理とワインをたらふく食べる様子は心が満ちる時間のようだった。

今回、彼に無理を言ってランチタイムを貸し切りにし、26名満員の出席者とともに料理をコースで堪能するにあたって、店内のBGMを特別なものにすることだけ、僕は貢献することになった。

プレイリストのタイトルに込めたのは、父の身体はこの世から去ったが、まだ今後連綿と続いていく縁の糸に終わりはないということ。そしてジェロームの店で行われる宴や、その余韻を楽しんでもらうために、3時間半の音楽を並べた。もちろん、曲順やヴァージョンも細かく指定して。

この食事のために、渡仏のタイミングを急遽変更し、店を貸し切りにし、スタッフを緊急動員させる、超特別対応をしてくれた、我が親友への敬意も込めて。

惜しくもこの場に参加できないあなたは、音楽を聴き、鈴木晴雄を思い、なにか素敵なおつまみを用意し、この昼を過ごしてもらえればと思う。

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原則的に、僕は食事をするときにテレヴィや音楽を必要としないタイプだ。それは、そういった視聴覚情報が、味覚や嗅覚や食感との100%の対峙を邪魔してしまうことがあるからである。

(ビジネスランチ、ランチミーティングなんて愚の骨頂だ。腹に食べ物は入るが、料理人と食材にアテンションが向かない無礼な行為だと心から思う。だから僕は基本的にこの類は断っている)

ただ生前の父と自宅で食卓を囲むときには、音楽が必要だった。彼はしばしばテレヴィから流れるニュースで機嫌を悪くし、やがてそれらが僕らに飛び火し、被害を被ることは少なかったのである。

そこで2019年の自宅再建築の際には、食卓からテレヴィが見えないレイアウトを施し、代わりにダイニングテーブルやリビングルームを始めとする、全部屋に連携するBluetoothスピーカーを設置し、食事のときは音楽を選ぶことになった。

母のこだわりで、それがサザンオールスターズだったり、ハワイから発信される海賊放送の場合も多かったが、今回のプレイリストで選んだのは、僕がよく食を囲むときにSpotifyで選んでいた作品を中心に、彼に縁がある曲を選び、さらに父を思い足を運んでくれる方々にも耳馴染みのいいものを加えて構成した。

3時間半におよぶ、全54曲ひとつひとつに、少しだけコメントを添えていこう。

I Won’t Last a Day Without You / Richard Carpenter
始まりは、ドタバタするし、遅刻する人もいるだろうから耳馴染みのいい、心が落ち着くピアノからスタートすることにした。

Book of Swords / Felt
長年僕が愛している曲。眠れないときによく聴いてきた。メロウ。

Karen / Hiroshi Fujiwara
僕の心がざわざわするとき、最近よく聴く曲。

Love Me Tender [Haruomi Hosono Rework] / Tomoyo Harada
原田知世のコンサートに行ってみようかな、と一度ぼそっと父が話していたことを思い出して選んだ。

Intro / Mondo Grosso
Labyrinth (Instrumental Mix) / Mondo Grosso
このあたりから、客も完全に着席するだろうという想定だ。長男がクラブDJになってしまったがゆえ、自宅で爆音でダンスミュージックを聴くことが多くなってしまった父だが、大沢伸一のDJと曲だけは認めているようだった。

Fantastic Piano / Axel Boman
Pampaレーベルで曲を出したことがある関係で知った、美しいピアノの流れるチルアウトな曲。

Do You Want to Know a Secret? / Fairground Attraction
大昔、「ビートルズのコピーバンドのクラブに行きたくない」「早く帰りたい」と言ったら、財布も何もかも取り上げられて、六本木から四谷の自宅まで歩かざるを得なくなった記憶を思い出す。そういうことはよくあった。自宅近くになったら、明らかに飲酒運転で、四谷四丁目の信号でドリフト走行を決める父を観た。よく捕まらなかったな・・・。

