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名声と経済に飲まれるZ世代への責任

経済学者タイラー・コーエン x 社会心理学者ジョナサン・ハイトが激論

「いま子供たちはスマホという名の『体験ブロッカー』上にいる」 クーリエ・ジャポン
https://courrier.jp/news/archives/368925/ 5min2024.7.4
カンバセーションズ・ウィズ・タイラー(米国)Talk by Tyler Cowen and Jonathan Haidt

経済学者のタイラー・コーエンは、自身のポッドキャスト番組に社会心理学者のジョナサン・ハイトを招き、悪化が懸念される子供たちのメンタルヘルスについて議論を交わした。

親の政治的信条が子供に与える影響はあるのか、SNSに人類が適応するのは可能なのか──などコーエンが投げかける話題は多岐に渡る。

米国を代表する知性二人による刺激的な対話から見えてくる私たちの未来とは?

タイラー・コーエン×ジョナサン・ハイト 「スマホ時代の子供たち」1 2

右派の家庭の子供たちのほうが幸せ?

タイラー・コーエン(以下コーエン): あなたが上梓した『不安な世代』(未邦訳)に関連する質問から始めましょう。政治的に左派の親と右派の親、どちらが良い親になるのでしょうか?

ジョナサン・ハイト(以下ハイト): 右派です。保守派のほうがリベラルな人たちよりも幸福度が幾分か高いとするデータは昔からありますが、その理由は子育てによるものなのかどうか、明らかではありませんでした。

しかし本を書き進めるうちに、2012年を境に両者の差が明らかになったのです。理由を簡単に述べると、子供たちが根ざすコミュニティがあれば、彼らはスマホの中の世界に流されることはないということです。

2012年以降、特定の信仰を持たない世俗的な家庭の子供たちのメンタルヘルスに悪化がみられる一方で、信仰の厚い保守派や家庭で育った子供たちにはあまり影響がありませんでした。

パンデミックで人々が二極化した理由

コーエン: パンデミックを振り返ると、左派の人たちはマスク着用やソーシャル・ディスタンスに腐心していましたね。

ハイト: 保守派はおおむね宗教的であり、物事に非物質的な性質を見出す傾向があります。たとえば、国旗は単なる布切れではないし、十字架は単なる木片でもない。聖書は単なる本ではないと。

一方で、世俗的な人たちは物事を神聖視せず、すべてを疑う傾向にあります。何事にも疑問の余地があると。学者が左派に傾く理由もそれが関係しています。極端な左派はスピリチュアルな存在を信じますが。

右派はパンデミックはウイルスの問題ではなく、政府が国民を管理するかしないかという問題だとみていました。そして、左派が多い医療機関や政府当局を右派は信頼していませんでした。

多くの要因があるものの、こうした理由から当局による経済活動の停止などの命令に従うかどうかについて、人々の行動が二極化したのです。

スマホは「体験ブロッカー」だ

コーエン: あなたの新著に話を移しましょう。あなたは若者たちの過度なスクリーンタイムを懸念しています。なぜAIがこの問題をすぐに解決できないのでしょうか。つまり、AIにネット上のメッセージを読んでもらうなど、ネット上の作業を消化してもらうことでスクリーンタイムを削減できるのではないでしょうか。

ハイト: いや、子供たちがスクリーンを見ていることが問題ではないのです。私が懸念しているのは機会費用の問題です。つまり、ほかの人と対面で交流したり、睡眠をとったり、読書をしたりする時間など、スマホ以外のほかのことをする時間がなくなっているのです。

中略

脳を鍛えるためにも遊ぶ必要があるのです。いま40歳以上の人たちは子供時代にそうしてきました。変質者や飲酒運転者がいまより多かった時代であっても、大人たちに監視されずに遊ぶ時間が子供にはあったのです。子供を家の中で閉じ込めておくことはありませんでした。

