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10.15 きのこの日・人形の日

紫色と赤ワイン色のフェルト、それに白い厚紙で作るきのこの人形。
驚くことにネット販売のこれが流行りに流行り、売れに売れた。
匿名の女子高生が作るきのこ人形は、製作過程のすべてがネット動画にアップされる。
紫色のフェルトを発酵して柔らかく膨らんだパン生地くらいのふっくらした形に切って、紫に銀のラメ入りの糸で二枚のフェルトを合わせる。
軸になる白い厚紙には、女子高生からのメッセージが油性ペンでひとつずつ書かれる。
(眠い、とかだるい、というのはハズレで、たまに愛の言葉が書かれているのがアタリというわけだ)
きのこのかさに薄紫の綿を詰めて、厚紙ごと口を閉じてきのこの形にして完成だ。
赤ワイン色のフェルトは、発酵したパン生地の端を幼児が面白がって伸ばして、UFOみたいにした形で後は紫きのこと以下同文という感じである。
匿名の女子高生は、一本の動画の中で百に近いきのこ人形を次々生み出す。
閲覧者は、ただその作業動画を眺める。そして、女子高生が書く独特の歪んだ文字のメッセージを記憶する。
きのこ人形を手に入れた者は、動画に映っていたどのきのこ人形が自分の元に届いたかを確認して楽しむという。
匿名の女子高生は、きのこ人形の売り上げと動画の広告収入でまたフェルト生地と厚紙を買い、そしてまたきのこ人形を生み出す。
たまにスパンコールやビーズを縫い付けたものを気まぐれに作ると、それはマニアの間で高値で取り引きされた。
きっと匿名の女子高生は大学へ進学して匿名の女子大生となるのだろう。
そして匿名の会社員となり、きのこの人形に囲まれながら暮らしていくのだろう。
その頃は、もう彼女は億万長者かもしれない。

そんなネット上の記事を読んで首を傾げる私がひとり。
おかしな世の中は加速度的におかしくなっているようだ。
そもそもその匿名の女子高生は本当に女子高生なのだと誰が証明出来るのか。
スマートフォンをスリープモードにして、私は風呂に入ることにした。

10.15 きのこの日、人形の日
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