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香りを残さず立ち去る仕事

美容院で髪を切ってもらった直後ってなんか違和感ありますよね。

慣れなのか、馴染みの問題なのか、ピアノの調律でも同じことが起こってるんだろうなと思います。

調律師としては調律直後はピアノがピシッと揃ってベストな状態のつもりですが、必ずしも弾き手も同じように感じてはいないはずです。もちろん特有の隙のない良さがありますが、「調律直後の秩序立った状態よりも少し狂い始めたくらいの方が好き」と言う方も多いのではないのでしょうか。

でもこれは良いことだと捉えていて、直後よりもその後の時間の方がはるかに長いことを考えると、むしろあるべき形だと思っています。

美容院にも、ピアノの調律にも、庭の剪定にもある“直後の違和感”はおそらく、少なからず残ってしまう技術者の気配。

調律師のコントロール下から離れた後もどれだけ長い期間快適に弾いてもらえるか。調律を自分の「作品」だと誤解しないためにも気配がいつまでも残らないように気をつけたいです。

先日調律したピアノは、記録を見ると前任の調律師が長い期間担当されていました。隅々まで手を入れられてるのに、その前任者の気配がしない。冷静で、裏方同士でわかる程度の情報だけを感じられるピアノに仕上がっていました。

「誰かの手が入っているのは感じるけど残り香のしない」こう言う仕事を目指していきたいなと思います。

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