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【火アリの方】国名シリーズをさくっと紹介してみた

「オランダの首都ってどこだっけ」
「あー、あそこだよ。あの……」
「待って。自分で考える。ヒントちょうだい」
「ヒントねぇ。『ア』で始まる7文字」
「ア……ア……あ、アルゼンチン!」
南米か。かつて一世を風靡した有名なツッコミが脳裏に浮かんだ。そもそもアルゼンチンって6文字じゃねぇか。

賢い読者の皆様はご存知であろうが、答えは『アムステルダム』です。日本という島の外にはろくに出たこともないくせに、世界各国の首都が好きで中学時代は地図帳とにらめっこしていた。なんといっても語感がいい。ストックホルムとか、コペンハーゲンとか、スリジャヤワルダナプラコッテとか。
だからとは言わないが、有栖川有栖の『国名シリーズ』というのは、ワールドワイド全開のものだと思っていた。ところがどっこい、日本の外に出たの『マレー鉄道の謎』ぐらいだし、異国情緒を香水ぐらいに匂わせた、シンプルなミステリ小説である。それはそれで、海外が舞台の小説にありがちな「カタカナ名まじで覚えられない問題」が発生しないので気楽である。短編長編ともに揃っているし、割とカジュアルにおすすめできるシリーズなのだ。
ということで、国名シリーズをサクッと紹介してみます。順番は刊行順です。どうぞよろしく。

①46番目の密室(長編)

これが国名シリーズに分類されるか否かは意見が割れそうですが、わたしは広い心で受け入れることにします。国名シリーズ第1号はお前だ!
国名シリーズに限らず、火村とアリスが活躍する作家アリスシリーズはここから始まってる。初めて読んだときに、火村とアリスの来歴の端折り方が過去作で述べてるから省略するね☆のそれだったので、これが作家アリスシリーズ第1号だとは信じられなかった。
タイトル通り密室の謎を解くおはなしです。

②ロシア紅茶の謎(短編)

ロシアの首都はモスクワですね。さて、わたくし鼻に抜ける香りがダメで紅茶飲めないんですが、ジャムの入った紅茶というのはなんだかそそられますよね。しかしこの本はミステリの世界線なのでそんなフルーティーで美味しそうなロシア紅茶の中にも容赦なく毒が盛られます。
暗号を取り扱った動物園のお話がなんやかんやで好きだったかもしれないなぁ。

③スウェーデン館の謎(長編)

わたしの大好きな語感、ストックホルムです。
舞台が福島県の五色沼のある方の土地なんだけど、伊坂幸太郎オタクは「五色沼」の単語に過敏に反応するので駄目ですね。キャプテン・サンダーボルトの五色沼は福島ではなく蔵王の御釜です。残念。でも福島の五色沼も行ってみたい。
……と物語に関係ない話をつらつら重ねて参りましたが、内容は非常に重苦しい余韻の残る悲しい物語でございます。

④ブラジル蝶の謎(短編)

ブラジリア。間違ってもリオデジャネイロと答えてはいけません。罠です。オーストラリアも似たような引っ掛け問題を出してくるので、シドニーと答えそうになるのをぐっとこらえて叫びましょう。キャンベラ。
この辺りで、「有栖川氏、撲殺率高くね」とわたしは思い始めました。初期の国名シリーズはまじで引くほど殴り殺されてるから。殴り殺したい相手が居たのかと勘ぐるレベル。
ブラジルでの蝶の羽ばたきがアメリカでハリケーンを起こすというカオス理論もあるが、蝶にはじまって蝶に終わる。ちなみにこの理論はバタフライエフェクトといいます。

⑤英国庭園の謎(短編)

ロンドン。ちなみにイギリスは『グレートブリテン及び北アイルランド連合王国』が正式名称。もっと訳分からんものを紹介すると、タイのバンコクの正式名称はクルンテープマハナコーンアモーンラッタナコーシン((ry
表題作で殺されるヤツの趣味が非常に悪いので困ってしまった。カタルシスよどこへ。作中の『三つの日付』で出てきた赤星楽が過去作で殺されてると知り、「あ、これ作家アリスシリーズにも時系列あるやつだな」と察した。気になる方は『海のある奈良に死す』をご一読あれ。