ですが、いまはそうしています。昔に比べてずっと安全な時代になったのにもかかわらずです。スクリーンの問題は「非常に魅力的なこと」です。社会が子供の誘拐に怯えていた80年代から90年代にかけて、徐々にデジタルデバイスが登場し、バーチャルの世界が開かれました。

この本の論点は、遊びを中心とした子供時代を私たちは失ってしまったということです。問題は私たちがスマホという「体験ブロッカー」上にいることなのです。

AIが突然、子供たちを遊び中心の子供時代に戻すわけではありません。バーチャルな子供時代がさらに進化するだけでしょう。

世界の賢人の視点_ジョナサンハイトが語るスマホ依存

ジョナサン・ハイト「スマホに支配された子供時代を終わらせるべきだ」

コーエン: スクリーンタイムが子供たちを惨めにしているなら、なぜ新しいAIの力で減らさないのですか

ハイト: それは私が社会心理学者であり、構造的に考えるためです。学生たちはSNSに莫大な時間を費やしていますがなぜやめないのかと言うと、それが集団行動の問題だからです。

私はニューヨーク大学でクラスを教えており、多くの生徒がSNSだけで1日4時間から6時間もコンテンツを消費しています。「やめたらどうですか?」と聞いても、彼らは「みんなが使っているから、やめたら取り残される。みんなが何を話しているのかわからなくなる」と答えます。

大学生を対象としたシカゴ大学の研究では、周りの人たちがTikTokやInstagramを使い続けるなかで自分だけが使用をやめるとしたら、どれだけの報酬が必要かを尋ねました。学生たちが提示したのは50ドル程度でした。

質問を変えて「もし自らを含め、学校の人たちもSNSをやめるとしたらどうか?」と尋ねると、ほとんどの生徒はSNSから解放されるために自分が支払うと答えたのです。

「SNSの発明がなかったほうがよかったですか?」と尋ねると、大多数が「はい」と答えました。繰り返しですが、子供たちは罠にはまっており、AIは罠から解放することはありません。それは罠をより魅力的にするだけです。

学校閉鎖と幸福度の関係

コーエン: 本では遊びや対面交流の重要性を強調していますね。しかし、パンデミック時のロックダウンが若者の幸福度にほとんど影響を与えなかったというデータもあります。これは、対面交流がそれほど重要ではないことを示す証拠ではありませんか?

ハイト: いいえ、違います。2019年を迎える前から、若者たちはすでにソーシャル・ディスタンスをとって過ごしていたのです。米国の時間利用調査によれば、友人と過ごす時間は急激に減少し続けています。2019年から2020年のパンデミック期間中も、この傾向は続いていました

コーエン: 学校が閉鎖されると、友人との時間が大幅に減少するはずですが。

ハイト: その通りですが、まず第一に、時間利用研究では学校での時間を友人との時間とはみなしていません。また、スマートフォンの普及によって学校でも友人との交流が減少しています。

コーエン: それでも、学校閉鎖は子供たちがお互いと顔を合わせる時間が少なくなるという点で、自然

実験になったのではなかったのですか?

ハイト: はい。しかしそもそも学校が子供にとって幸福な場所であるとは限らないのです。特に、米国の学校はうつ病を引き起こす要因があるとされています。自殺率が夏休みに大幅に下がることは指摘されています。学校が始まると、自殺率が上がるのです。

学校が子供たちを幸せにしているわけではなく、学校から解放されると状況が大きく変わります。学校がないときには友人と会う機会が増える子もいますが、近所に友達がいなくて、兄弟姉妹がいなければ孤立する子もいます。色々な要素が絡んでいますから、パンデミックを実験とは呼び難いのです(続く)。

続編でもコーエンとハイトの激論は続く。

コーエンは下記のような質問を投げかけた──。

「スマートフォンやSNSを含め、どんな問題でも『人類は適応できる』と考えるべきではないでしょうか? 

