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『アートがビジネスに役立つって、ホント?』 アートが苦手な人でも、上司に説明できる超初心者向け指南書 Vol.1

「なにやらアートをビジネスに応用しようなんて動きがあるんだ」なーんて、確かに関連書籍も増えていて、少しは気になる方もいらっしゃるのではないでしょうか? でも大方は「ウチには関係ないでしょ」だと思いますが、アート好きの僕としては、ちょっともったいないなぁと思うので、超初心者向けに綴ってみたいと思います。大学生〜社会人1、2年目の人たちに向けて。

そもそも私が何者かというと、20年間の企業内デザイナーを経て、独立後、企業にアート導入を進めている立場。学生向けにデザイン思考の授業を9年間、アート、ビジネス本は常に読みあさっております、ハイ。

まぁ 自分には関係ないとは思わないで、実際にビジネスには応用できなくとも、少なくとも美術館に行ってみたくなる内容にしたいと思います。何編かに分けて投稿しますね。

そもそも、なぜアートって注目されてるの?

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なにもアートに限らずなんですが、知っての通り高度成長期は終わり、新たな成長軌道(そもそも成長が必要なの?という問いはあるんですけどね)を模索する中、新しい機軸が求められているというのが、そもそもの背景。

それで、大別するとこんな動きがでてきました。「ダメ元戦略」「そもそも夢持とうぜ戦略」の二つです。

ダメ元戦略! まずは試しにやって、失敗したらやり直せばいいじゃん。(そもそも何が当たるか分かんないんだし...)

前職、富士フイルムにいたんですが、カラーフィルムが儲けの柱で、これは本当にシンプルな事業でよかった。とにかく感度、解像度、使いやすさを上げていくだけで、しっかり儲かっていた。なんと言っても、カラーフィルムは必ず現像所に持っていかないと絵が見られないわけで、富士フイルムは現像所もたくさんつくり、カラーフィルムが売れるたびに儲けが出ていたわけです。

キヤノン、ニコンなどは「ウチらが一生懸命カメラ売って、結局儲かるのはフィルムメーカーなんだよな〜 僕ら彼らを儲けさせるためにやってる?」といったジレンマからキヤノンは、家庭用コピーを安く販売し、あとは消耗品(インクカードリッジ)で儲けるビジネスをやったりたりしました。

さて、人口減も進み、就労人口が減って、女性の活躍が進み、年金支給が伸びて、なんなら70歳くらいまで働かなくちゃいけなくなって、可処分所得者が多様化してきて、当然好みもバラバラになってくるわけです。何が売れるかわかんない状態がどんどん進んでいくわけです。

そうい状況に輪をかけて「デジカメなら現像所行かなくても、すぐに写真がみれていいね!」というのが出てきて、一気に競争環境がガラッと変わってしまって「そもそもカラーフィルム作っているようじゃ、ダメじゃん!」と梯子を外されてしまう状況になってくるわけです。

スマホなんて最たるもので、スマホによって、膨大な商品カテゴリーがガンガン潰されていったわけです。CDプレーヤー、MDプレーヤー、ホームオーディオ、カーナビ、時計、そしてこれからは財布自体もなくなりますよね。

そういう一寸先は闇っ!という状況下で「まずは、スペックあげようぜ」「いいものつくろうぜ!」「やっぱ、なんだかんだ言ってフィルムカメラはいいよね!」では、経営者もとーっても不安になってくるわけです。

そこで、ダメ元戦略です。

「まずは試しにやって、失敗したらやり直せばいいじゃん。そもそも何が当たるか分かんないんだし...」といういい加減な方法を大真面目にやろうという方法論が出てきたんです。

代表的なのが「デザイン思考」「リーンスタートアップ」「VUCA(ブーカ)」古くは「PDCA(Plan Do Check Action」(考えたら、すぐにやって、評価して、次に進もうぜ!)」などなど、それぞれ論旨が異なる面もありますが、大枠は“やっちゃえ日産”スタイルです。

Airbnebなど最たるもので、デザインを学ぶ学生が試しにやってみたのが成功したり、そもそもアマゾンだって、思いついたその日中に動いたのが功を奏したとされたり、シリコンバレー界隈の成功モデルが、結局みんな「即動いて成功してんじゃん! だったら真似しようぜ!」という流れが生まれたわけです。(ただ、これもネット系ビジネスだから成立したんじゃないかという前提があって、どんな業界でも成功するわけじゃないよね、というのが定説です)

さて「デザイン思考」って、なぜデザイン?って思いませんか。シンプルに言うと、デザイナーの思考プロセスが「まずは試しにやってみて、失敗したらやり直せばいいじゃん」という要素を本質的にもっているから。

デザイナーは絵を描きますよね?

これが、「まずは試してみて」に相当します。絵を書くことによって、アイデアが可視化され、誰にでも一眼でアイデアを理解できるようになる。そうすると「イイね!」ってなりますよね。逆に、ちょっと「つまんないね」というのもすぐにわかる。この可視化能力って、デザイナー(もちろん絵を描ける人全般に言える)の根幹の力で、この思考プロセスをビジネスに応用しようとしたんです。

もう20年近く前になりますが、IDEOの「発想する会社!」は僕もエキサイトしてましたね。IDEOが「デザイン思考」を広げた張本人(スタンフォード大もありますけどね)当時、僕自身もデザイナーであることを誇りに感じたものです。

さて富士フイルム時代、僕はこの「デザイン思考」を取り入れた研究者向けワークショップを運営していました。日々、課せられた目標に対して、しっかりと工程管理され業務をこなしている研究者に対して「もう、カラーフィルムつくてる場合じゃないでしょ? 新しいことトライしないとまずくね?」ということで、自由に、柔軟に、さまざまな連携が生まれるような企画を進めていったのですが、、、、これはこれで難しい面もあって、また別の機会にお話ししたいと思います。

そんな感じで「梯子外される前に、新しいこと始めようぜ!」風潮が広がっていったわけです。

さて、やがて、また新しい問題意識が出てきます。

「いやいやデザイン思考やってみたけど、なんか使えないアイデアばかりで、ぜんぜん成果が生まれなんですけど〜っ!」という不満が現場からでてきたわけです。(もちろん、そういうふうになるのは、適切にデザイン思考が導入されていないというのが定説ですが....)

