鈴を持つ者たちの音色 第五話 ”α”-ブルー③
GO(豪)はハッと飛び起きた。
GO(豪):「君はだれ?…こんなところに人が‥。何でここにいるんだ?」
ゲイン:「あぁ…。KNOCK…。良かったぁ‥無事だったのね。。」
巡回員ブルー:「おお。KNOCK…君は本当にKNOCKなのかい?僕らはゲインに頼まれて君を探しに来たんだ。よかったよかった。見つかった。」
KNOCK:「僕を見つけに?そうなんですか、すいません。僕はすっかり大人の儀式の事は忘れていました。呼ばれるように、ここへ来てしまって。。」
GO(豪):「いったいここはどこなんだ?」
KNOCK:「色々調べてみました。最初は憶測でしかなかったのですが、大体わかってきました。
ここは、陸地に一番近く繋がる場所。そしてここには時間が無い、存在しない場所。
私はそう推測しました。」
GO(豪):「時間が存在しない??」
KNOCK:「そうです。まず、陸地に近いという根拠はこの一本の樹木です。”グランドライン”に樹木があるなんておかしい。しかし、ここには樹木がある。それは陸地に近いという証拠なのです。ここは海深い最底”グランドライン”の中な、はず。しかし、こうして生えているんです。
それも枯れない。それは時間が無い、存在しない場所だからなんです。この樹木は背丈が伸びることも大きな葉一枚増えることも、落ちることもなかった。
僕はこの樹木の木陰があるおかげで今まで光から身を守ることができたのです。」
ゲイン:「何も食べたり飲んだりしてないの?」
KNOCK:「そう。僕がいままで飲まず食わずでいられるのも時間が止まっている証拠でもある。どう?僕は全く1年前と変わっていないでしょう?」
ゲイン:「うーん。1年だからねぇ。そうそう見た目も1年じゃ変わらないでしょ。わかんない。」
KNOCK:「(笑)そっか。そうだよね。」
GO(豪):「時が止まる部屋かぁ。修行するなら最高だなぁ。ひとりで寂しくなかった?」
KNOCK:「そりゃあ寂しいですよ。時が止まってると思えるまでは、とても不安だったし。なぜ僕がここへ導かれたのかも、わからないし。昼夜もない。ずっと同じ景色。ここの世界は一度描かれた絵の世界と一緒なんです。額面に入れられた”絵”。壁に掛けられただけで、”絵”の中の色や景色は全く変わることもない。”絵”を見る人はその”変わらないそのまま”を好みにしているんでしょうけど。」
KNOCK:「時間だけはたっぷりとある。そう考えて色んなことをできる範囲でやってみました。
まず、時間の管理。
これは、ここへ来てから欠かさずやっていました。
今は何年の何月何日何曜日。季節はいつ。とね。
これが大事です。これを意識しないと頭がおかしくなっちゃいますから。
腕時計は電池式でしたから危なかったです。
あなた達がこうして現れなかったら、そのうち電池はなくなり時間がわからなくなり、僕は頭がおかしくなっていたでしょう。今じゃソーラーパネルを利用した腕時計も使えなくなりましたからね。太陽光が強すぎてパネルが焼きついちゃう。電池も貴重になってしまった。」
巡回員ブルー:「良かったらコレを使いなよ。昔流行した自動巻きの腕時計。おそらく君の腕時計の電池もそろそろだろう。」
KNOCK:「良いんですか!とっても嬉しいです。ようやく生命力が湧いてきました。」
GO(豪):「色々やってみたって言ってたけど、何をやってみたの?」
KNOCK:「最初は時間が止まってる、と思っていませんでしたから、食べ物をどうしようか、と。この樹木の葉を取って食べてみたりしました。そしたら、樹木の葉は一枚取るとまた、元の場所に戻るのがわかりました。
再生するのではなく、もどる、のです。
一枚葉を食べると僕の胃の中にも、食べたはずの葉が無くなり、元の位置へもどる、のです。
何回もやってみました。最初はわかりませんでした。しかし、葉を何枚も何枚も取り、枝を折り、小屋を作ろうとした時も、一向に作業は進まず、おかしいな?と思いつつも、寝て起きると全て元通りになっているのです。」
ゲイン:「不思議な話ね。ほんと海底の中は未知に満ち溢れている。この砂もなんでこんなに軽いのかしら。(ゲインが手のひらで掬い取る)」
KNOCK:「そうだね。あまりにも軽いから、穴を掘ってその中に砂風呂のように寝たことがあります。あと、砂は紙代わりにも使います。
紙と鉛筆が無いから経過した日付は全てあそこの一角の砂の上に書き残してます。」
GO(豪):「”時”が戻る?それじゃぁ何も出来ないね。散らかしても直ぐに全てが元の位置に戻る。元々最初からある配置に。
でも、それが元々そこにあった景色なら、いったい最初ってなんだろう?その光景は、ほんとのほんと最初の生まれたての光景では無いはず。
なのに今ここにある景色が”最初”の光景と位置付けられている。」
ゲイン:「KNOCK、ここへ飛ばされた時の記憶はある?去年私と”α”地帯の巡回へきて、渦が巻く砂場でふたりで格闘してたじゃない?それがいつの間にか君はいなくなった。」
KNOCK:「僕にもよくわからないんだ。よく昔から言うじゃない。子供が稀に突然消されたように居なくなる神隠しってやつ。正にこれは神隠しだと思うね。気がついたらこの場所に居たもの。」
巡回員ブルー:「お腹は空かないの?」
KNOCK:「全く空きません。髪も髭も伸びません。爪も。ただ、1日?と言っていいのか、1日の時間が長すぎて、自分を人間と意識して維持するのが根気がいります。辛い。
そういう時は自分を虐めます。
自分で自分を殴って歯が取れたり、樹木に登ってわざと上から落ち、足の骨を折ったこともありました。しかし、どんなに自分を傷つけてもこの中の世界にいる僕は樹木や砂と同じように”変わらない絵”の中と同じ。時が止まった風景なのです。足も、歯も、すぐに元通りに”戻り”ます。
一時の身体の痛みは人間らしさを取り戻す刺激にはなりましたけどね。
1週間に一回はこんな事をしてしまいます。」
ゲイン:「そして、この場所へ来た私たちも、あなたと同じ”絵の一部”となってしまったのね。」
GO(豪):「…うーむ、。なんか合点がいかないなぁ。。全て元に戻る部屋なら、KNOCKだって元の居た場所へ飛ばされるはずじゃない?元の”絵”に戻るなら、今僕たちがここへ来て”絵”は書き足しになる?
