鈴を持つ者たちの音色 第二十四話”α”-グリーン②
WO(女):「どうして滅ぼそうとしているの?スパイの人だって私たちと同じ人間でしょ?」
巡回員グリーン:「人間じゃありません!”アイツラ”は私たちの地上の生活を奪いました。今までの戦争を起こしたのも、環境破壊を促進させたのも、”アイツラ”の仕業なんです。”アイツラ”は人間になりすます。分かりやすく言うと”化ける”のです。裏で人間に”化け”悪い方向に人類を誘導していった。」
ME(男):「僕たちが今、これからする事。その聖水があれば、何かしら好転することがあるんだね?」
巡回員グリーン:「好転するどころか、皆救われます。」
WO(女):「わかったわ。やるしかなさそうね。ねぇ。あなた。さっき私たちが”特別”という言い方をしてたけど、あれ、どういう意味?」
巡回員グリーン:「‥どうしても言わないといけませんか?」
WO(女):「当たり前でしょ!そこまで言っておいて。吐き出しちゃいな。」
巡回員グリーン:「先ずあなた。WO(女)。。貴方はこの地”グランドライン”へ地球上はじめて、足を踏み入れた女(ひと)、ファーストペンギン”ジュン”の子供。
水龍に選ばれし者の”血”を唯一ひいている特別な子なのです。
そして次、ME(男)。。君は唯一水龍が傷を負った時にその傷を手術し、水龍の”血”に触れ、命を救った医者の戦士”オキナ”の子なんです。
どちらもその勇敢さゆえに命を失ってしまったけれど、”血”はこうして受け継がれている。
今こそ、親がしたように民のために助けてもらえないか!」
ふたり:「…」
WO(女):「‥ジュンが、私の母‥だった。」
ME(男):「僕は父”オキナ”のその話を知りません。詳しく教えてくれませんか?」
巡回員グリーン:「君は生まれつき手先が器用だったろう?子供の頃、箸を持つようになったら左右両方に箸を持ち、左右で交互にご飯を摘んだりしていた。視力は良く、遠くの景色も見る力はあったが、それとは別に君には眼力で物体を”トオシ”できる能力があった。君は小さい頃からそれを知っていたはずだ。おそらく”トオシ”は父親から”血”で受け継がれたものだろう。もしくは、水龍の”血”に触れたせいで身についた能力かも知れない。
君はその”トオシ”の能力で今まで様々なものを”修復”してきただろう?」
ME(男):「‥何でも知ってやがる。。俺のことはもういい。父親の話をしてくれ。」
巡回員グリーン:「(巡回員グリーンはWO(女)の方を向いて語り始めた)」
ジュンが”グランドライン”を見つけ貨物船の乗員、約半数が”グランドライン”へと移沈中だった。そしてその悪いタイミングで”アイツラ”が現れた。”アイツラ”は貨物船を見つけ貨物船を沈没させようとした。その時だ。
水龍が海面から姿を現した。貨物船をぐるりと取り囲んだ。水龍がテレパシーのようなもので乗員の頭の中に伝える。”今のうちに移沈せよ”
乗員は急いだ。
水龍の防衛のおかげで乗員はなんとか”グランドライン”へ移動できた。が、しかし、貨物船を護っている間に水龍は傷を負った。
水龍は乗員全てが”グランドライン”へ移動したのを見届けてから貨物船を離れ海底へと身を隠した。しばらく経って貨物船は”アイツラ”に沈められだ。
貨物船から最後に移沈した乗員に”オキナという40代の中年男がいた。”オキナ”は自ら乗員最後の順番の移沈を希望した勇気と責任感のある医者であり村長だ。
その”オキナ”が、最後の移沈をし、”グランドライン”へ辿りつく頃、なんだか不思議な体験をしたという。
ジェット潜水艇で暗闇の中を1M。また1M、と沈んでいく。真っ暗なだけじゃない。静だ。静すぎる。本当に自分が最後だったろうか?貨物船に取り残された人は誰もいなかっただろうか?この静けさが責任感の後ろめたさを生んだ。
何度も何度もその思考だけをリピートしながら深い深い闇へと侵入していった。
その時パァーと周りが明るくなった。虹色とまで、言わない。4色から5色ぐらいの明るい光が目の前を照らした。
あり得ない。
なんだ?なんだ?
