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地域公共交通計画に見るこれからの地域の在り方(後編)

前回、地域公共交通計画【素案】(以下『素案』とします)に見る花巻市の地域公共交通の課題について紹介しました。
私が前回取り上げた課題は、
1.事業者の収益悪化と運転士不足による路線縮小や便数削減の問題
2.高齢者などの移動困難者の交通手段の確保
3.観光客などの来訪者にとっても移動しやすい公共交通の整備
の3つです。

花巻市の地域公共交通の課題はまだありますが、今回は前回取り上げたこの3点に絞って、素案に記載してある目指す姿(解決への指針)を紹介し、私の考えを補足したいと思います。

1.事業者の収益悪化と運転士不足による路線縮小や便数削減の問題

1点目の課題について、素案では令和10年度までに下記のとおりの目標を設定して「市民の移動機会を支える公共交通」を維持することとしています。

花巻市地域公共交通計画(素案)より抜粋

現在の幹線路線というのは、次の5路線です。
①石鳥谷線(石鳥谷志和口~富士大学入口・・・北上駅前)
②成田(村崎野)線(花巻北高前~成田・・・北上駅前)
③大迫石鳥谷線(大迫中学校~石鳥谷駅前)
④大迫花巻線(大迫~県立中央病院)
⑤土沢線(イトーヨーカドー~土沢)

このうち、⑤土沢線については、利用者の減少、運転士不足などの要因により4月から花巻市のコミュニティバスでの運行となる予定です。
また、他路線についても利用者は減少しており、経常収益が大きく赤字となっている路線もあって、今後の路線維持の見通しは正直厳しいかもしれません。

花巻市地域公共交通計画(素案)より抜粋

また今回の素案によると、支線路線のうち、これまで石鳥谷線と停留所が被っていた教育センター線のルートの一部を変更するほか、天下田団地線は花巻駅前から賢治詩碑前の利用者が少ないことからルートを変更するなどして、住民の利便性を高め利用率を上げることとしています。

市街地循環バスは、コロナ禍の影響で一時的に利用者が減ったものの、現在はコロナ前の令和元年度の水準に回復しているとのことであり、今後ルートの見直しなどでさらに利便性を高めることとしています。

いずれにせよ、幹線路線、支線路線、市街地循環バスの利用者向上のためには、私たち利用者が日頃から「バス」を使うという意識を高めていかなければなりません。

2月8日に開催された市議会議員に対する素案の説明会において、同僚議員から「市職員も積極的に公共交通を使うべきではないか」という提言がありました。
まさにその通りで、行政、市民、企業もちろん議員も一体となった取り組みが必要なのはいうべきでもありません。

とはいうものの、市民や企業にただ「公共交通を使ってください」とお願いするばかりではなく、知らず知らずのうちに公共交通を使うよう行動変容を促す、すなわち「インセンティブ(報酬)」や「ナッジ」などの行動経済学の見地をとりいれながら利用を増やしていく必要があると思います。

例えば花巻市で取り組んでいる「はなまき健康ポイント事業」。
令和5年度は6月~11月までの6か月間の期間で、ウォーキング等により一定のポイントを獲得すると抽選で電子マネーが獲得できるという内容であり、電子マネーというインセンティブ(報酬)で目標を定め、そこに向けて健康増進を図るというこの事業は一定の成果を収めているということです。

まあ、馬の鼻先にニンジンをぶら下げるという手法ではあるわけですが、地域公共交通においても公共交通系のICカードが使えることですし、公共交通を使ってポイント還元という事業も可能だと思います。実際に地域公共交通の利用とポイントカードと結びつけている事例もあります。

北海道江刺町
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/transport/kyousou/examples/22002-1.pdf

岩手県盛岡市
http://www.iwate-kenpokubus.co.jp/uploads/20220614_press.pdf

あるいは、交通安全コンクール「チャレンジ100」のように、企業対抗、自治会対抗などで『公共交通を利用しようコンクール』を実施してもいいかもしれません。
(順位を決めて商品を配るのを競えば「インセンティブ」になります。みんなが公共交通に乗らなきゃいけないという同調行動であれば、それは「ハーディング現象」と呼ばれています)

