5.1 スズランの日・扇の日
五月の空に白鳥が舞う。
連なって東へ向かう姿は、まるで鈴蘭のように可憐である。
「しらとりは、かなしからずや…」
うろ覚えの一句を口ずさみ、我は白絹の衣を纏って白砂の上に降り立つ。
見物人は幾百もある。
白粉で塗った顔は動かさず、ほっそりと引いた眉を少し上げて見物人を見回す。
「しらとりは、」
空を行く白鳥の鳴くキヨ、キヨ、という声が我に降る。
静まり返った舞台に息を飲む幾百。
我はキヨ、キヨ、を受け取るように扇を開いて空を掬った。
それ合図かとヒュードロと、楽の部隊が騒ぎだす。
我の身体はその音色、操られるように楽につられて舞を舞う。
扇ひらめき絹ひらめき、見物人がどよめき波打つ。
キヨ、キヨ、は飲み込まれ人いきれの渦のなか消える。
操り人形のごとく壊れるまで舞う我と、血走った眼の幾百を、嘲笑うかのごとく純白の鈴蘭の群れが遠ざかる夕景。
「しらとりは、」
どうぞご無事で、穢れなきよう。
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