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鈴を持つ者たちの音色  第十五話 ”α”-レッド②

ヘッドライトが岩を映し出したと同時に、オートバイは岩を避け急旋回。
速度は40キロ出ていた。
旋回する前にギアの段数をひとつだけ落としたが、速度は落としきれない。そのせいで、
旋回時に大きく膨らみ車体が振られた。
急いで体勢を整える。
その分”ヤツ”を交わしきれない。
”ヤツ”はキックス②のすぐ横にいた。
「ガツリ!」
と”ヤツ”と接触した。
プロテクターの左肩を押され洞窟の壁へ40キロの速度のまま弾かれる。
洞窟内の壁には運良く突起物は無く、そのままプロテクターの右肩が壁に当たり、
その衝撃で元の走りやすい路へ押し戻された。
”ヤツ”を交わした。
一瞬の出来事だったが、スローモーションの様に一連の場面は覚えている。”ヤツ”の姿も。。
音で確認したが、”ヤツ”は岩に衝突せず何事もなかったように相変わらずキックス②の後ろ姿を追ってきた。
足音は止まない。カツリ、カツリ、カツリと。

キックス①も何とか切り返し、同じように”ヤツ”を交わしきり走っていた。
こちらも相変わらず”ヤツ”は追ってくる。

キックス①「”ヤツ”の姿に驚いている暇はないぞ。もう少し走ればさっきの二又の分かれ路だ。いいか、その分かれ路で今度は俺がそっちの路。お前がこっちの路に入れ。そうすれば”ヤツ”は流石にお互いにぶつかって失神でもするだろう。
時間を稼げる。」

キックス②「なるほど、兄貴ぃ。頭いいな。こんな状況でよく頭がまわるなぁ。」

キックス①「くれぐれも一本路に戻るなよ。一度戻ってしまったら”ヤツ”がいる。もう洞窟へは入れないかもしれないんだから。」

キックス②「合点!」

ふたりが何分か前にわかれた二又路に差し掛かった。①⇆②の入れ替えルートへ突入するのには、ほぼ直角90度のクランクをほぼスピードを変えず変えずに突っ込んで曲がり切るテクニックが必要だ。ふたりの自作オートバイは悪路用に仕上げていた為に車高が高い。90度クランクを曲がる為には、ほぼべったり車体を車路と平行に倒さないと曲がれなかった。
それが出来ないと、そのまま洞窟内の壁へ衝突してOUT。命も終了ー。となる。

キックス①「いいかぁ。ポイントは2つ。”ヤツ”をお互いにぶつけ合わすにはスピードを緩めないこと。そして、自分が助かるためにはギリギリのアウトラインからカーブに進入し、車体はべったり地面へ着くぐらい倒すんだぞ!」

キックス②「不…合点。。」

キックス①「いつもの勢いはどーした?」

キックス②「どーしても”ヤツ”の顔が‥」

キックス①「だからやっつけるんだ!」

キックス②「‥。うらぁ!どーにでもなれっ!合点!!」

二又路だ。
ガリガリと火花を散らし音を立てて2台のオートバイが絶妙なタイミングで二又路を入れ替わる。
神技としか思えない技巧だった。
全く同じタイミングで突っ込むと、お互い衝突し、各々がズレたタイミングで遅く突っ込むと、”ヤツ”はぶつかり合わない。
間一髪の決め技が成功した!!
彼らはオートバイレーサーでは無く、この場所を使って毎日この超絶技巧なる練習をしている輩でも無い。
この場所へはじめてきて、そして今のような曲芸をやってしまったのだ。
恐れを知らず。腕っぷしのセンスの良い、生まれながらのスタントマンなのかも知れない。
機械の事を誰よりも知り、そしてふたりの息はピッタリだ。その特性を最大限に活かせたライティングだった。

ふたりに後ろを振り返る余裕はない。

キックス②「”ヤツ”は?」
キックス①「どうなった?」
キックス②「足音は?」
キックス①「…」

洞窟の中では”何かしら”が、激しくぶつかり合う音はしなかった。
オートバイはそのまま、走りを止めない。

そして、残念ながら、闇の奥、遠く
無音の中、聞きたくない”足音”が引き続き、追ってきたのに勘づいた。

ふたつの足音。それぞれの足音。
ふたりを追う足音。

キックス②「しつこい!」

キックス①「カッコ良くコーナーを決めたのにな。」

キックス②「兄貴ぃ。アイツの正体は一体何なんだ?さっき見たろ?」

キックス①「ああ。見たさ。長い毛で顔から全身は覆われ、目や鼻は毛で隠れていたが、口は大きかった。あんなデカい口。俺らはひと口で呑まれるぐらいの大きな口だった。下顎には2本の牙。マンモスよりは大きくないが。」

キックス②「だろー。あんなのが、後ろから追って来てるなんてゾッとするよ。あぁ怖い怖い。」

キックス①「おそらく耳や目が毛で覆われて隠れているってことは、”ヤツ”は俺らを目で追っていない。だとしたら何で追う?鼻?匂い?」

キックス②「いや、鼻も毛で隠れている。嗅覚でも無いと思うよ。」

キックス①「あのスピードは尋常じゃない。まてよ。オートバイのエンジン音。アクセル。。
おいっ。”ヤツ”のスピード。俺らのスピードよりも速いよな?」

キックス②「そうだ!俺らより速い。」

キックス①「‥追う習性。。アクセル上げると加速。。なんだか法則がありそうだなぁ。。なあ。なぜ最初から最速スピードで追って来ない?”ヤツ”ぐらいのスピードで追われたらとっくに俺らは捕まってるぞ。」

キックス②「そうだな。よく考えてみると。。洞窟内の岩を避ける為に失速しても”ヤツ”は距離を保っていたような気がする。うちらは衝突を避けたいからアクセルは抑え気味だったし。」

キックス①「だろ?おかしいと思わないか?それに、ひとつになったり、ふたつになったりもする。」

キックス①「まるで”影”だな。さっき身体で接触はあったから、ちゃんと厳つい(いかつい)実体があるのはわかった。牙?牙は?何でついている?両手についた爪も同じようなモノだったし。」

キックス②「”ヤツ”にも弱点はあるはず。絶対見つけてやる!」

キックス①「とりあえずアクセルは全開に回さずに様子を見てみよう。”ヤツ”はこちらのスピードに合わせているような気がするんだ。」

キックス②「合点!」



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