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鈴を持つ者たちの音色  第二十話 ”α”-レッド③

ふたりが二路に分かれて走り、どのぐらい時間は経ったのだろう。ふたりはアグセルを落とし通常のライディング以下のスピードで会話しながら走っていた。変わらず”ヤツ”は追ってくる。

キックス②「兄貴ぃ。”ヤツ”は本当に俺らを襲おうとしているのか?」

キックス①「なんだか、方々を旅する巡業みたいだな。でかいペットを連れて。”ヤツ”はあれだけ速かったんだ。いつでも俺らを襲える。それなのに、こちらと同じスピードでただついてくるだけだ。わからないなぁ。もしかしたら、隙を伺ってパクリと一飲みするタイミングを狙っているのかも知れないぜ。」

キックス②「あれだけの口と牙だぜぇ。絶対口で食うタイプに決まってる!アクセル回そうよ!」

キックス①「いや。アクセル回すのは危険だ。この洞窟は何かある。一筋縄では行かないはずだ。気をつけろ!」

と、言った瞬間。。

キックス②「うわっ、、。兄貴ぃー。」

キックス①「おい!ブラザー!どうした?うわーぁー」

走行中にキックス②が消えた。
無線も通じなくなった。

キックス①もガクンッと一瞬、穴に落ちた、かと思ったら、気がつくと急勾配の坂を下り落ちていた。
キックス①はブレーキをかけながら、その急勾配の坂を下っていった。
どのぐらい下り落ちただろう。
ブレーキが焼き付く。と思ったあたりで、ようやく広い天井が高い穴蔵に行き着いた。
頭の上に何かが当たろうとする。

キックス①「氷柱(ツララ)?」

ヘッドライトで鈍く光る氷柱を確認して驚いた。
それを見てから急に寒さを意識したせいか、凍えるような寒さが襲った。
オートバイから降り、エンジン部あたりに両手を置き暖める。

キックス①”オートバイのエンジンは止めない方がいいな。寒さでエンジンが、かからなくなる可能性がある。”

少し落ち着いた。
周りを確認してみる。
吐く息が白い。マフラーから発する排気も寒さで真っ白い大量の煙を発しているように見えた。
後ろを確認する。”ヤツ”は追ってきていない。
”ヤツ”はどこへ行った?
そしてここはどこだろう?
胸ポケットから折り畳んだランタンを出して、息で膨らまし灯りをつける。
便利なランタンだ。
シャカシャカと強く揺さ振りランタンの光量を強くした。
歩いて前に進んでみた。
氷で閉ざされた部屋
ランタンの灯りが周りの氷に反射し美しい。
氷を照らした灯りが、また別の灯りを反射させる。巨大な高価な宝石柱のよう。 
湖らしき所へ出た。凍っている。
これだけ分厚く真っ平な氷なら、海水では無さそうだ。それじゃぁこの凍った水は何?どこからきた?湧いた?
ポケットからいつも持ち歩いている整備用のポケット工具セットを出し、ギザギザの刃が付いたpizzaカッターのような工具をとりだす。
この工具セットは便利だ。50種類もの工具がポケットに入るぐらいの大きさに纏められている。
我がキックスコーポレーションの売れ筋商品だ。
その工具で湖の氷の一部を四角く切り取り、これまたポケット工具セットの仕様をL字型の鎹(かすがい)のようにし、氷に突き刺し抱いて持った。
そのままオートバイへ戻りヘルメットを脱ぎ、その中へ四角い氷を投げ入れた。
オートバイのエンジン熱を利用して溶かしてみる。
オートバイはあまりの寒さにエンジンは調子が悪くピストンの動きが一定しない。
度々アクセルを回して煽るが、変わらない。
しょうがない。
キックス①は寒い寒いと震えながら上着を一枚脱いでオートバイのエンジン部をその上着で包んだ。少しでもエンジンが冷えないよう工夫したつもりだ。その上着の中に氷が入ったヘルメットも押しこんだ。
キックス①は凍えそうだった。
ようやくエンジン熱で氷は溶け、人肌ぐらいの温度の水になった。
指をつけ、味見してみる。

キックス①「これは!塩っぱく無い!」

ランタンをしっかり当て透明度を確かめる。

キックス①「なんて透明度だ!不純物が全く無い」

キックス①はグビグビとその水を飲み干した。

キックス①「うまいっ。これは飲める。飲める水だ。なぜ、こんな場所に!こんな水があるのか。」

飲料水の開発は濾過装置の開発と共に進んでいたが、量は少ない。
もし、この氷を利用すればかなりの量の飲料水を得る事ができる。
しかし、この氷はいったいどうやって出来たのか?それを知り得ない限り、取り出すのは不安だ。
1番気にかけないといけないのは資源の枯渇である。しっかり調査しないと”グランドライン”の生態系を変えてしまう可能性だってある。
貴重な資源をいくらでも増やす事を考えないと行けない。