私たちは狩猟採集社会から農業へ、火を使うことへ、都市化へと適応してきたではありませんか。徐々に適応していけば中期的にはスマホの恩恵を授かるのでは?」

タイラー・コーエン×ジョナサン・ハイト 「スマホ時代の子供たち」(全2回)

名声経済に飲まれるZ世代

ジョナサン・ハイト(以下ハイト): 私の学生と話していると、Z世代の人たちはオンライン上の人間関係を維持するために毎日何時間も費やしています。これが彼らの生活の大部分を占めており、ほかのことに注意を向ける余裕がほとんどありません。

30歳未満で多大なインパクトをもたらしたインターネット界の人物がいないことはOpenAIのCEOサム・アルトマンも指摘しています。

しかし、あなたはZ世代がもっとも創造的で生産的な世代だと語っていましたよね。誰かZ世代で世界に大きな影響を与えた人たちを挙げられますか?

タイラー・コーエン(以下コーエン): 最初に言っておきたいのは、チェスのようにパフォーマンスを測定しやすい分野では、若い人たちが以前よりも優れた成績を収めているということです。SNSは、若い女性のチェスプレイヤーをダメにしてはいません。彼らは常に向上しています。

ハイト: それは理解できますが、Z世代はSNS内の名声経済のブラックホールに多くの努力を注いでいます。ユーチューバーのMrBeastもZ世代の人ですが、名声経済のなかで「いいね」やフォロワー数がすべてだと、彼が証明しているのではないでしょうか。

しかし、その名声経済の世界から私たちが生きている世界に影響を与えるものは何も生まれません。

タイラー・コーエン
タイラー・コーエン 1962年生まれ。ジョージ・メイソン大学経済学部教授。ハーバード大学にて博士号を取得。英誌「エコノミスト」による「過去10年間で最も影響力のある経済学者」、米誌「フォーリン・ポリシー」による「世界の思想家トップ100」に選ばれる。『大停滞』、『大格差』(共にNTT出版)『創造的破壊』(作品社)など著書多数。


ジョナサン・ハイト
ジョナサン・ハイト 1963年、米国生まれ。社会心理学者。バージニア大学准教授を経て、ニューヨーク大学スターンビジネススクール教授。 2001年にポジティブ心理学テンプルトン賞を受賞。著書に『社会はなぜ左と右にわかれるのか』など。


 

世界の難問「スマホ依存警鐘」の問題の数々 (私の提言コメント)

今日の時事英語 Chummy チャミー 
2024年7月9日(火)の「CNN」に次の一文がありました。
The optics of Vladimir Putin personally driving Indian Prime Minister Narendra Modi around in a mini electric car at his residence show just how chummy the two leaders have become.
訳 インドのナレンドラ・モディ首相を彼の邸宅でミニ電気自動車に乗せて運転する様子は、両首脳の仲の良さを物語っている。 引用クーリエジャポン

そんな場合にも使う、という例題ですが日本語に相当するその「Chummy 」は見当たりません。敢えて「可愛い」という程度でしょう。いや本筋と無関係ですから、拘りませんが、本題のスマホ事情は、日本に限らず、世界の難問テーマのようです。
最近判ってきたのは、西側論理の排他的レクチャーロジックで、自分に都合の悪い要素の排除(EV車で展開したトヨタ潰し)に近似していると思いました。また、それを「功を奏しない場合」のミステイクが矢継早にいま表面化している、ということだと分析しました。

それで思い出すのが70年前の「ビートルズ」出現のイノベーションでした。当時、不良音楽だといわれ、ギターがその代名詞でした。それが今では「地球を救う」救世主音楽と世界のヒーローです。

はたして今世界制覇しているスマホが、2030年までに進化か衰退なのか、それを決めるのはゼットとそしてアルファ世代ですから、団塊世代がはるか彼方で遠吠えしたところで異次元までに届くはなしではありません。







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