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青海三丁目 地先の肖像「地図を描く」

2020.04 | 森藤

埋め立てられてできた、まだ何もない土地。
そこには静かな木々と空き地が広がっていた。

東京の中でも近くて遠い場所。
そこへどのように触れるかを考えていた。

桜が散り、日差しが徐々に強くなる頃、新型コロナの猛威が列島に広がり、東京はついに緊急事態宣言が発令された。窓から見やる天気は穏やかなのに、連日跳ね上がる感染者、報道するニュース番組、そういったものに気持ちは灰色に塗りつぶされて少しの息苦しさを感じていた。この文章は2021年になってから記しており多少俯瞰的になったのだが、当時は得体の知れない感染力にみなが恐怖していた頃だ。

毎週末のようにどこかしらへ飛んで回っていた生活から一変し、「どこにも行かない」生活の中で、青海の地先を思うと、なんだか捉えどころのない夢だったようで、その場所の記憶が、感触が、端から崩れていく感覚だった。それを繋ぎ止めたい思いで、歩いた場所を、島を、淡々と描き起こすことをし始めたのだと思う。

以前より、いくつかのプロジェクトで地図を描くことはしてきていたが、言語化をあえてするなら、描いている時間はその場所に留まれるのが良い。生い茂る草木や路上の砂や作られた建物が、景色としてみたときには認識されなかった一つ一つやその背景が、描くことで実感を伴うのである。水の中にどぷんと沈み込み、どれだけ息を止めて潜っていられるか、そこから何が見渡せるのか、そんな感覚に近い。

この青海地先に関しては、絶えず姿は変わっていく。今描き取っている風景は1年もしないうちに消失して、あるいは変化してしまう。それもこの謎の行為に向かわせた理由の一つかも知れない。それは、生き物の一瞬の姿を描くようで、その瞬間の肖像画として残っていくものだ。

この地は今、東京の片隅で新陳代謝している。

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補足
2020年4月7日~5月6日 東京緊急事態宣言

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