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The Greatest Footballman

生きよう 輝こう 君の炎を明るく燃やそう

5年も前の映画を、いまさらせっせと映画館で鑑賞し始めた。毎週火曜日の19時からTOHOシネマズ日比谷で放映している『グレイテスト・ショーマン』。年明けに初めて映画館で鑑賞してから、同じ演目ばかり10回以上。流石にやりすぎだ。
なんといっても音楽がいい。世はサブスク大航海時代だが、例えば「The other side」で小物や革靴が立てる音など、映画館のでっかいスピーカーでしか味わえないものも全部ひっくるめて「映画音楽」と言うんじゃないだろうか。有名な曲は数あるが、中でも影法師は「From now on」が気に入っている。サビ前の力強いロングトーンが主演のヒュー・ジャックマンの声域にビタっとハマって非常に気持ちがいいからだ。

そんな『グレイテスト・ショーマン』は、斬新なアイデアと行動力でアメリカにサーカスを設立したP.T.バーナムの伝記が下敷きになっている。正直なところ映画を見て主人公に抱いた印象は「猪突猛進型の考え無し」でそれほど共感はできなかったのだが、彼に集められたサーカス小屋の面々は非常に魅力的だった。
小人症の男性もいれば、髭の生えた女性もいる。全身に刺青のある男、黒人の空中ブランコ演技者、アルビノ……一人一人に属性以上の個性を与えられるほど映画に尺はなかったが、彼らをサーカスに寄せ集めたキーワードは「ユニーク」だった。時代考証を踏まえると、つまりは世間に虐げられているやつ、ということになる。作中の音楽は彼らが踊りながら歌い上げるものも多いが、踏みにじられてきた者にしか表現できない強さがあった。『This is me』は有名な曲だが、字幕を担当した石田泰子氏は歌詞の一部をこう訳している。

心に弾を受け続けた
でも撃ち返す 今日は恥も跳ね返す
バリケードを破り 太陽に手を伸ばそう
私たちは戦士 戦うために姿を変えた
心の誇りは失わない
居場所はあるはず
輝く私たちのために

映画『グレイテスト・ショーマン』


……居場所はあるはず、と祈り続けて数年たった。厳密には居場所はあったんだと思う。でもそこはピッチの上ではなく、なんならベンチの中でもなかった。そして、競技の世界は人格で食っていけるほど優しくはない。当たり前のことだ。
退団はもっともだと思ったし、数年前、2019年ぐらいからずっと、この日がくることは覚悟していた。覚悟できただけマシなんだろう。この世界では往々にして、別れは突然やってくる。それでもショックは大きかった。だって13年も経ってしまったのだ。2011年にファンになったわたしは、藤春廣輝のいないガンバ大阪を知らない。第一報が各紙で出てから丸一日。チームから公式に出された退団報道に、コーラから突然炭酸が抜けたような気分になった。応援する選手が応援するチームからいなくなる。たったそれだけのことなのに。
30を過ぎると急に故障が増え、昨シーズンの途中からは分かりやすくベンチ外が増えた……というよりベンチ入りすることの方が珍しくなった。進化する戦術、若手の台頭、チームとしては喜ばしいことじゃないか。そんな呑気なことを言ってられるほどチームは強くなかったから、見ているこちらはもどかしかった。
今シーズンからは露骨にグッズ展開もされなくなり、(あ、今年で終わりかも)と薄々感じながらの毎日。リーグ戦のスタメンはたったの1試合だった。正直、ここ数年は応援していることがつらかったよ。年齢のせいか故障のせいか、だんだんピッチ上で存在感を示し続けられなくなるのを直視するのもしんどかったし、それによって近年は特に、試合に出ても出ていなくてもサポーターからの風当たりが強かったからだ。
これに関してはまじでめちゃくちゃ考えた。「アスリートに対する誹謗中傷についての考察」というタイトルで論文一本出せるレベルに考えさせられた。パナソニックスタジアムのプルスパジオに並んでいたら後ろのカップルが藤春の悪口を言い始め、SNSでは中傷の酷さを見るに見かねたOBの武ちゃんが苦言を呈す。わたしが藤春だったら、開示請求して法律でぶん殴るか、阪急電鉄の線路に飛び込むかの二択だろう。見てるこっちですらゴリゴリにメンタルを削られていたのだから、本人にぶつけられていた悪意はきっとずっと多い。それでも、何も感じていないような顔をして走り続けていたのはシンプルにかっこよかった。何を言われても、試合に出られなくても、サッカーが好きだからやっていける。年齢を重ねる毎に、プレーには心の強さが乗っかっていくように思えた。

サイドを疾走する、少し猫背な背中が好きだった。応援しているうちに器用な選手ではないことは察したものの、疾走感のあるオーバーラップや、スピードにのったセンタリング、そして無駄走りを厭わない精神力。走力という武器を最大限に生かし、チームのためにピッチを縦横無尽に駆け抜ける姿はとても魅力的だった。ザルだった守備も微妙だったクロス精度も上手くなったけど、全てを出し切るプレースタイルはベテランと呼ばれるようになっても変わらなかった。そういうところも好きだった。
2015年には代表にも選出された。色々(まじで色々)あったがオリンピックにもオーバーエイジで出場。世代別の日本代表にも縁がなかったところから、自分の足でキャリアを切り開いていく姿は眩しかった。ベテランになっていくにつれて、チームの若手や外国籍選手に積極的に声をかけ、世話を焼き、練習では決して手を抜かない人となりが表に出るようになった。それはつまり、プレー面だけでは特筆すべきものがなくなりつつあるということの裏返しだったけど、それでもそういう記事を見る度に、応援していることが誇らしかった。私もそういう生き方をしたいと思った。

居場所はちゃんとあった。たくさんのチームメイトが、最終節は「勝って藤春を送り出す」と意気込んだ。85分に途中出場したときは、その日1番の歓声が響いたらしい。
第一報から2日間泣き腫らしていた影法師は人生最高に不細工な顔面を日々更新しつつ仕事をしていたのだが、ラストマッチの様子はYouTubeにもアップされていた。私はこの春で26になる。人生の半分をかけて応援してきた相手が、この選手で良かったと思った。近年は応援していて辛いことも多かったけど、幸せなこともたくさんあった。
本人の希望は現役続行。次の所属先は決まっていないが、まだまだ元気にサッカーしている姿が見られると信じて続報を待とうと思う。大阪だと距離の問題でなかなか現地観戦は厳しかったので関東に来ないかなと思ってみたりラジバンダリ。青と黒だけだった藤春のユニフォームに新しい色が加わるのもまぁ悪くない。
13年間応援させてくれて、ありがとう。そしてこれからも。
次のキャリアの幕は、もう上がっている。

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