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1.18 118番の日

空から信号が送られてきた。

《118,118…118,,,,,》
それが何の合図か分からずに
俺は真っ暗闇の海の上に浮かぶ舟で寝転んでいる。
ここがどこなのか。
流れているのか
留まっているのか。
何も分からない。
聞こえるのはただ
波音と自らの心音ばかり。

俺の舟はどこへ向かうのか。
どこかへ辿り着く前に
俺の命の火が消えてしまうのだろうか。

目的地は特に無い。
無いからどこへも行けぬのだ
自業自得だと言う者もいるが
目的地がなければ
俺はどこにだって行けるのだと
そう言って舟を漕ぎだした。

暗い海の底へ意識を潜らせていく。
闇夜の暗さを溶かしたような重い海水は水圧以上に俺の意識を圧迫する。
四十メートルも潜れば光は届かず
しかし見たこともないような
おぞましい姿の魚が俺の意識の前を通る気配がする。
食べられまいか。食べられまいか。

水圧に押されて俺の意識は底へ底へと吸い込まれるように落下していく。
もはや浮き上がる力はない。

《118…118..118,》
もう舟の姿は見えない。
俺の実体は舟の上で意識を失ったままである。

それでもなお
空からは絶えず信号が送られてくる。
《118,118………118》

最後の頼みの綱として
俺はこの暗号の解読に入ろうとしたが
重すぎる圧に耐えられなくなった意識が
最後の酸素を手放して泡のように弾けた。

生まれた泡は
海面か暗号の主かを目指して
ダイヤの粒が遊ぶように群れながら
《118,118…》と暗い海をまっすぐに泳いでいった。

1.18 118番の日
#小説 #118番の日 #海 #JAM365 #日めくりノベル

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