⑥ペルシャ猫の謎(短編)

テヘラン。ペルシャ猫、ペルシャ絨毯と色々あるけど国号ではないんだよね。というか国号がイランに変わったというか。産まれるはるか前の話なのでよく知りません。日本史選択だったから世界史的な観点でもアケメネス朝ペルシアしか知らん。
シリーズ内でいちばん好き勝手書いてる一冊だと思ってる。張り切りボーイ森下くんを応援して、火村英生(CV斎藤工)の「婆ちゃん、猫もう一匹増えてもいいかな」に悶えてたら読み終わります。多分。

⑦マレー鉄道の謎(長編)

クアラルンプール。唯一海を渡る火村と有栖川。いままで取材費おりひんかったんやろか。
思ったより闇は深いし巨悪は潜んでるし殺されたやつも殺したやつもろくでもない。裏表紙のあらすじに疑惑がかけられた友人と出てくるけども彼に疑惑がかかるの結構終盤なのでちょっとやきもきする。
トリックもお話も壮大なので楽しく読めました。海外のお話だけど登場人物の大半が日本人なので、「カタカナ名まじで覚えられない問題」はそんなに気にならなかった。

⑧スイス時計の謎(短編)

ベルン。ジュネーブは引っ掛け問題だから気を付けてね……ってこのくだりさっきもやったな。
首が持ち去られたり名前を間違われたり、火村とアリスの周囲はいつも通り騒がしいですが、表題作がいちばん面白かったかな。
高校生にして厨二病拗らせてたエリートが大人になって内輪でおこした悲劇なんだけど、アリスの過去と絡めて綺麗にまとめていた気がしたので。昔の同級生と関わる中でアリスにも救いがあったから素直に楽しく読めました。
珍しく真面目に語ってみました。

⑨モロッコ水晶の謎(短編)

ラバト。カサブランカじゃないよ……って流石に間違えないか。
表題作は論理的じゃないんだけどものすごく論理的なのが非常にツボでした。わけがわからん? 読もう。読めばわかる。
ABCキラー、助教授の身代金など結構単体で売れてるお話はこの巻に多いなという印象。
正直感想がこの程度しか浮かばないので唐突ですがわたしの好きな語感の首都トップ3(アジア縛り)を発表したいと思います。
1位クアラルンプール(マレーシア)
2位マスカット(オマーン)
3位カトマンズ(ネパール)

⑩インド倶楽部の謎(長編)

ニューデリー。序盤も序盤で登場人物の娘がカラオケで『前前前世』歌ってんだけど、世相反映しすぎててワロタと思ってたら仄めかしでもっとワロタ。
前世でつながってると言い出した奴の語る物語が、小学生のごっこ遊びで負けず嫌いが高じて強さが無駄にインフレしていくアレで鼻白んでしまった。自分以外を堂々としょぼい脇役に割り振る当たり特にアレ。
殺したのは誰なのか云々よりも、マハラジャと妻を巡るあれこれの方が読み応えがありました。面白かったです。

⑪カナダ金貨の謎(短編)

オタワ。バンクーバーでもトロントでもありません。
火村とアリスの出会いがちゃんと読みたい人は是非ともこちらを手に取って悶絶してください。前巻のインド倶楽部で過去作のタイトルは「作家のアリスが事件と関わる度に心の中でこっそりつけてたタイトル」だということがわかりましたが今度はカナダ金貨です。表題作は犯人の視点が半分を占め、誰が犯人なのかは事前にわかってるのだが、答えは√7です、さて問題は何でしょうと言われてる感じなのでそれはそれで面白いです。


なんか首都紹介ゾーンの方が尺取ってた気もするが気にしない。
国名シリーズが今後増えるのか、なんなら作家アリスシリーズが増えるのかは有栖川有栖のみぞ知るところだが、徹底して隠してきた火村英生の過去が明らかになるときがきたら、それはシリーズを畳むときなんだろうなと覚悟をしている。
身も蓋もない話をすると、作家アリスシリーズでは『乱鴉の島』がいちばん好きです。国名シリーズに限らず、有栖川さんの小説は気取った表現が多くて好みなので今後も推していきたい所存。
それでは、ご清聴ありがとうございました!
続きません!それでは!

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