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オタクが理想を描き、プロが形にする

NHKのシン・仮面ライダーのドキュメンタリーを観ました。

SNSではパワハラとも取れる庵野監督の傍若無人ぶりと無意味にそれに振り回されるスタッフ&報われない演者と言う形で話題でしたが、僕は全くそうは感じませんでした。

あえてオタクを貫いた庵野監督

確かに現場は庵野監督 vs 他のスタッフと言う構図になっています(とは言っても編集による意図はかなり感じますが)庵野監督はこの映画では徹底的に仮面ライダーオタクとしての立ち位置を貫いただけに感じました。

「オタク目線」ってコスパ度外視で最高のものを追求したい、たとえ刹那的だとしても。と言うものだと思います。対して「プロ目線」では再現性や永続性も考慮しつつ、限られたコストの中で最高のものを実現したい。

この2つの立場って「最高のもの」という同じ目標であるにも関わらず、なかなか相容れないものなんですよね。

あわや怪我をしそうになってまで撮影したシーンを丸々カットしたり、代案無しでダメ出しをして現場の空気が悪くなることも顧みない、オタク・庵野監督。それをなんとか作品として成立させようとするプロのスタッフと役者。その掛け合わせであの熱量のある作品になったんだと思います。

作品自体も公開初日に観に行きました

すべての仕事は作品づくりなのかもしれない

ピアノの所有者とピアノ調律師もそんな立ち位置が理想なんじゃないか?と思うときがあります。

実際にお客さまで、自分でピアノを一部改造してより理想とされる形に仕上げている方がいます。「確かに音だけ考えればこうなっていると良いよね」という改造なんですが、メンテナンス性が著しく落ちて、ピアノの安定性が損なわれる状態になってしまっています。

言うなればピアノオタクとしての無茶な想いです。でも調律師がその想いをプロとして現実的な形で完成させることができれば、こんなに素晴らしいことは無いんじゃないかと思います。

番組の中ではそれまでダメ出しをされ続けて険悪になっていたアクション監督が、クライマックスの撮影で降板直前まで行ったところで庵野監督も歩み寄って和解。そのときにアクション監督が言った言葉「…お手伝いします」がものすごく印象的でした。

オタクの夢を叶えるのがプロの使命

オタクって、なにかに極端に熱量を持っている一部の人と捉えられがちですが、そう言う意味ではすべてのサービスを受ける側は、少なからず「自分の人生」に対するオタクとも言えるのかもしれません。

プロ目線ってある意味「保守的」とも「妥協」とも言いかえることができます。なのでオタクであるべきユーザー側がプロ目線を持ってしまうと熱量が無くなりますし、逆にプロがのめり込み過ぎて一緒にオタクになってはいけないんだと思います。

シン・仮面ライダーで庵野監督が監督と言う立場でありながら「最前列のお客さん」で居続けられたのは、まわりを最高のプロフェッショナルだと信頼したからこそできたことだったのではないでしょうか。

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