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はじめて参加したボランティア活動はジャズフェスだった件

7月28日金曜日。
明日は、はじめて参加する南郷ジャズフェスティバルのボランティアスタッフの日だ。

明日は久しぶりに仕事を土曜日休みにしての参加。なかなか土曜日を休むのは困難なのを分かって欲しい。僕に代わって上司を土曜日出勤に代行してもらうのだ。僕にだってそれなりの覚悟はある。そう、覚悟を決めてまでも参加したかったイベントボランティアなのだ。
全国からここ南郷という田舎の片隅に集まるイベント。そこには音楽をシンプルに愛しシンプルに静寂な緑の中を音楽で満し楽しむ輩が集まるのだ。そんな最高のイベントを客として普通に楽しむより、音楽好きを地元民として支えてあげたい。単純にそう思った。
僕はもう46歳。
自分で楽しむより人に楽しんでもらいたい。そういう歳のとり方になってきた。今回のボランティアスタッフの募集をみて自然と手があがった。
ただでさえ人気のあるボランティアイベント。
参加が決定して嬉しかった。

”予習する”

2週間前ぐらいにボランティアスタッフの従事内容の紙が届いた。
実行委員会からだ。
いよいよ現実味が増してきた。楽しみだ。
僕の担当は「会場係」。と書いてある。
とりあえず想像してみるが、よくわからない。
いったいどんなお手伝いなんだろう。。
椅子を並べる?
チケット切り?
持ち物検査?
うーむ。この通りのど素人だ。
このど素人が全国的イベントを支える一員となれるのだろうか?かえって迷惑をかけたら情けない。色々と想像が膨らむ。

7月29日土曜日。
音楽フェスティバル開催日。
南郷ジャズフェスティバル当日はいつも通り早起きした。
時計をみる。朝5時過ぎ。
昨晩も夜は暑く風もなかったから寝苦しい夜だった。僕はエアコンは嫌いだ。昨晩は窓を開けて寝た。熟睡はできていないが、まぁ大丈夫だろう。
さて、、持ち物を確認する。
一体何を持っていこうか、
今日も暑い日になりそうだ。まず、帽子。着替え。飲み物。塩飴。サングラス。汗拭きタオル。日焼け止めクリーム。そして注意事項が書いてあるボランティアスタッフ用レジメ書類。。

大袈裟なほど準備万端で八戸から南郷へ向かった。備えあれば憂いなし。

”来たぞ。南郷。”


約30分で南郷へ着いた。僕の車はボタンひとつでオープンカーになる。気分を盛り上げる為に朝からオープンに屋根を開けてここまで走ってきた。
朝の空気は爽やかで清々しく道路も混まず、信号もあまりなく、気分もつられて今日一日が楽しくなりそうな予感がした。
集合は8時半。
1時間前についた。スタッフ用駐車場を確認する。車を停める場所は決まっている。

”一番乗り。早すぎ、なのは心配性の証”


事前に駐車場を確認して今度はフェスティバル会場の下見をする。
会場にいくと、すでにほどほどに沢山の車が停まってあった。キャンピングカーも数台あった。
そうか、昨日は前夜祭。昨日来て泊まった人もいるのだ。
夏フェスはキャンプもセットの様なもの。
夏フェスもいいし、キャンプもいい。両方とも一緒に楽しめるなら楽しみも倍になるのだろうか。。そう思いながら、会場になる南郷道の駅でトイレを済ませて再度スタッフ用駐車場へ戻った。
スタッフ用駐車場にはまだ誰もいない。
僕が一番乗りらしい。皆に気を使い一応いちばん奥の端っこに車を停めた。8:30までまだ30分ある。再度ボランティアスタッフ用しおりの中身確認する。

”何事も予習”
”会場係。というけど、うーむ。イメージがわかない”

何台か車が入ってきた。おそらくボランティアスタッフの人達だろう。
オレンジのTシャツ?
あれ、そういえば僕はまだスタッフTシャツもらってない。案内には「当日配ります。」とある。
みんないつもらったんだろう。。
案内をよく読むと「事前に欲しい人は言って下さい」と書いてある。既に着ている人はおそらく昨日の前夜祭でもらったんだろう。