Over the Rainbow / Little Tempo
好きなスタンダードナンバーだったと母から。2001年に一緒に観に行ったエリック・クラプトンのライヴで、この曲が演奏されたときの感動が鮮烈だが、あえてそれとは違う、スティールパンでの解釈を選んだ。

Amazing Graces / Van Dyke Parks
Amazing Grace / Joan Baez
これも父の好きなスタンダードナンバー。前曲とのつながりで、アメリカーナの巨匠による解釈で聴くことにした。そのまま流れるように、彼が敬愛したジョーン・バエズによる歌声につなげた。

Something [strings only] / The Beatles
50周年記念でリリースされたボックスより、ストリングスだけの音源を持ってきた。あえて歌もバンドの演奏も抜いたものを選んだのは、ここから、少し編曲のモードが変化していくから。僕はDJをしていた頃から、こういう音源をインタールードとして使ってきた。

Don’t Let Me Down [Naked] / The Beatles
Don’t Let Me Down / Marcia Griffiths
この曲は、ビートルズ自身でもいろいろな演奏が発表されているが、僕が最も好きな、ルーフトップでのテイクを中心にしたネイキッドで蔵出しされたバージョンにした。そのまま、この曲の最も秀逸な再解釈のひとつ、マルシア・グリフィスの歌声につなぐ。

Roving Gambler / Billy Joe + Norah Jones
GREEN DAYとノラ・ジョーンズのコラボによる、エヴァリー・ブラザーズのトリビュートアルバムは、父がよく好んで聴いていた1枚だった。もっとも、原作のことはよく知らなかったようだけれど。

Oh, Pretty Woman / Pomplamoose
彼が思春期の頃にアメリカン・ポップスのインベーションが起き、その中にあった曲を、現代のオルタナ的サウンド構築で解釈したバージョン。

Be My Baby / The Ronettes
これも、日本にビートルズ旋風がやってくる直前に聴いただろう。ブライアン・ウィルソンが圧倒され影響を受けたことで知られているが、父もこの曲が大好きだった。革命的なサウンド。

Sloop John B / The Beach Boys
もともと、ブラザーズ・フォアのレパートリーということもあり、アメリカンフォーク世代の彼が、一番愛したビーチ・ボーイズの曲はこれだったと思う。

Johnny Get Angry / Joanie Sommers
このあたりは、おそらく彼は思春期ですよね。アメリカ=GHQから大量に文化流入が起き、日本人がそれをカヴァーするというグローカリゼーションも起きていって。

Johnny Angel / Shelly Fabares
ジョニーつながりで(笑) おそらく父は、この曲のほうが好きでしたね。シェリー・フェブレーのことを明確に覚えていたし。本当は製作したリミックス音源をかけたいのだけど、Spotifyだと無理で至極残念。

The Locomotion / Little Eva
キャロル・キングは、父の世代には『つづれおり(Tapestry)』の人というイメージだろうけど、果たして『ロコモーション』だとか『ワン・ファイン・デイ』を書いた人でもあるとは・・・知らなかっただろうな。

I Feel the Earth Move / ATFC
キャロル・キングのネタで展開されていくハウスにつなぎます。ATFCは、僕がまだDJをしていた頃、特に大学生だった頃に、よく渋谷の新譜レコード屋さんで見かけましたが、最近はあまり噂を聞きませんね。でも、すごく秀逸なトラック。生前食事中にこれがかかったとき、こんな発想もあるのかと父は感心している様子だった。

Saturday / Fafa Monteco
そのまま1970年代のヒット曲をサンプリングしたハウスを続けます。これはシカゴ『Saturday in the Park』を再構築した音源で、2005年ぐらいにFPMのDJで知って、それ以来、僕もたまに使っていたトラック。