キックス①は今すぐにでも、この一面の氷を手に入れたくてうずうずしてしまった。この氷を持ちかえりたい。。
隅々まで湖の辺りを散策する。
水はどこからどうやってきたのか?
そして、どうして氷になってしまうのか?
どうしてこの巨大な穴蔵はこんなにも低気温なのか?まるで冷蔵庫だ。
冷蔵庫?
冷蔵庫は電気で冷やされる。。
電気?
キックス①は一旦湖から離れて氷柱をひとつひとつ確かめた。入り口から奥の部屋にかけて氷柱は徐々に長細く連なっていく。その中の1番細く長い氷柱を選んだ。
ポケット工具セット50の中から小型ハンマーを選択する。
コツンコツンと徐々に、その細く長い氷柱を叩き砕く。先細い所からはじめて太い所まで。太い部分は時間がかかった。
その砕いた氷を同じようにヘルメットに集める。同じように溶かす。
同じように飲んだ。
「うむ。同じ味だ。予想した通り。」
今度はその砕いた場所の剥き出しになった場所を触り、その場所を同じく小型ハンマーで徐々に少しずつ叩き砕く。
地道な作業が続く。
20分ぐらい叩き砕いた所で岩肌の色が変わった。
ポケット工具セット50をルーペに仕様を変え砕いた岩肌の断面を見る。
「これは…。モトホリック‥モトホリック?」
ポケットに数個のモトホリックを入れる。持ち帰り液剤をかけてしっかり確認する必要がある。
「もし、これが本当にモトホリックなる資源なら大発見だ。そしてモトホリックなる資源ならこの冷蔵庫の様な穴蔵も説明がつく。もし本当にこの資源がモトホリックなら、この場所は天然の正に冷蔵庫。そしてモトホリックは電気そのもの。モトホリックは電池で、その電池と岩の成分が反応して電気を起こし、その電気がこの穴蔵だけを冷やし、その温度差でこれだけの氷柱と湖を作りだしたのだ。とキックス①は頭の中で全てを結びつけ、過程した。
「おヨヨヨよ。。興奮した。なんという地球の生き地(血)よ。地球の可能性は恐れ多いほど未知である。

この事実を人類にしっかりと伝えなければないない使命に駆られた。こんな所で凍え死ぬわけにはいかない。キックス①は急いで出口を探した。
指先や唇は段々と感覚がなくなってきていた。
広い穴蔵を半周ほどすると、何かが気にかかった。

キックス①「えっ?人影?」

キックスの倍ぐらい背の高い人影があった。
3mもの大きな影。

キックス①「うわぁ!びっくりしたーぁ。」

声を出して悲鳴のように驚く。

”ヤツ”が立っていた。

キックス①は驚き、そして身構える。

”ヤツ”は直立したまま動かない。

キックス①「…‥」

よく見ると、”ヤツ”の立っている右側に通路が見えた。

キックス①「‥こんな所に通路があるなんて‥。もしかして‥教えてくれてるのか?ここから出れるよ。。と?」

キックス①は”ヤツ”の顔を確かめるが、”ヤツ”は正面を向いたまま動じない。

キックス①「きっと。そうだ。」

キックス①はオートバイのある所へ戻り、乗り込んだ。まだ濡れているヘルメットを我慢して被ると、さっき”ヤツ”が立っていた場所の通路へオートバイの後輪を滑らしながら戻った。

キックス①「君はいったい何者なんだ?この場所。君はこの不思議な穴蔵を僕に教えたかったんだね?僕らが生きていく為に、ここには必要なものがある!そうなんだね?」

”ヤツ”は動じず大きな口は閉じたまま2本の牙だけが、はみ出ていた。

キックス①は”ありがとう”と手を挙げて言い、その通路を駆け上がった。

その頃、キックス②は一瞬消えた。と思いきやキックス①とは真逆の上段を駆け上がっていた。
洞窟内は左通路を走るキックス②が上段へ。右通路を走るキックス①が下段へと突急に別れたのだった。
キックス②は急勾配のジャンプ台のような上り坂をアクセルを緩めずに駆け上がった。
これだけ急勾配の上り坂だ。アクセルを緩めたら最後。坂を上れずに後ろから追ってくる”ヤツ”の口の中にパクリと一飲みなのは間違いない。
エンジンが唸りをあげる。キックス②は上体をフロントタイヤの上へ移動し荷重をかけフロントタイヤを浮かせないようにした。オートバイを操るのには身体の動きも必要になる。その地形や曲がり角度によって前後、左右、タンクを挟む股関節での固定。まるでスポーツ。それが楽しいしスリリングだ。

どこまで急勾配の上り坂は続くのか。そう焦ってきたのと同時にパァーっと開けた広いワンルームのような穴蔵に出た。
上り坂を上り切った安心感で気付かなかったが、”暑い”。この場所は何でこんなに暑いのだろう。そういえば”ヤツ”は?と後ろを振り返るが、”ヤツ”は追ってきていない。
”ヤツ”はどこへ行ったのだろう?
バイクを降りヘルメットを脱いで周りを確認する。
胸ポケットから折り畳み式のランタンを取り出して周りを照らす。
奥に入ると蒸気が酷い。蒸気で周りが見えにくい。あちらこちらで蒸気の噴き出るプシュー、プシューという音が蒸気に隠れた暗がりで不気味に聞こえる。
暑さはこの蒸気のせいだろう。
あまりの暑さにオートバイの所へ寄り上着を脱いで、次いでにオートバイで外気温を確認する。
オートバイのエンジン熱を測定するサーモスタットの配線を抜き出し、蒸気で濡れないようにアルミで配線を包み、外気に触れさせオートバイのディスプレイで温度表示を確かめた。
45度。
人の体温以上の温度だ。
それにこの湿度。100%は当然だ。



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