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鈴を持つ者たちの音色  第十七話 ”α”-イエロー②

BOO(武):「鍬なんか置いてけ。邪魔になるだけだろ。」

GQ(自給):「まぁ。見てて下さい。きっと役に立ちますから。あなたこそ何も持たずに大丈夫なのですか?何か武器のひとつぐらい持った方がよろしいのでは?」

BOO(武):「いや。要らない。武器を持てば最後まで武器に頼ってしまう。それが闘いの甘さになり、命取りになる。そう言われて育ってるもんでね。」

GQ(自給):「武器と言うから、ややこしいんですよ。人には道具が必要です。だから道具は時代と共に発展してきた。」

BOO(武):「分からないね。武器も道具も大して変わらない。重りになるだけだ。素早く動けなくなる。僕が優先すべきはスピード。そしてアクロバティックっ。」

GQ(自給):「まぁ。それならそれで。。」

巡回員イエローは”α”-イエロー地帯へとふたりを連れてゆく。
着いた場所は”グランドライン”東側。別名「無の地」だった。

着くとすぐに分かる。
目の前、視野にはいる目一杯の光景には何もない。
ただ、ひたすらに固い砂地が続く。
開けた見通しがよい荒地。
アメリカのウエスタン映画に出てくるような何も無い荒地。
巡回員イエローは、そんな何も無い荒地にお構いもなくふたりを置き去りにして「グッドラック」と一言だけ言い、本部へ帰っていった。

BOO(武):「なんだか落ち着かない場所だな。」

GQ(自給):「どこからでも誰かに見られている気がします。」

BOO(武):「そうだな。そんな気配がする。気配がする…ってことは、いるんだな。何かが。」

GQ(自給):「そうですね。気をつけましょう。」

ふたりは何も無い荒野をただひたすら真っ直ぐ歩き始めた。その後ろ姿はまるで荒野のガンマンだ。
巡回任務は、この何も無い荒野をスタート地点にした、この標識から真っ直ぐ5キロを行って折り返し、この標識まで戻ってくるだけの単純な任務だった。
巡回員イエローの説明を聞くだけだと、あまりに単純すぎる巡回で不安だったが、とりあえずは用は試しである。
「チャチャっと終わらせてしまおう。」そう言いながらふたりは足早に歩いた。

スタート地点の標識には”くたばれ異星ヤロウ”とスプレー缶で乱雑に描いてあった。
笑えない。
確かにこの”グランドライン”にしてみれば移り住んだ僕たちは”異星野郎”ではある。
まさか。先ほど描いたのでは?とスプレー塗料を拭ってみたが、それはかなり古い塗料だった。
誰がいつ描いたのだろう?とても気になった。
5キロ先の折り返しにも目印の看板があると言う。そっちには何て描いてあるのだろうか。
「いい加減くたばりやがれ異星ヤロウ」とでも描いてあるのだろうか。
何も無い荒野を唯一存在するその看板を楽しみに歩く、歩く、歩く。
それにしても、ここには何も無い。
隣に同士が、もし、いなければ、ますます不愉快になるはずだ。
飽きるぐらい、歩く。
その時、BOO(武)が気づいた。うしろ!

無音で何も無かったその荒野に姿を現した”何か”の存在だ。
メキメキメキミキと地面が盛り上がりこちらへ向かってくる”何か”にふたりは咄嗟に反応する。

BOO(武):「おいっ。後ろをみろっ。何かがこっちに向かってくるっ。」

GQ(自給):「えっ。ほんとだ。逃げろ!」

ふたりは全力で走る走る。
走る走る。

BOO(武):「(ゼーゼーハーハーっ)ちょっと待てよ。このまま走っても追いつかれる!どーしたらいい?」

GQ(自給):「(ゼー、ハーハー、、)…私に、私に考えがあります。」

BOO(武):「考え?まじか?よしっ。どんな考えだ?それにしてもお前、よくその鍬持って走れるなぁ。走りづらくないか?」

GQ(自給):「そんな事ないですよ。それより、あなたにも手伝ってもらいますよ。力仕事です。」

BOO(武)「ああ。なんだってやるよ!」

GQは突然立ち止まり、鍬でサクサクと穴を掘りはじめた。BOO(武)は呆気にとられる。

BOO(武):「えっ。穴?」

GQ(自給):「そう。落とし穴です。ここの地盤は固い。一旦掘り返すと地盤はサラサラになります。サラサラになった落とし穴なら上がってくるまでは時間がかかる。時間をかせいでる間に逃げましょう。」

GQ(自給)の素早い穴掘りの鍬捌きは目を見張るものがあった。速い。速過ぎる。大地と対話しているかのよう。
あっという間に穴は掘られた。
深さは6メートルもあろうか。。

GQ(自給):「手伝いっていうのは、後ろから向かってくる”ヤツ”が落とし穴にはまって、そこから上がってくる時、その時に、再度あなたが何とかして”ヤツ”を穴に落として欲しいのです。そうすればかなりの時間を稼げます。そして、私はその間に2個目の落とし穴を掘っておきますから。」

BOO(武):「なるほど。そういうことか。穴掘り作戦が上手くいくかどうか分からないがとりあえずやってみよう。
なぁ。もし俺が、追ってくる”ヤツ”に食われるようなことがあったら迷わず逃げてくれ。約束な?」