目がチカチカする。瞼を閉じたり開いてを繰り返していると次第に眠くなり”オキナ”は寝てしまった。
”オキナ”は夢を見た。いやそれは夢のようで夢じゃない気もする。
それは、緑の光に包まれた渓谷のような場所。
そこには樹木や草花が生い茂り細い川が流れている。虫や鳥、生き物の鳴き声はしない。ただ水の流れる音だけがする。時折り風が吹く。浴びると懐かしい思いが込み上がってくる。
「なんだろう。この懐かしさ。何となく浴びたことがあるような風。」
何か音がする。その音の方へと奥へ奥へと歩を進める。草花を掻き分ける。草花に付いた水滴がズボンを濡らした。
花が咲いているのにミツバチや蝶がいないというのは何か違和感を感じる。
「ここは現実では無いのか?」
歩きながら”オキナ”は何か?現実とは違う感覚が常に付きまとう不思議さを感じていた。
”音”は滝の”音”だった。
立派な滝だった。高さ20mぐらいはあろう。水流は細いが凛々しくゆっくりと水面に落ち、泡しぶきが舞い、シャボン玉のようにふわふわと顔に近づいては弾けて消えた。滝が落ち溜まる湖面も、静かで何故か波紋がたたない。底うねりは?深さはどのぐらいあるのだろうか?おかしい。
鏡のように透明なはずの湖面は、最底部を探そうとジッと湖面を見つめても見えなかった。
「う。うん?」
湖面を覗き込んでも自分の顔がうつらない事に気がつく。おかしいな。ともっと顔を湖面に近づける。その時だ。
”ポコラッ‥ポワワンッ。ポコラッ‥ポワワッ”
顔を近づけた所へ水泡が上がってくるのに気がついた。それは”オキナ”が見たことが無いほどの、大きな水泡だった。
「これは‥この湖の中には”何か”いる‥。」
水泡が”オキナ”の顔の前で弾け、その”匂い”の様なものを嗅ぐと
”オキナ”はいきなり裸になり湖に飛び込んだ。
身体が咄嗟に動いた、というか、呼び込まれた、感覚に近い。”オキナ”は後に言っていた。”意識的にではなかった””無意識に”。だったと。
”オキナ”は医者だが、親は漁師だ。海場でそだった為、泳ぎは得意だった。息も3分止められる。その3分内で深く潜れるだけ潜った。水泡が上がってくる場所へ向かって。
時間はわからないが、”オキナ”は深く深く潜った。なぜこんなにも深く潜れたのかはわからない。おそらく水泡が”オキナ”の息を長く持続させたのだろう。”オキナ”が何度か「もうそろそろ息が持たない。上がろう。」と思う度に水泡が顔の前で弾け呼吸が楽になった、と言う。
どれだけ潜っても湖の中は明るく透明だった。
明るい宇宙空間を浮遊しているかのように心地好く、”オキナ”は潜っていて現実離れする意識を何とか維持した。
深く潜る度に上がってくる水泡はどんどん大きくなった。
「パチンッ」
音が鳴ると同時に”オキナ”は水泡の中にいた。身体がひとつ入るぐらいの水泡だ。
ふわふわとその水泡は”何か”に誘導されていく。
まるで小さな排水溝があって徐々にそちらに吸い込まれていく、そのぐらいのスピードで。
それにしても心地よい。ふわふわと生き物の羽毛に包まれたような人肌な快適感だ。
その時だ。
快適感から一瞬にして凍りつく。背筋から油汗がでた。
「ギョッ。」とした。
水龍だ。
水龍がいた。
水泡は水龍が発していた。
水泡が海面で弾けその水龍の”気”の物質がこの場所を作っていた。
草花。苔。透明な湖。滝。そして光。ここにある渓谷は水龍が作った砦だった。
そこになぜか”オキナ”は呼ばれたように居る。
水泡に入った”オキナ”は、水龍の頭を通過し尾鰭へ移動し、左脇腹のあたりで動きが止まった。
「うーん?」
水が時々赤く濁るのに気付いた。
「これは!」
水龍は負傷していた。民を助けた時に”アイツラ”にやられた傷だった。
”オキナ”は腕がなる。何故か手術に使う道具が一式、満載に入った腰ベルトがいつの間にか腰に備え付けてあった。不思議に思いながらも自然とすぐに水龍のオペに入る。水泡の中に入りながら、湖の中での緊急オペだ。切れた神経を繋ぎ合わせる。
