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むらさきのスカートの女 今村夏子

「あぁ、、こういうの、あるよなあー、、」と思わせる天才かなと思う、今村夏子さん。

今回も、気味が悪い、しかし気味が悪いと言うのは何だかいけないことな気がする、(だって誰の周りにもこういう人いるしorいたことあるし…)みたいな。気味悪がっちゃいけないよあんた、それ失礼だよ、いいの?みたいな絶妙なラインを、よくもあんなリアルに、、短い文章で、、みたいな。

読む人が持ってる「別にトラウマでも何でもないけれど、何となくこのままずっと思い出したくなかった」みたいな記憶を、鮮明なままに引っ張り出してくる天才、とも言える。少なくとも私(読者)にとっては。

以下、各登場人物への感想です。
(ネタバレ込み込みです)

むらさきのスカートの女。なんだかんだ普通に素敵な女性だったみたいですね。挨拶ができるようになった途端周りからポンポン受け入れられていって。子どもと仲良くなるのも上手だし、上司への受け答えも、お仕事の要領掴むのも、難なくこなしています。実家との繋がりもあるみたいだし。不倫模様も、まぁよくありそうなヤツです。

黄色いカーディガンの女。とても、とても孤独なんでしょうね。そして多分、友達どころか家族とのつながりももうない。職場の人からも空気扱いされている。空気だからこそ、語り手としての役目も真っ当できてしまっているというのが、この作品の面白いところです。そしてそう、本作の中で1番不気味な動きをしています。その常識外れした執着から見える、勝手な同調、思い込みの激しさ、変な自意識過剰さ、、長年染み込ませた孤独の塊が、熟成され発酵までされてしまっているのではないか、というくらいの域です。

客室清掃のチーフ達。いるいる。こういう、自分の安心できるテリトリーにいて威張る人。別に悪いことしてるわけじゃないんだけど、こういった環境における同調圧力の強さが、「日本」の悪いところ集めたみたいで、まぁまぁしんどかったです。全然違う話ですが、老人ホームでは、強い人が威張って弱い人がいじめられるらしい。もう、産まれてから死ぬまでずっとそんな社会じゃん、、とガッカリしたのを思い出しました。自分の意見を持たない人も、持っていても家で旦那にしか愚痴れないような人も、集団の価値観こそが正義だと思ってる人も、頭おかしいのにな。早く気付いてくれないかな。

所長。昼間から不倫相手を前にベロベロに泥酔し、公園のトイレにゲロを吐く、この1日だけでこの人のキモさ全てが読み取れます。変態だけにとどまらず、自分が悪くなりそうになったら態度をひっくり返すせこさも、まぁコイツなら持っているだろうなと思えるような1日です。この物語の中で、圧倒的に1番「悪いこと」をしてたのはコイツでした。奥さんとの間に、新しい命を宿ったと知ったところで、私は本を投げそうになりました。私利私欲しか考えていないような奴です。こんな人本当にいるんですか?

あぁ、気付いたらめちゃくちゃ悪口になってしまっていた…。なんかこう、絶妙に「めっちゃ嫌」なラインをどんどんぶつけてくるんですよね。この本は、翻訳されて日本の外にも出て行ったみたいですが、同じように共感されるのか、この村社会の奇妙な窮屈さを分かっていただけるのか、疑問に思いました。

すごい本です…。

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