11.11 くつしたの日
変化に弱い生き物が、くつしたを履いて宿を出た。
勇気が出るようにとチェックアウトの際にもらった姫りんごは、門をくぐる頃には食べ終えてしまった。
変化に弱い生き物は、ズボンの裾をあげてペアのくつしたをまじまじと眺めた。
真っ赤に大きな白い水玉のくつしただ。
扉を開けに行くにはおあつらえむきのくつしただ。
変化に弱い生き物は、さくばん涙で枕を濡らした。
「変わるのがこわい。変わるのがこわい。でも、とうとうこの日が来てしまった。どうか無事に扉をくぐれますように。弾けて飛んだりしませんように」
この姿での最後の夜は、恐れであまり眠れなかった。
変化に弱い生き物は、自分の意思でとぼとぼと歩きだした。
「もうこの姿とはおさらばだ。まったく新しい自分になるのだ。願わくば今の僕の記憶もありますように」
真っ赤に大きな白い水玉のくつしたが右に左に揺れながら少しずつ前に進む。
扉を見つけて、新しい生き物になる。
変化に弱い生き物に、羽化の季節がやってきたのだ。
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