Another Star 12” mix / Kathy Sledge
スティーヴィー・ワンダーですね。でもサンプリングではなくてカヴァー。メジャーなど直球のハウストラック。ワクワクするし、長めにコーラスが使われていて。このへんは、たとえ音量が小さくても、なんかワクワクするであろうゾーンです。中盤ぐらいを食べていて、ジェロームの料理に驚く高揚感と同期したいなと。

California Dreamin’ / Chris Lorenzo, High Jinx
たまたまSpotifyで見つけたもので、ママス&パパスの大ヒット曲を、エレクトロのリズムの上に乗せたトラック。ヴォーカルトラックをかなりエフェクト処理していて、かなりダンスのコンテクストに寄せられているね。

Pipeline / Bruce Johnston
ここらへんで、ちょっとまたアッパーに持って行き過ぎた曲調をゆるく落としていきます。これは、ビーチ・ボーイズのメンバーでもあるブルース・ジョンストンとカート・ベッチャーによる、ベンチャーズのディスコミックス。原曲を愛している人にはとほほかもだけど。

You Make Me Feel Brand New / Inner Circle
ふと思い出す瞬間がったんです。「この曲のスタイリスティックスのバージョンが聴きたいから、家にあるか?」と父に尋ねられたことを。ただ、元の曲だと前曲・後曲とのクッションにならないし、緩やかな変化にしていけないので、こういったスカバンドのカヴァーに。

Our Day Will Come / Waldeck
父には遅かったけれど、母世代は『NOW & THEN』を通じて、1960年代のアメリカンポップスを知ったんだよね。これも、そんなひとつ。でもカーペンターズではかけない。

From Me to You / Hiroshi Sato
シティ・ポップの文脈でのビートルズ解釈。こういうものは、熱心な音楽ファンには直球だけれど、一種、変化球に聞こえる場合もある、ターゲットによっては。その想定をして、どのバージョンでどの曲を聴かせるかは編集だね。そう思いながら選びました。

Moon River / Jacob Collier
晩年、この曲をヘンリー・マンシーニが書いたことについての話をしたなと思いだして。いわゆる「イージーリスニング」よりも、オルタナ感があるこのバージョンで新鮮に聴いてもらおうと。

If You are Here / Cornelius
ジェイコブの声と、骨太で、ズシンと来る低音感覚を聴いていて、コーネリアスのこの曲を選ぶことにしました。歌詞の「あなた」が父だと仮定して。

真夏の果実 / Southern All Stars
「四六時中」と呼んでいましたね、この曲のことを。父は(笑) やはり自分でリミックスした音源を選びたいのですが・・・。

I Love You, OK [Live at Tokyo Dome 2018] / Eikichi Yazawa
これも自分でリミックスしたい音源で選びたいけれど、制約上やむを得ないので、2018年に父と実際に現場で観た東京ドーム公演のライヴ音源に。

This Boy / The Beatles
1940年代後半〜1950年代後半の生まれの人は、この三連リズムのポップスやロックに弱いですよね。僕は1985年生まれだけど、大好きだし。大昔「レディ・ステディ・ゴー」のビデオが家にあって、父はこの曲を演奏するビートルズを観ていました。


Wasted Time [Reprise] / The Eagles
ここから、さらに深淵な音像の音楽に入っていくので、インタールードとして活用。

Bridge Over Troubled Water / Simon & Garfunkel
この曲に関しては非常に詳しい晩年のエピソードがあるので、こことかこことか。

You’ve Got a Friend / Carole King
つい最近まで、父はジェイムズ・テイラーのことを知らなかった。

Grapefruit Moon / Tom Waits
彼が最期まで通い続けたバーは、初期、いくつかのアーティストの音楽しか流れなくて、トム・ウェイツはそのひとりだった。

Diamond Moon / Eikichi Yazawa
この曲の歌詞にインスパイアされたことが、きっと父にはたくさんあったように感じる。もちろん推測なのだけど。

