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民藝コレクション北村恵子

ART 世界の民藝と同居する暮らし──テリー・エリスと北村恵子の自宅訪問By 松原麻理 2024年5月13日 GQ
東京・世田谷美術館で開催中の展覧会「民藝 MINGEI──美は暮らしのなかにある」の展示に関わっているテリー・エリスと北村恵子。「MOGI Folk Art」のディレクターである2人に民藝に囲まれた暮らしの魅力について尋ねた。

「本来の北欧家具は彼らの生活空間に合わせてあるから大柄なものが多く、でも上質で格好いいもの。僕らはそういう家具に惹かれていたけれど、日本ではいつの間にか繊細さや可愛らしい面が人気の北欧ブームに変わっていったんだ。その傾向と僕らが選ぶものはベクトルが違っていたからね」(エリス)

同時に日本のものづくりにも目を向け始めた時、プロダクトデザイナーの柳宗理と知り合ったことが、一つのターニングポイントとなった。

「ヘルシンキの友人の家を訪ねると濱田庄司の皿が飾ってあったり、柳さんの事務所には交流のあったカイ・フランクのグラスがたくさん置いてあったり。世界中のものをミックスして楽しんでいるセンスのいい人たちのお宅をたくさん見て、それが勉強になりました」(北村)

上右:ボックスシェルフの上段に収められているのは益子焼の作家・設楽洋子の作品。


北村恵子

柳宗理の父、柳宗悦は民藝運動の祖。名もなき職人の手によって生み出された日常の器や生活道具に美を見出すというその思想に心を打たれて、2人は沖縄、島根、鳥取、大分などやきものの産地を巡るようになった。
地域に根ざした伝統的なものづくりの素晴らしさを、日本の手仕事や北欧の新旧デザインを扱うビームスのレーベル「フェニカ」で紹介し、作り手を応援してきた。作家ものや工房の職人たちが作る機能的なデザイン、手頃な価格で日常使いできる食器などが若者たちの心をつかみ、民藝は広く受け入れられるようになった。そんな民藝回帰の傾向がさらに世界に波及していった。

「ロンドンのペース・ギャラリーが2013年に開催した企画展「Mingei:Are You Here?」がきっかけでした。
その時、私たちも頼まれてコレクションからいくつか民藝のものを貸し出しました。民藝もアートの文脈に入れられるのではないかという考えが、ペースのような現代アートのメガギャラリー側に芽生えてきたのです。それがここ10年ぐらいの変化でしょうか」(エリス)

しかしエリスと北村の2人は、そうした時代の隆盛とは関係なく、とにかく好きなものを集めてきたと語る。

「私たちは直感でものを買うので、それが北欧ものなのか、日本で作られたものなのか、後から知ることも多いです。棚にはフィンランドのガラスの花瓶とスウェーデンの壺と沖縄の骨壷が隣同士に並んでいるんですよ」(北村)

「昔はシャルロット・ペリアンやジャン・プルーヴェなど、1940〜50年代のフランスの家具が好きでたくさん持っていたけれど、ロンドンから日本へ引っ越す時にいくつか手放して、現代アーティストの絵画にも興味を持つようになりました。特に日本人やブラックアーティストを中心にね」(エリス)

上左:染色工芸家であり民藝運動の推進者、芹沢銈介の屏風は昨年入手。背負子の背当て「バンドリ」が描かれている。手前左はコートジボワール・セヌフォ族が成人の儀式で担いで歩く鳥の木彫。イヴ・サンローランもコレクションした。

30年前に分割払いで購入したイタリアのコンセプチュアル・アーティスト、アリギエロ・ボエッティの平面作品と、五木田智央のアクリル画、大和田良の静物写真が同じ壁にかかり、何の違和感もなく調和している。その下にはアフリカのプリミティブなマスク。時代も国もジャンルも違うものを取り合わせてあるが、ものを選ぶ時の基準はあるのだろうか?

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「ノウハウはないです。私たちは計画的にコレクションしているわけでなく、オークションにたまたま出品されたものを買うこともあります。この間も、美術館に収蔵されてもおかしくない芹沢銈介の屏風がオークションに出ていて、幸運にも購入することができました。時には背伸びする金額のものでも、生活に取り入れてみることですね。使ってみて、やっぱりインテリアと合わなかったなと後悔することもあります。過去にいっぱい失敗しましたが、その積み重ねでだんだんもの選びができるようになってきたと思います」(北村)

「あえて言うなら、しょっちゅうものを動かして、並べ替えてみることがコツかな。窓際にあったものを棚の中のものと入れ替えたり、組み合わせを変えたり。エクササイズのように繰り返していると、だんだん部屋の中にいい眺めのコーナーが見えてきます。その時、パーフェクトは狙っちゃいけない。“Too good”な感じになるのは嫌なんだ。格好良すぎるのは、逆に格好悪いと思っていて(笑)」(エリス)

「計算されすぎているのが嫌なんです。『あれ、何だこれ?』とちょっと立ち止まって考えてもらえるようなインテリアだと面白い。少しの違和感を感じさせるようなものの取り合わせを意識するようにしています」(北村)

上右:収納に付いていた扉を取り外し、オープンシェルフに。沖縄、益子、丹波篠山などさまざまな産地の壺や皿が並ぶが、不思議と調和する。

北村恵子
1986年よりテリー・エリスと共にビームス ロンドンオフィスにてバイイングを担当。1994年に「ビームス モダンリビング」 を立ち上げ、北欧のデザイナーズ家具や柳宗理のバタフライスツールなどを紹介しモダンデザインブームの先駆けに。2003年「フェニカ」スタート。

テリー・エリス
1962年ジャマイカで生まれロンドンで育つ。1980年代半ばに出会った北村恵子とビームスのバイヤーに。2022年に独立、北村と共に初めて器や民藝品、古着を扱うショップ「MOGI Folk Art」を、20年前からレコード屋や古着屋通いでなじみ深い東京・高円寺に開いた。

PHOTOGRAPHS BY KEISUKE FUKAMIZU
WORDS BY MARI MATSUBARA
EDITED BY KEITA TAKADA(GQ)


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