「ナッジ」についてもご紹介?提案しようと思いましたが、長くなりそうなので別の機会に回しますが、いずれ、様々な方法で地域公共交通の利用率を上げる取り組みをしていく必要があると思います。

2.高齢者などの移動困難者の交通手段の確保

今回の計画では、新たに花巻(湯口、湯本、矢沢、宮野目)地区への予約乗合交通の導入を行い交通空白地域縮減に努めるとともに、スクールバス・スクールタクシーへの一般混乗や予約乗合交通の運行形態の見直し等を図りながら、移動困難者の交通手段の確保に取り組むこととしています。

現在、花巻市の各地域において「花巻市地域公共交通計画(素案)に関する説明会」が開催されています。実際に予約乗合交通が導入されている地域の皆さんにとっては、自分の地域の予約乗合交通の運行日や運行方法が大きな関心事だと思います。
ここでは各地域の運行内容まで詳細に解説できませんが、ぜひとも説明会に参加していただきたいと思います。


素案の中で一つ気になることがありました。
それは、「地域住民による移動手段確保への支援」についてです。

花巻市地域公共交通計画(素案)より抜粋

「地域が行う互助輸送」というのは、例えば北上市の口内地区で行われている地域住民による自家用有償旅客運送のような取り組みだと思うのですが、そこは素案では明確にされていません。
この部分については、今後市議会一般質問等で明らかにしていきたいと思います。


3.観光客などの来訪者にとっても移動しやすい公共交通の整備

前回の記事で、観光スポットへのアクセスや、新花巻駅と路線バス(土沢線)の接続等の課題について言及しましたが、今回の素案によるとその部分は大きく改善されています。

観光スポットへのアクセスについて、前回花巻東高校の事例を取り上げましたが、素案によると、市街地循環バスの路線を見直し花巻東高校前まで市街地循環バスが乗り入れることとなるようです。

先日、花巻東高校硬式野球部3年の佐々木麟太郎選手が、アメリカのスタンフォード大学へ進学するというニュースが流れました。

菊池雄星選手、大谷翔平選手、西舘勇陽選手、佐々木麟太郎選手らの活躍で、本当に花巻の名は全国区となりました。
その知名度を活かさない手はないと思いますが、この部分についてはまたどこかで取り上げたいと思います。

また、新花巻駅と路線バス(土沢線)についても、土沢線がコミュニティバスになることとあわせ、東京駅発着の新幹線の時刻表に合わせた路線バスの時刻となるようです。

いずれ、観光スポットへのアクセスについては、観光資源の掘り起こしも含めて今後取り組んでいかなければならない課題であると思います。


最後に

私は、今回示された素案を非常に高く評価しています。
策定にあたられた職員の方々には敬意を表するところです。

一方で、今後の取り組みが重要なのはいうまでもありません。

国では、地方公共交通について
・ローカル鉄道の再構築
・自動運転やMaaS(※)・AIオンデマンド交通などデジタル技術を実装する 「交通DX」
・車両電動化や交通コスト削減など「交通GX」
・『官民共創』『交通事業者間共創』『他分野共創』の「3つの共創」
これらを進めることにより、利便性・持続可能性・生産性を高め、地域公共交通の「リ・デザイン」(再構築)を図ることとしています。
(国土交通省 交通政策審議会交通体系分科会地域公共交通部会 最終とりまとめ資料より)

花巻市においても、このような国の方向性を見据えながら、行政との地域住民との協働を含めた3つの共創を図り、地域独自の公共交通の「リ・デザイン」(再構築)を進めていかなければならないと思います。

※MaaS・・・「MaaS(Mobility as a Service)」とは、地域住民や旅行者一人一人のトリップ単位での移動ニーズに対応して、複数の公共交通やそれ以外の移動サービスを最適に組み合わせて検索・予約・決済等を一括で行うサービス。
MaaSによるサービスでは、スマートフォンのアプリを立ち上げれば、出発地から目的地までの交通手段の検索から予約・支払いまでができ、さらには、観光案内、飲食店やホテルの予約・支払い、または病院や行政サービスなどの予約・支払いも一括して行うことが可能となる。

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