GQ(自給):「なんだよ、食われるって。(笑)お前面白いやつだなぁ。素直すぎるよ。
おいっ。食われる事を想像するより、先ずは食われない事を考えろよっ。頼むぞー。」

落とし穴作戦は成功した。
面白いように成功した。
後ろから追ってきた”ヤツ”は落とし穴にまんまとはまり、その穴から這い出ようとしたが、その砂はサラサラでなかなか穴から這い上がれなかった。”ヤツ”はまるで蟻地獄の”蟻”のようだった。
これでようやく”ヤツ”の姿を確認できた。
穴の上から”高みの見物”である。
”ヤツ”の身体は全体を灰色の毛で覆われていて、目や耳は毛で隠れていて有るのか無いのかも分からない。口は大きく頭の半分は口で、その口からは2本の牙がはみ出ていた。
こんな大きな口なら人間なんてペロリの一飲みだ。
身体は大きい。人間の3倍以上はある。

BOO(武)が”ヤツ”の背後へ回ろうとした時、BOO(武)の足元の砂が、落とし穴側に崩れた。
”ヤツ”は耳がいいのか、その動いた空気を読み、サッ、とこちらへ気づき、落とし穴を這い上がってきた。
両手からは牙と同じような材質感を持った爪が3本突き出し、その3本の爪を砂山へ突き刺しては繰り返し、砂山を上ってきた。

GQ(自給):「BOO(武)さん。いい調子です!その調子で”ヤツ”を引き寄せ、何とか時間稼ぎをお願いします!その際、再度別穴を掘っておきますから。」

BOO(武):「時間稼ぎって、言われてもなぁ。」

GQ(自給)はBOO(武)を置いて、先の路を目指して走っていった。
ひとり残されたBOO(武)は踏ん切りがついた。
「やってやるか。」

BOO(武)は暫く、少しずつゆっくりと這い上がってくる”ヤツ”をじっくり観察した。
石を投げてみる。
”ヤツ”に石が当たり、”ヤツ”は石を投げたであろう方向を見て首を傾げたりした。
こっちは顔を出しているのに気がつかない。
「もしかして…」
BOO(武)は「ラッララーァ」とわざと声をあげた。
”ヤツ”はこちらの方向を向いた。
そして駆け上がってきた。
BOO(武)は逃げない。
そしてBOO(武)は出来るだけ身を屈ませ、姿を見えないように隠した。
”ヤツ”が距離を縮める。
ようやく這い上がってきた”ヤツ”が穴から顔を出したその瞬間!
「バカゴン!!ッ、、。」
身を屈めて隠れていた所からBOO(武)は姿を現し”ヤツ”を片腕でアッパーカット!!何と、力技で”ヤツ”を殴り、穴の中へ一瞬で放り込んだ。
上手く行った。
”ヤツ”は再度この穴を這い上がってこなければならない。

時間を稼げた。
BOO(武)が二つ目の穴へ向かうと、
GQ(自給)は既に二つ目の穴を掘り終える所だった。
それにしてもGQ(自給)の穴掘りは速い速い。鍬ひとつで深度何メートルもの巨大な穴を一時(いっとき)に掘り上げる。
BOO(武)も呆気にとられた。もはや人間の力とは言い難かった。
GQ(自給)が掘り上げるその姿を見ていると、まるで鍬が大地と共鳴しているようだ。
鍬のひと刺しひと刺しの命令に大地は服従せねばならない。そうも思えた。

BOO(武)が穴を掘り上げたGQ(自給)に伝える。

BOO(武):「さっき”ヤツ”を観察していて分かったことがある。」

GQ(自給):「観察?観察とは、”時間をかけてじっくりと記録を取り立証していく過程である。”という。そんな数分で何が分かるというのさ?」

BOO(武):「固いなぁ。ここの大地のように固いなぁ。僕は身体ひとつで小さい頃から武道を極め、鍛錬し、闘ってきた。人や生き物の微妙な動きを見るだけで、その生(せい)なる動作が理解できるようになった。将棋の駒のように次なる一手、人の行動を先読みできる程にね。」

GQ(自給):「なるほどね。それで?観察して何がわかった?」

BOO(武):「まず”ヤツ”には目と鼻が無い。毛の中を弄らなくても、それは”ヤツ”の動き方で分かる。」

GQ(自給):「目が無いなら、なぜ僕らを追えるの?」

BOO(武):「振動だ。”ヤツ”は些細な小さな振動でさえ、かなりの距離から感知出来る。だから耳でもない。おそらく耳は人間でいう高齢者ぐらいの聴力だろう。振動を感知するのは全身の毛がアンテナになっているからだ。」

GQ(自給):「振動…。」

BOO(武):「あと加えるなら”ヤツ”は潜りの天才だ。どんな場所でも潜れる。見ろっ。”ヤツ”がここまで来た潜り跡を。(穴を掘り終えた砂山の上から”ヤツ”のいる穴の方を眺める)君の鍬使いも凄いが”ヤツ”なんて君の百倍もの穴を一瞬にして開け、潜って掻き分けてここまで来た。それもわざわざ潜ってだ。おそらく海底を貫き、海まで潜れるんじゃないか?」

GQ(自給):「こりゃ、海底をもぐる。海モグラだな。」

BOO(武):「海モグラ。あっ。それいい!”ヤツ”の名前は”海モグラ”だ。”海モグラ”にしよう!」


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