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鈴を持つ者たちの音色  第十二話 【剣士の男②】

大男ガイム:「おいっ。いつまで寝たふりをしている?着いたぞ。」

剣士G:「気づいていたんですか?」

大男ガイム:「当たり前だろ。荷車を持つハンドルからお前の心臓の鼓動がビンビン伝わってきたよ。脈がはやくなったり、遅くなったり。
結構、お前神経質な性格だろ?」

剣士G:「あなたこそ!ずいぶん身体に似合わず敏感な腕をしてますねぇ。そんなに太い腕のくせに。」

大男ガイム:「ハンっ?お前みたいな細っこい腕のやつには俺の片腕さえ切り落とせないだろう。斬りつけてもせいぜいこんなもんだろ。」

大男は左腕の一番長く生えてそうな毛を一本つまんで見せ、剣士をからかう。ニヤリと笑いながら。
剣士は相手にしない。

剣士G:「そうだ。僕はなぜ荷車なんかに乗せられていたんですか?」

大男ガイム:「ハンっ?覚えてないのかよ。”積み木の丘”での戦闘後に倒れたんだよ。ハンっ。皆が来るまで待っていればいいものを。せっかちな神経質やろうめっ。
せっかちな野郎はなぁ、寿命を縮めるって、親に教わらなかったかぁ?ハンっ?」

剣士G:「”積み木の丘”…?思い出せないなぁ。どこ?そこ。」

大男ガイム:「あぁ‥もういいっ。忘れたなら忘れたで。でもよ。気をつけろっ。せっかち野郎は直せ。神経質は残せ。俺はお前の弱点を知っている。だから言ってるんだ!」

剣士G:「ああ、わかったよ!あんたの声は身体と一緒だなぁ。デカ声が頭に響いてタマンねぇやー。」

大男ガイム:「なんだと!このせっかち野郎!」

大男ガイムが太い腕を振り上げ剣士Gに飛びかかる。剣士Gは冷静にひらりとそれを避け、ガイムの太い腕はそのまま荷車を真っ二つに割りあげてしまった。

剣士G:「あーあ。やっちまったねぇ。俺あんたの弱点知ってるよ。あんたの弱点はその短期損気だよ。」

剣士Gは大男ガイムにあっかんべーの舌を出す仕草をして挑発する。

大男ガイム:「ハンっ。わかってりゃいい。人間弱点があるから補って生きていける。お前みたいに補う人を待たずにひとりでやっちまう性格は一番タチが悪い。最悪だ。覚えておけよぉ。(ガイムはGを指差して言う)
それより、この荷車の上に乗ってた物。これ運ぶの手伝え。」

剣士G:「ハンっ?これは今あなたが壊したんでしょうが。あ、な、た、ひとりで運びなさいよー。」

大男ガイムは隙を見て剣士Gの尻を引っ叩く。

大男ガイム:「原因は誰が作った?ここまで運んでやったんだ。少しは感謝しろっ。」

剣士Gは段々と頭がはっきりしてきた。
大男ガイムとはウマが合う。
いつもこんなやりとりをしている気がする。

大男ガイムは剣士Gの胸に荷台に乗っていた食料を沢山放り投げる。

大男ガイム:「いくらでも重い物を運べば、その細っこい腕も俺みたいになる!」

剣士G:「へいへい‥」

ふたりは基地らしい砦の奥に荷物を抱えて入っていく。大男ガイムの持つ荷物の量は半端ない。天井高く積み上げているのに顔色ひとつ変えない。
巨大な3メートルぐらい高さがある木製の扉の前で立ち止まる。
開くのを待つ間会話する。

剣士G:「他の皆んなは?」

大男ガイム:「もうとっくに行ったさ。」

木製の扉が開く。
ギィーと長い高音を発す。 
ふたりは中へと入る。左右の壁沿いに発光灯が飾ってある。(プランクトンと酸素が反応して光を発するやつだ)
100mぐらい歩き二股の分岐点を右に行くと直ぐに広い食堂に出た。活気がある。荷物を下ろすと直ぐに給仕がやってきてテキパキと荷物の中を捌いていく。
美味しそうな匂いだ。
汗を拭きながら周囲を見渡す。
料理は次々と運ばれ各テーブルの上には食べきれないほどの料理が並ぶ。
大男ガイムは誰かに呼ばれる。
「おーい。こっちこっち。
こっちの席が空いてるから、こっちに来いよ。」
大男ガイムが横目でチラリと呼ばれた方に目をやり、そちらへと向かう。
ドカリッ、と誰かの椅子へ座る。

大男ガイム:「こちらにいるのが、Gだ。宜しく頼むよ。」
とGを紹介する。
Gは頭をこくりと下げる。
紹介された案内人は「ああ。あんたか。あの、積み木の丘の‥えーっと、そう。せっかちさん。そうかいそうかい。。」
ガイムはしてやったりの表情をGに向ける。

大男ガイム:「剣より、せっかちの方で有名になっちまったなぁ。おい。(笑)」

剣士Gは頭を掻きながらヤレヤレと振り返り遠くを見て、気を落ち着かせた。

奥のバーカウンターからこの店のマスター(女性)が出てきた。とてもお洒落でスタイルが良い女性だ。
スタイルが良いからお洒落に見えるのか、
お洒落だからスタイルが良く見えるのか、
この目の前の女性はどちらでも有る。と剣士Gのマスターに対する第一印象はこうだった。