皆んなの後を着いていき、南郷公民館へと向かう。集合場所はそこだ。。

ここにも早く来すぎた。しばらく待機する。
誰もいないが係の方が「まだ、早いので中でお待ち下さい」と公民館の中に通してくれた。
公民館の中。まじまじと室内を見渡すとココもなかなか味わいがある。
ジャズの大きな絵。
有名人のサイン。
昆虫の剥製。
手書きの黒板。
さすがジャズの街。雰囲気がある。

街でだしているフリーペーパーが置いてあった。
センスがいい。ファンにはそそるだろう。

公民館内のLEDはイベントの為会場に持ち出されていた。担架はそのまま。大丈夫だろうか。
室内の温度は26度。エアコンが入った室内でこの温度。朝8時半。今日の予想気温は34度と報じられている。

集合時間になり、大体のボランティア人数が揃った。ザッと30人ぐらいか。
年齢は40代〜50代が多く、男女大体半分ぐらい。そしてほとんどが既にスタッフTシャツを着ている。係の人から「Tシャツ無い人いますかあ」との問いに手をあげ、トイレで着替えた。
オレンジ色の目立つスタッフTシャツ。今日のボランティア活動での利点はこの目立つTシャツをもらって帰れることと、昼飯夜飯がただ。ということだけだ。

”まぁまぁお洒落なスタッフ証”
”オレンジじゃプライベートで着れない。ナンゴー、って描いてあるし。”
”うむ。スケジュールオッケー”

オレンジTシャツに着替えて、これで僕もスタッフの一員へと変貌した。トイレから出て皆と同じTシャツで並ぶとなぜか仲間意識が生まれた。
外見のユニホームってなぜかこういう仲間意識を生む。だから学校は同じ格好をして登校するんだろうな。いつまでも。何十年たっても。。

”今まさに僕の気持ち!”

はじめてのボランティア活動。
はじめての体験。
よし、体験の風をおこそう!じゃないか!

係は大きく10班有る。駐車場係、防犯係、バス運行係、販売受付係、会場係、ステージ係、救護係、消防係だ。
僕らボランティアグループはこの中の駐車場係、販売受付係、会場係、の三つに分けられた。係ひとつ約10人というわけだ。
市役所の会場係のリーダーを先頭に会場へ向かう。今回の実行委員会は市役所が主催している。
リーダーや副リーダーは市役所の人が担い僕ら一般ボランティア一同はその下へ付く。
会場へ一歩入ると撮影は禁止される。
色々と写真は撮りたかったが、それはNGだと言う。ここは大人しく受け入れようとしよう。何しろ今回はスタッフなのだ。決まりは守らないといけない。
僕らの”会場係”待機場所へ付くと仕事はじまりの前に「それでは自己紹介しましょう」ときた。
げげ。こんなの学生時のレクレーション以来かもしれない。ちょっと恥ずかしい。。
皆、淡々と自己紹介され、淡々と喋っていく。
僕の番は最後に回ってきた。
「名前は何々です。ボランティア活動自体はじめてです。今回応募したのは地元民から率先して音楽の街を盛り上げるお手伝いをしたいと思ったからです。」と噛まずに言えた。
声は小さかったかも知れない。。
自己紹介をして思った。ほぼボランティア初心者は僕ともう一人ぐらい。あとの人達はジャズフェスボランティア経験がある人達だった。
南郷ジャズフェスティバルは今回4年ぶり。去年までコロナ禍の影響で開催は見送りになっていた。市役所自体の大会運営も手伝う側も久しぶりで若い初心者も何人かいたそうだ。

