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【書評】「トランプ信者」潜入1年 私の目の前で民主主義が死んだ(小学館ebooks)

 11代伝蔵の書評100本勝負21本目 
トランプ前大統領の任期中、その言動は日本でもワイドショーを中心にしばしば(面白おかしく)取り上げられました。2021年1月6日の連邦議会襲撃は特に大きく報道されましたから、彼のことはある程度知っていると思っていました。しかしながら本書に目を通して僕の知っていることは極一部で、日本人の僕からみるとトランプはとても大統領になるタマとは思えません。何せ大統領になる前、3500件の訴訟案件を抱え(大統領に就任してから!さらに70件追加)政治経験ない人物が共和党の正式候補になり1期とはいえ、大統領になってしまうんですから。それで思い出すのが40年前のレーガン大統領のことです。
 僕の亡き父は日本にまだドルの持ち出し制限があった頃、苦労してアメリカ留学して、そのことを生涯誇りにした人です。子供の僕から見てもゴリゴリの親米派でした。ただアメリカの友人の多くは民主党贔屓だったようでレーガンがまだ大統領候補だった時、「レーガンが勝つのかなぁ?」と聞くと「勝つ訳がない、俳優上がりなのに」という言葉を覚えています。父の発言は多くのアメリカ知識層の代弁だったのでしょう。妥当性はともかくこの父の発言とトランプ前大統領が僕にはダブります。
 本書を読んで知ったことはいくつもありますが、改めて痛感したのはアメリカ大統領選において宗教が果たす役割の大きさです。トランプはプロテスタント福音派に属します。福音派は多くの保守層が信奉していてトランプの鉄板支持層でした。また福音派は基本生命尊重派(中絶を認めない)です。つまり中絶の是非が大統領選びの重要な争点になるというのです。トランプは生命尊重派で本書の中でもトランプを支持する理由として生命尊重派であることを挙げています。しかも著者のインタビューに答えた支持者の多くが「そこは譲れないポイント」と答えています。日本にはない争点ですが、逆に言えば「それ以外は全て譲れる」からこそ、在任中、Twitterを中心に「3万回」嘘をついたとされるトランプが大統領になれたのかもしれません。

本書は2021年1月6日の連邦議会襲撃の日から筆を起こしています。著者はトランプ信者のように連邦議会内には突入しなかったものの、その暴挙の目撃者となります。催涙スプレーを浴びながら、本書の副題となる「今日アメリカの民主主義が死んだ」とノートに走り書くのです。そして時間を戻してバイデン候補との選挙戦をトランプの選挙ボランティアに潜入してその視点からアメリカの民主主義を検証しているというが僕の本書に対する見立てです。思い掛けないコロナ流行で潜入取材は充分な成果を挙げたとはいえないと思いますが、アメリカ人考え方の一端が垣間見れて興味深く読むことが出来ました。特に印象的でったのはバイデン支持者の中に「オバマの反動でトランプが大統領になれた」という見立てをする人がいたということ。説得力がある思ったし、僕にはない視点でした。

 選挙制度が大きく違いますから、安易に日米の差異は比較できません。ただ見かけの違いよりもいくつかの共通点もあるのではないかと思いました。


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