流れる血を止血する。骨や臓器は大丈夫だった。
水龍は一体どんな攻撃を受けたのだろうか?これだけの傷だ。”アイツラ”には特別な兵器があるとしか思えなかった。
それにしても”アイツラ”の攻撃は誰か見た者がいたはずなのに聞けば誰も覚えていない。と言う。
”アイツラ”の顔もそうだ。
見たはず、が、誰も見ていない、と言う。
手術は無事に終わった。止血も上手くいき水の赤い濁りもなくなった。
”オキナ”が入った水泡はまた何かに吸い込まれるように移動を開始した。
ゆらゆらと水龍の上半身、そして顔面へと移動していく。
水龍の大目玉の前で動きは止まった。目の前に水龍の大目玉がある。
その大目玉にただただ全身を見つめられる。
恥ずかしいどころか恐怖を感じた。目玉に今、まさに飲み込まれそうなのだ。その瞬間。
「パチンッ!」と目が覚めた。
”オキナ”は”グランドライン”入り口の浜辺の様な砂浜に、流されてきたような体勢で居た。
オキナ:「ああ。良かった。無事に来れた。ここが”グランドライン”か!そうに違いない。」
”オキナ”は先ほどの水龍との出来事を夢だろう。と思っていた。そして、立ちあがろうとしたその時、握りしめた砂と一緒に手に赤い血が付いているのを確かめた。
オキナ:「ああ。あれは夢じゃない。これはまさしく水龍の血。」
そこで水龍との出会いを確信した。
しばらくしてから、その水龍の話は皆に知れ渡るようになる。
その後、民が集まる月に一度の定例会議で”アイツラ”の議題になった。
結局地上からここ”グランドライン”へ深く潜ってもおそらく”アイツラ”はここを見つけ追ってくるのは明白だ。”アイツラ”へどう対抗していくか。勝ち目はあるのか。
終わらない議論は毎月続く。
”アイツラ”にはどうやら記憶を消す能力があるらしい。”アイツラ”の弱点は記憶や、記録だ。
姿や攻撃を記憶、記録され攻略されるのを避けたいようだ。
ということは、自ずと”アイツラ”がした事さえ記憶し覚えておけば攻略はできる。ということでもある。
あの時の”アイツラ”の攻撃で水龍が負傷したことをきっかけに”グランドライン”では密かに記憶を消されない装置の開発を早急に促進した。
そして第一試作機。
ベッドホン型の記憶維持機”BANZAI”を開発。
製造はキックスコーポレーションだが、監修は医者の”オキナ”が手がけた。”オキナ”は”アイツラ”が記憶を抜き取るのはどうやら耳孔(じこう)が関係しているとみた。”アイツラ”は何かを使って人間の耳孔から記憶を抜き出すのだ。その何かは今はまだわからない。しかし、”オキナ”は耳孔が関係していると予想している。耳孔はそれだけ”記憶”となんらかの関係性がある。それなら、”アイツラ”に抜き取られないように塞げばいいだけだ。
記憶維持機”BANZAI”の使用方法は周波数の調整だけだ。海底の深さによって耳孔の圧力は変わる。それを調整すればいいだけだ。
”BANZAI”からは常に電磁波が流れていてその電磁波がヘッドホンをすることで耳孔に見えない膜を作り、記憶の抜き取りを阻止する。
”アイツラ”がやってきた時はヘッドホンを装着すればいいだけの話だが、スパイが近くにいる。となると話は変わる。常にヘッドホンを付けておかないといけない。
そうなると第二作機だ。
二作機目はそういった、常に付けっぱなしにできないか。という点を改良した。直接耳孔に突き刺すスティック型タイプの”BANZAI”を製造した。眼にコンタクトレンズを付けるように簡単に、直ぐ使えるようにスイッチをオンにして、そのまま耳孔に突き刺すだけのタイプだ。
鼓膜は大丈夫。そこまで届かない長さのものだ。
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