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ふたつの旅

2022年にアーティゾン美術館で開催された展示に、
「ふたつの旅 青木繁×坂本繁二郎」
というものがありました。

私にとっては、人生で1番大切にしたいと思える展示で、何度も何度も足繁く通いました。

何がそこまで私を惹きつけたのか?
展覧会が開催されていた夏はちょうど体調のすぐれない時期で、毎日鉛のような体を持て余し泣いていました。
そのような中、なんとか足を運べたから特別なのでしょうか?
自分が沈んでいたからこそ、絵が一層美しく思えたのでしょうか?

…とその前に、この展覧会について、少し紹介をしたいと思います。
青木繁は夭折の画家で、炎のように命を燃やしこの世を去っていった天才画家です。
彼の絵は、深く人間の奥深いところを匙で抉って取り出したかのような強さを感じます。
一方坂本繁二郎は87歳まで生き晩年は柔らかな筆致で日常をコツコツと描いていきました。彼の絵は、鑑賞者の心を穏やかに包み込むような、温もりと暖かさを感じます。
このような同郷の彼らが2人が、正反対の画家人生を送っていく過程の比較を行った展覧会でした。 
 

青木繁絶筆の『朝日』と、坂本繁二郎晩年の月を描いた作品の数々との対比は美しいものでした。
人は老いると月を愛でるようになる、と花鳥風月には本来の意味に加えて俗説も生まれていますが
まさに繁二郎の絵に表れた月に向ける視線は、この世のその先を見通してるかのようでした。
一方青木繁が写し取った朝日は、生命の漲りをそのまま絵にのせたような感覚がありました。
ああ、自分は生きているんだと感じさせられる迫力があります。

力を込めて生きその鮮やかさを感じること、静かに生きその素晴らしさを感じること
その2つが共存するからこそ、心に残る展覧会となったのだと思います。
生きるとは?生きるとは?生きるとは?
2人の絵は、混沌とした私の頭の中に優しく差し込む夕日のようでした。

あの日、体を無理にでも動かして展覧会を訪れたのは
何か2人の優しい力が
支えてくれていたのなら嬉しいなぁ
なんて考えてしまいます。

今日も、眩しい朝日が窓から差し込んでいます。
彼等なら、どのようにこの光を切り取ったのでしょうか。
私も日常の美しさを切り取りながら生きていきたいものです。

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