ボランティア活動開始。時間は9時。
会場舞台へ移動し前面に座るパイプ椅子を雑巾がけする。ステージ付近のゴミ拾い。昨夜の前夜祭で出たゴミ掃除。そしてトイレ掃除。。
トイレ掃除は僕ら会場係のメイン作業になるそうだ。大元の備え付けのトイレが四つ。仮説トイレが八つ。それを1時間置きに見回りゴミを捨てトイレを磨く。
それ以外は会場へ足を運び通路に場所取りされない様に監視し、カメラで撮影されない様に呼びかけ、熱中症など具合が悪い人がいないか、見定める。と、主にこんな仕事になる。

”撮影可の時間だけ数枚写メゲット”
”グッズも気になるところ”
”第1部がはじまる前にサプライズ演奏。なんと、ピアノ弾いているの、マシューズさん。”

普段、家庭ではあまりやらないトイレ掃除も今日はメイン仕事だ。割り切ってやった。
以外と汚れがひどかったのは午前中。
会場入りは11:30。みな楽しみの前にちゃんとトイレを済ませて準備万端でフェスを楽しむ。という事だ。
会場入りして、すぐ。
アナウンスが入る。
「撮影NGと言いましたが、14:00までなら可とします。14:00以降はNGです。前座演奏までなら撮影可能とします。」
何やら子供達から記念の写真を撮らせてくれ。と本部へお願いがあったらしい。
それはそうだ。今じゃSNSへアップするのが日常。記念の写メを撮るのも日常。なのだ。
撮影禁止にする方が珍しいかも知れない。
歌手アイのコンサートも曲によって動画も写真も撮るのがOKだった。その時は「皆んなどんどんSNSへあげて拡散してー」と言っていたし。SNSはひとつの広告のようなものでもある。
ただ、今回は本部の意図が見えないが、NGルールがあるならそれに合わせるだけだ。僕は大会のスタッフなのだ。大会のルールへ従う。

それにしてもボランティアといえども、こうして参加すると色んな人間性を垣間見る。
取っちゃいけない所へ場所を取る人。
音楽を真剣に聴きたい人がいるのに大きな声を出してずっと話がとまらない人。
撮影NGだと言っているのにこっそり撮影する人。
お酒が入り酔って気分よく日傘を振り回して踊る人。
ボランティアスタッフの目立つTシャツはそんなクレームの声もかけられる。
いくらボランティアといえど嫌なことも言われる。タバコを吸う場所もなかったし。

今日は暑すぎた。日傘は後方のお客さんの視界を遮る。ほんとはダメだったがそれは良しとしたそうだ。
ボランティア作業は軽い作業だったが、今日は暑い暑い。特に10:30-16:00頃までの日差しは焼ける様に暑かった。気温は36度まで上がった。
熱中症も3人でた。ちゃんとドクターが対応していた。

塩飴や冷えた飲み物、虫除けスプレーなどは準備万端で持ってきていたがボランティアスタッフ用にそれらは全て準備されていた。
次回もし再度ボランティアに来ることがあれば次回からは要らないな、と頭にふと、入った。
夕時にもなると会場係一同はそこそこ気が合う話もするようになっていた。
皆好きでボランティアに応募してきている。手伝いをサボるような人は皆無だった。
日も暮れ段々と最後のステージ。
ステージがライトアップされトリの山下洋輔氏と類家心平さんのステージ。トランペットのバラード”アイリメンバークリフォード”を会場監視中に聴いた。
バラードが夜の空気に沁み
頭上には満月が上り始めで大きく光強く
ステージ奥では演奏に合わせるように蝉が鳴く。
お客さんはステージから視線を逸らさない。息を潜め、身体を自然に揺らし、その今しかないグッドタイミングのひとときを味わう。お金では買えない素晴らしい週末の時間。いや、お客さんはお金を払ってきてるのだ。実際はお金で買った時間。とも言えるのか。お金を払ってチケットを買い、ここまで来たからこんな素晴らしいひとときを味わえる。
日々一生懸命に暑いなか働き
稼いだお金をこういう風に使う。
それもいいね。僕も改めて働いたお金がもたらす効果について考えさせられた。
「僕もお金貯めてどんな時間を買おうかな」なにかワクワクして腸が動いた。
こんな気持ちになれるのも今回ここにきたから気付く。良かった。
トランペット。
トランペットってあんな音も出すんだな。知らなかった。とも感想した。