そうなったら元々の”絵”は全く違う”絵”になるじゃないか。」
巡回員ブルー:「そうだよね。例えば僕がここで今、大便をするとする。この大便はずっとここにあるのか?という事と一緒だよね?KNOCKや僕らがここへ来たことで景色は変わっているんだ。なのにKNOCKは今もここに居る。」
KNOCK:「(笑)なぜ大便で例えた??何だか大便って言葉を使っただけで匂うなぁ。
僕なんて1年も大便とはご無沙汰です。」
GO(豪):「うーむ。。じゃあそれを逆に言うと脱出は可能。ということになる。
”葉”を取れば”葉”は元に戻る。だろ?
僕らにはそれは当てはまらない。という事は、”帰っていい”という事だ。
=(イコール)戻っていい。=(イコール)戻れる。だ。
”絵”は元々の樹木と砂の”絵”で変わりはない。
そこにKNOCKはいない。描かれていないのだ。」
KNOCK:「それじゃぁ怪我が治るのはどういう事?「
GO(豪):「それは、君がここへ来て君自身の変化の問題だったのだろう。君だけが変わらず時間の経過が、続いているなら怪我も治らなかった。しかし、ここに入った者は時間が経過しない。入った時と同じように同じままでいるだけなのだ。
最初からある樹木や砂とは元々が違うって事なんだ。」
KNOCK:「そうだったんだ!じゃあ、いつでも出れたのかな。出ようとすれば。」
GO(豪):「そうさ。」
KNOCK:「そこまでわからなかった。悔しいです。いままで…諦めていた‥。」
GO(豪):「でもいいさ。これでわかっただろ。さぁ、ここから出る方法を考えよう。僕たちは扉を開けてここへ入ってきた。どこかへ、その扉があるはずだ。まず、みんなで扉を探す。
そして、あとひとつ疑問に思っている事がある。それを確かめたい。」
巡回員ブルー:「扉はわかった。あと、ひとつのその”疑問”?って何だよっ。気になる。」
GO(豪):「この樹木だよ。なぜここに樹木がある?それも巨木だ。こんな大きな樹木。葉もこんなに大きい葉なんて見たこともない。
皆んな、この部屋に入って何か気がつかない?自分自身の身体の変化。」
ゲイン:「うん。わかる気がする。私もそれ、何となく気づいてたわ。何だか身体が軽い。動きやすい。そして頭がとってもクリアなの。頭が冴える、というのはこういう事かしら。」
GO(豪):「そう。そうなんだよ。頭がクリアな影響か、聴力も。細かい音がよく聞こえる。そのせいか、皆んなの喋る言葉の音?何だか高音になった気がするんだ。」
巡回員ブルー:「なんだよ。それ。ほんと?何なら歌でも歌ってみる?GO(豪)がそう言うなら、俺でもウルトラソールを歌えるはず。」
巡回員ブルーが喉を鳴らす。隣でゲインがやめとけ、と手を振る。
GO(豪):「なぜそうなったか、わかる?」
一同:「わからない。」
GO(豪):「この場所は高酸素なんだ。」
一同:「高酸素?」
GO(豪):「そう。樹木があれだけ大きく育つのも、砂があれだけ軽いのも、高酸素の影響だ。
先ほどの部屋が反転したのは、よく理解できないけど。。
だから、あまり長居はできないよ。
今は高酸素の影響でいい事尽くしかも知れないけど、長時間もいれば頭が痛くなってきて、耳抜きしないと鼓膜もやられる。身体の血液細胞も破壊されてくる。
KNOCKはおそらく何度も経験しているはず。けれども、この場所は時間が戻る。KNOCKは高酸素の症状が出ては、また元に戻る。を繰り返していたんだ。」
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