マスターP:「やけに今日は賑やかね。あんた今日は何飲む?今日は度数が強いお酒が入ったの。」

大男ガイムの友人は言う。「女と酒は強い方が好みよ。」

大男ガイム:「マスター。飲み物の前に、こいつの疲れを抜いてやってくれないか?肉体と心の疲れ。両方頼む。」

マスターP:「つけは酒だけだよ。」

大男ガイム:「わかってりゃぁ。おいっ。モリオ立て換えてもらっていいか?」

モリオ:「おーい。まじかよ。俺だって生活があるんだぜ。このツケは大きいぞー。」

マスターP:「確かにもらったよ。毎度ありっ。そこのせっかちさん。こっちにきなっ。」

剣士G:「…。」

大男ガイムの顔を伺う。ガイムは顎で彼女についてけ!とジェスチャーする。
バーカウンター脇を通り奥の部屋へ移動した。
2つのドアがあり、そのドア上がパープル色の曇りガラスの方、右側の部屋にふたりは入った。
部屋の中は店内の客を入れ込む、せまっ苦しいイメージより開放的で、天井が高く太い梁が一本通っていて、その梁に白いベンチがブランコの様にぶら下がっていた。

マスターP:「そこの白いベンチに座って。」

剣士Gはこれから何がはじまるのか、意味がわらかなかったが、泣けなしのお金を払ってまで、何かをしてくれるのだ。彼女の言われるままにした。

マスターPが手を1度叩く。
部屋の中が、夕焼けの様なオレンジ色に変わった。

マスターP:「上半身裸になりなさい。」

剣士Gは恥ずかしそうに服を脱いだ。

マスターP:「力を抜いてリラックスして。こわがることはないわ。ここは癒しの部屋。君の身体の傷と疲労と、精神の病みを取り除く部屋。」

再度彼女はパンっ、と手を叩く。
夕焼けの様なオレンジ色は彼女の方に集まる。まるで色が意思を持っているかのようだ。
彼女は両方の手のひらを、その向かってくる色に向け、集まってきたオレンジの色筋を絡めて伸ばし、一本の棒のように形どった。そしてその棒を細く細く、うどん麺ぐらいの細さにこねてゆく。。そのこねた光筋はオレンジの光を帯びて蛇のように大きなとぐろを巻いて彼女の頭上に集まっていった。全てを光に帯びたものにこね終えると、「ヤッ!」とだけ一声あげて剣士Gの方へ指差し、その光筋をぶつけてきた。
細い光筋は剣士Gの右耳の中へ入っていく。
剣士Gは何か、が入ってきている侵入感に浸った。
「き、もち、いい、、。」
剣士Gの眼はパチクリ瞬きすると眼をあけた瞬間だけオレンジ色の発光を漏らす。やがて光筋はお腹へ移動し、腹部もぼんやりとオレンジ色に鈍く発光した。
「なんだろう。力が抜けていく、そして頭の中は空っぽ。考えそのもの、全く思考が働かない。」

その光筋は身体をひと回りしたのか10分後には剣士Gの左耳からニョロリと出ていった。
そのニョロリとした瞬間も、剣士Gは何とも言えない感覚の気持ちよさに身悶えした。
そして身体から全て、出きったオレンジ色の光筋は、再度マスターPの頭上に、とぐろを巻いて集まった。

「パンっ!!」と強くマスターPが3度目となる手を叩くと、とぐろを巻いたオレンジ色の光筋はパッ、と弾け部屋の中は最初にこの部屋へ入った時の様に、元に戻った。

マスターP:「終わったよ。今身体は最高にベストポジションよ!」

マスターPは身構える。
格闘の姿勢をとった。。
試してみるよ。かかってきなさい!

剣士GとマスターPの無言の格闘がはじまった。
バーカウンター側のホールには、どんなに激しく壁にぶつかっても、穴が空いても、全く響かず誰も気づかなかった。
”癒しの部屋”とはそういう部屋なのだ。

剣士Gが部屋を出て、バーカウンターホールへ戻ってきた。
マスターPは髪をなおしながら、少し遅れてバーカウンターへ戻る。

モリオ:「おお。来たか。おかえり。どうだった?最高だったろう?」

まるでお店で初体験を終えたばかりの青年に話す様な、まどろこしい言い方だ。ガイムがそのまどろこさに便乗する。

大男ガイム:「(ニヤつく)おいっ。その顔!もしや、お前一発やってきたなぁ?(笑)」

剣士G:「うるさいっ!」

大男ガイム:「力みなぎるだろう。闘いたくてしょうがないはずだ。今お前は”無”の境地にいる。”無”は何においても最強な状態を意味する。力、スピード、頭脳、聴力。」

モリオ:「おおー。怖っ。僕はせっかちな君が好きだったのぉにぃー。(ふざける)」

大男ガイム:「お腹を満たしたら用を足してもらう。その為にお金をはたいてまでも、お前をベストポジションにしたんだ。」

剣士G:「何をしようってんだい。何をしても今の俺は最強だ。」

剣士Gはコロッセウムにいた。
砦の地下通路はコロッセウムに通じる。
ここ剣士の砦は幼少期から剣士を育てる。
コロッセウムはその伝統を引き継ぎ、剣士皆で建設した円形闘技場である。
剣士の砦は、このコロッセウムを中心に【士魂の砦】、【大願の砦】、そして剣士Gがいる【伝奏の砦】とわかれる。全剣士が集まる時、それがコロッセウムでの闘いの時となる。

アナウンスが鳴る。
「レディースandジェントルメンっ、今宵集まりし強者どもよ。今宵の勝者に与えし物、それはこれだぁっ。どんな攻撃をも緩和し我が身を守る盾となる。最強防具”レジスタンス”だぁっ。今宵の勝者にはこれを着てレベルアップを実現!」


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