段々と夜も進み
曲も拍手も進み
終わりの一歩へ近づいた。

「ちょっといいですか?」
ひとりの年配?中年?のお客さんから声をかけられた。
「今日のお客さんの入りは何人ぐらいだったのでしょう?」
僕はハンド無線で情報を知っていたので答えた。
「大体1500人弱だと思います。」と、
そこからなんだかその人と話が弾んでいった。
歳は違えども気が合う人というのは初対面でも話が途切れない。
彼は学校の教師だと言う。今は一度定年退職を踏まえて延長中らしい。
母親と父親の出会いはジャズバーでのダンスだったらしい。お互い固い職業柄唯一の趣味であるジャズが二人を結んだそうだ。そしてジャズがかけた橋を渡り彼が生まれた。そして今現在中、彼はジャズ音に浸かっている。正に今。僕と話をしながら浸かっている。
ジャズがもたらす生輪廻。
僕も彼のジャズ縁に少しでもあやかれるのだろうか?こうして話をして何かしらの影響を与えてもらっている?僕も何か今夜のジャズから人の縁を与えてもらっているような気がしてならなかった。
もはやボランティア中、最後の大トリの興味がある演奏、そんなものを退けるほど、我の空気を見失うほど彼の一言一言の会話に夢中になっている自分がいた。一言一言を絶対聞き逃したく無い。周りの音より彼の音に神経を集中していた。
それも最後の残り一発の時間帯にだ。
なんだろ。こんな出会い。不思議だ。何かを感じてならない。今日一日のボランティアはこの為にあったのでは?新聞を見て興味が湧き、直ぐに今日のボランティアへ応募した時点でこんなオチになるのは決まっていた?そんな巡り合わせのようなものを感じてならなかった。
もっと話をしていたかったがラスト演奏が終わってしまった。演奏が終わる前、彼から名刺をもらった。いつでも連絡していいと彼は言ってくれた。
彼は今日の刺すような暑さの日差しのなか何回か途中で帰ろうかな、と頭をよぎったそうだ。しかし我慢をしたら半ばの演奏時に西陽がきつく演奏者へ西陽があたりはじめると”すだれ”を大きくかける行為像を見、暗くなってからの満月の下のバラードなどを聴いて最後までいて良かったと感嘆の声をあげていた。そして二人で「なんだか今日は人の人生に例えられるような一日でしたねえ。なんとか耐えると最後にいい事がある。」みたいな、ねえ。と頷きあった。
彼はこれから2時間ぐらいかけてバスで帰るという。家に着くのは深夜になる。それでもこうして南郷ジャズフェスティバルへくる。
今日のフェスはそういうフェスなのだ。
遠い 暑い 関係なく
行きたいから 聴きたいから だから行く。
彼も今回一人でフェスに来てこうやって話をして名刺を渡すまでにいったのは回も終わりに近い僕だけに、だったそうだ。

こんな出会いや
あんな出会い。
人はどこでどんな時に良い出会いがあるのか分からない。
時代はまわる。時は進む。
過去の幕末なども有名な剣士達は
こんな
今晩のような出会いなどあったのだろうか
きっとあったのだろう。
だから時代は進む。
人は大きくなる。
自分の存在を知る。
それを今夜の満月を見て
映し出す帰り道の影を踏みながら我思った。

”色々とひとりおもう。影を踏みながら”
”どこまでもついてくる満月が今日を見送る”

最後に‥
後片付け中のステージにやっと近づく事ができ、堂々と写メ。
フェスティバルの裏側を見れたのも今回は勉強になった。
何かを起こす、ということは
誰かが支える。ということだ。
撤収作業から学ぶこともある。

”余韻が残るステージ。最後にボランティアスタッフ一同で記念撮影をした。2度と同じメンバーは集まらないだろう写真”
”片付けも絵になる”

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