Knight Moves / Chilly Gonzales
またアップテンポに、ダンスのコンテクストを少しだけ入れて、刺激を加えます。まるでモリコーネの映画音楽を聴いているようなドラマとロマンティシズム。

My Baby Just Cares for Me [Honne Remix] / Nina Simone
My Baby Just Cares for Me / Nina Simone
ニーナ・シモンのことをそんなに知らなかったはずだけれど、ある日、僕が視聴していた大沢伸一さんのYouTubeで、彼がDJをしていて、この曲をかけたときに、「センスのいい人だね」とぼそっといったのを思い出した。

Sugar Town / Nancy Sinatra
よく鼻歌で歌っていた曲。最近僕がリミックスした音源で入れたいが、これも断念。まさか砂糖がLSDだとは思っていたなかったようだけれどね、父は。

Raindrops Keep Fallin’ on My Head / B.J. Thomas
僕がウクレレを買って。それを持った父が、ポロポロ弾きながら「いまオレが思い描いている曲を当てたら100万やる!」と宣言したら、まさか母が正解してしまい・・・。現金100万ドンっじゃなかったけれど、いろいろなブランド品をコマメに買わされることにはなっていましたね(笑) 父にとって『明日に向って撃て!』は特別な作品のようだった。

Agua De Beber / Astrud Gilberto with Antonio Carlos Jobim
僕がジョアン・ジルベルトを聴くようになると、彼はアストラッド(当時のジョアンの妻)の話をするようになった。僕はあまり歌がうまくないと思うし、なんか雰囲気ものって感じなんだけれども。

Day Tripper / Sergio Mendes & Brasil 66
セルジオ・メンデスは、よく家族の食事で流れる音楽だった。大沢伸一さんが選曲をして、一部リミックスも施したコンピレーション・アルバムがすごくよくて、それをBluetoothスピーカーで流していましたね。

Something Stupid / Mariya Takeuchi & Eiichi Ohtaki
大滝詠一さんと父は同学年、1ヶ月ぐらいの誕生日の差でしたが、ふたりとも若くして亡くなってしまいました。父は、「男たるもの」の世界だから、大滝詠一と松本隆のような世界観には一切の共感を示さなかったけれど、このバージョンは気に入っていた様子。

The End of the World / Skeeter Davis
『NOW & THEN』ネタがつづきますね。これは、スキーター・デイヴィスの原作で選びました。たぶん父はこの原作も聴いたことがあったし、リアルタイムでラジオとかで耳にしていたはず。

Yes My Love / Eikichi Yazawa
サビがになると単調でコードとメロディが同時に鳴る。この不思議な感覚が妙に耳に残る。「矢沢はバラッドがいいんだから」は父の口癖だった。

Moonlight in Vermont / Willie Nelson
藤原ヒロシさんのレコメンドで知った『STARDUST』というウィリー・ネルソンのLPは、よく家でかけていた。彼が好きな曲もたくさん入っていたようで。今回は僕はコレで。

Close to You / Haruomi Hosono
父にとって、細野晴臣=テクノで。このようなカントリーやアンビエントを通過しつつ、アメリカの古きよき世界を描く細野晴臣の世界に晩年惹かれている様子があった。

Like a Rolling Stone / Bob Dylan
ボブ・ディランの中で、僕が一番好きということもあるのだけれど、彼はこの曲がドーナツ盤に入っていたときの衝撃が大きかったことを僕に話したことがあった。

I’ll See You in My Dreams / Joe Brown
ジョージ・ハリスンのメモリアルコンサートの最後を飾った曲だけれど、いつかまた夢の世界で会いましょうは、『夢で逢えたら』しかり、定番なフレーズながら、なにか心が惹かれるものがある。

いつの日か [New Recording Version] / Eikichi Yazawa
「いつの日かもう一度会おう」この歌詞を、彼が大好きだった矢沢永吉が歌うのだから、フィナーレはこれ以外に考えられない。

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