そうこうしている内に、ピーター・ティールのように「結局、空飛ぶクルマとかさ、突拍子がなくても、ガーンと社会を変えちゃうようなパッションがないとダメじゃね?」という説が出てきたり、イーロン・マスクが経営するテスラやスペースXのように「自動車やロケット作るの、かなーり大変じゃん。トヨタやNASAに勝てるわけないでしょ。でも、やりきっちゃうパッションがあれば、不可能ってないかもしれないよね」のように、「試しに作ってみる」という方法論に終始していた論調から「そもそも、強烈な意思がないと、何事も達成できないんじゃね?」という論調に変わってきたわけです。

そこで、出てきたのが「アート思考」なんです。

そもそも、自分自身に夢(Vision)がないと、何やっても悩むだけじゃん!夢を持とうぜ!

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きっかけは、山口周さんの著書「世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?~経営における「アート」と「サイエンス」~ 」でしょうか。

気持ちいいくらいスパッスパッと現代の課題をあぶりだすんですが、その中で「美意識」という言葉をつかっています。さて「美意識」って、かなり個人的な好みですよね。「僕は好きだけど、君は嫌い」という世界が許容される感覚。それを踏まえて「結局ビジネスって、こういう好み(美意識)をはっきりさせた方が、結果的にうまくいくんじゃね?」というのが大枠の論旨です。

そうすると、そういう成功事例が雨後の筍のようにどんどんでてきて(いわゆる書籍ビジネスもあえて流行に乗っかり、意図的に流行を作るビジネスですからね)結局、今までのビジネスの歴史を紐解くと「おれの好みはこれじゃ!」をはっきりさせた事例がうまくいってるんじゃね? スティーブ・ジョブスも、結構自分の好みを押し通していたし...などなど。

まあ”好み”というと少々語弊もありますので、夢といいましょうか、ビジョン(未来像)といいましょうか、少し視座をあげたような”意志”として捉えてください。

さて「アート思考」を体現? しているであろうアーティストの思考ってどうなっていると思いますか?

例えば、まったく役にたつかどうかわからないけど、自分の気持ち(=美意識)に正直に絵を描いたり、「芸術は爆発だ!」(岡本太郎)のように独自の考え方を発表したり、まずやって試すってことはデザイン思考と似ているんだけど、「そもそも何を作るか」を常にアーティストは考えているわけです。

まぁ 売れっ子のアーティストは、いわば売れるための戦略があって、勝手に評価されて売れていくっていうのは稀で、ほとんどがある意図があったりするのですが、それはまた別の機会に。

そして、こうした思考が「デザイン思考」に対するアンチテーゼとしても、うまく機能したんです。出版ビジネス的に💦

「デザイン思考」って、少なくとも検討する対象が必要なんです。そもそも電話なのか? クルマなのか?、オーディオなのか?、そういう対象があって、それに対する改良をどううまく作っていくか?という思考であって(大雑把には、ですよ)だとすると、前出のカラーフィルムの二の舞になるんじゃね?という心配がでてくるわけです。

だって、ガラケー作っている時代に、スマホって全く新しいカテゴリーって、日本のメーカーも技術的にはできるってわかってたけど「やっぱ、カチャカチャ折りたためないと、売れないんじゃね?」という常識に支配されていたわけで。

有名なエピソードが自動車を一気に普及させたヘンリーフォード。まだ馬車が全盛のころに「あなたは移動する上で、どんな困りごとがありますか?」って周りに聞くと「やっぱ、早い馬車でしょう!」「飯をあまり食わない馬もいいね」など、一般の人は馬車についての意見しか出てこない。自動車なんて、この世にないものなんて発想しようがないわけです。

デザイン思考は、あくまで手法としての捉え方をされていて、スマホのような全く新しいカテゴリーを生み出すためには「もう今のお客さんがなんと言おうと、そんなの使いものになる?って非難轟々あろうとも、夢やビジョンをもってやろうぜ!」という意志が必要で、そういう思考を体現できるものとして、アート思考なるものが登場してきたわけです。

さて、ビジネスにおけるアート思考の導入、今、いろんなバリエーションが出ています。大きく大別すると、以下のようなイメージでしょうか。

(1)オフィスにアートを飾る系

・アートがオフィスにあると、入社希望者が増えてきたんですよ!

・アートがオフィスにあると、社員にも評判がいいんですよ!

(2)アーティストと連携する系

・左脳人間ばっかりじゃなくて、右脳人間のアーティストと一緒にモノづくりしたら、ヒット作が生まれるんですよ!

・アーティストに会社のビジョンをアートにしてもらったら、社員のみんなが会社を好きになってくれたんですよ!

(3)アートを鑑賞する系

・アートを見て、自由に意見を言い合ったら、同僚のことが好きになっちゃったんですよ!

・アートを見て、自由に意見を言うのって、上司とお話しやすくていいじゃん。普段からこんな感じで話ができたらいいのにな〜

と、今回はここまでにします。Vol.2では、上記アート導入のそれぞれの方法論について、説明していきますね。お疲れ様でした!


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