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【メンヘラ】自己肯定感を破壊してくる小説選んでみた【集まれ】

七夕の夜に祈ったのは、『世界平和』だった。

残念ながら影法師はそんなに性格がよくない。祈ったのはとあるプロ野球選手であった。中継ぎから先発転向したルーキーは、ここまで4先発4勝と想定外の活躍を見せている。神様からすれば、先発して勝つことこそが世界平和への近道だと思ってるのかもしれない。
……というのは置いておいて、チームの優勝やら個人の成績ではなく世界平和を祈っちゃうふてぶてしさは単純に羨ましいと思った。良い意味で空気を読まないのは才能である。チームの悪い雰囲気にも飲まれないということだから。よほどメンタルが強いんだろうと感心している。大したルーキーだ。

それを羨望の眼差しで見つめる影法師は、そんなにメンタルが強くない。言ったこと言われたこと、やったことやられたことにくよくよ悩んで、一人で勝手に潰れている。自分は能力的にも人間的にも劣っているという劣等感からはじまっているから、周りはみんな自分のことが嫌いだと思っているし、それはみんな自分のせいだと思っている。加害妄想と被害妄想を組み合わせて建てたお城に住むメンヘラ、それが私である。
だからか、小説の後ろ向きな名言がやたらと響く。登場人物が『だからお前はダメなのだ』と言われている言葉をまるで自分が言われているかのように噛み締めてはただでさえマイナスに振り切ってる自己肯定感を下げている。もはや病気だ。多分心療内科あたりにかかったら普通に病名がつくと思う。行かんけど。

とはいえ、そのメンヘラを内に秘めて普通の社会人をやっているわけで、つまりは自分と同等の劣等感を抱える人間はそれなりにいると思うのだ。言葉に傷付けられることで救われる、ある種自傷行為のようなものに縋るいびつな社会人はきっと私一人ではない。なぜなら、わたしという凡庸な人間がメンタルに関してもなにか特別な属性を有しているはずがないからだ。ほら見ろ。とことん歪んでいる。

①本多孝好『チェーン・ポイズン』講談社

序盤がキツい。とにかくキツい。凡庸な社会人の独白がキツすぎる。
本多孝好さんは大好きな作家さんで、何がいいって叙述の丁寧さなんですよね。『ぴたっとハマる』言葉を当ててくるのは森絵都さんに近いかなと思っております。ただし、ハマる言葉で的確に急所を抉ってくるのでだいたいどの作品でもMPがゴリゴリ削られます。
そんなゴリゴリ削ってくる作品群の中でこれを選んだのは、単純にとても面白かったからです。そんなわたしからいちばん『効いた』一節をどうぞ。

普通に過ごせば無視されて、甘さを見せればつけ込まれ、弱さを見せれば突き放される。
何だ、と私は思った。
現実の社会と変わらないじゃない。


②三浦しをん『風が強く吹いている』新潮社

ハードカバーの表紙が好きなのでハードカバーにします。
えっこれスポ根やん、と思いますでしょう。スポ根なんですけど、三浦先生のすごいところはただのスポ根に終わらないところなんですよね。
メンヘラ三原則、その1。努力は報われない。
これをとことん突き詰めてるので安易な友情努力勝利の方程式だと思ってこの本を読まない方がいい。そしてスポーツ関係なくメンタル殺しにくる部分もあるので注意。
わたし的にはキングのモノローグがいちばん心にきた。

キングは自分が嫌いだった。嫌いだということだけはわかり、いまさら生きかたを変える術はわからないままだ。


③辻村深月『噛み合わない話と、ある過去について』講談社

つい先日文庫化したしタイムリーでええやろ。この小説を中学時代の加害者たちに送ってやりたいと思っていた性格の悪い影法師はこちらです。
メンヘラ三原則その2、根に持つ。
言ってしまったやってしまったは悪気が無くても忘れられない。いわんや、言われたこと、やられたことをや。文法が合ってるかは知らん。
過去の嫌な思い出を忘れられずに反芻してはその毒にあてられるのも一種の自傷行為なのかもしれん。年月の経過と共に毒素は濃くなるのでご注意を。

不愉快だったと思うわ。当時の私のような子ども。空気が読めず、自意識ばかり一人前で、人望はないのに目立ちたがり。持っているものも垢抜けないのに、あなたたちのように垢抜けた子たちと仲良くしたくて、周りをうろうろする。ーーさぞ、目障りだったでしょう。外されて当然だと思う。


④サリンジャー『フラニーとズーイ』新潮社

7割宗教論争でわけわかめって感じだったけど、わかる部分を読み進めたらメンタルぶっ壊れたでござる。
サリンジャーといえば『ライ麦畑でつかまえて』。斜に構えた若者たちのバイブルである。つまり青少年の自意識に突き刺さる内容が多いということで、当然メンヘラの自意識にも突き刺さる。突き刺さりすぎて、瀕死。
フラニーに対して兄のズーイは当たりが強いし、その兄弟に対して母も当たりが強いし、しかも会話が終わらねぇし、ほとんど会話文とモノローグで禅問答してる。ト書きはないものと思え。
そしてメンヘラ三原則その3。傲慢な幸福論。
ちなみにこれらは今考えた三原則なのでソースはありません。強いて言うならソースは私。適度に聞き流してください。

もしそれで幸福になれないのなら、たくさんの知識を持っていたって、頭が面白いように切れたって、どんな意味があるんだろう?

ちなみにこちらは以下の記事でも引用してます。この記事よりよっぽど前向きなので良かったらこっちも読んで。

https://note.com/26t_03h/n/n6c80dc0f0b49


さて、いかがでしたでしょうか。
健全なメンタルをお持ちのあなたには響かなかったとは思いますが、別にメンヘラ的な見方をしなくても普通に面白い小説だと思うので良かったら手に取ってくれると嬉しい。
この手のよく分からんカテゴライズ書評は一冊をガッツリ語るより手軽だから頼っちゃうよね。メンタルぶっ壊し書籍は他にもたくさんあるので、気が向いて仕事が落ち着いたらまたやるかもしれません。その時はどうぞよろしく。

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