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【徹底検証】シェイクスピア1番の復讐劇ってなんだと思う?

1年とやや前のことだ。シェイクスピアにちょっと関係のあるドラマが始まった。
主人公たちはSNSで話題のインフルエンサーで、彼らに悩みを打ち明けるとシェイクスピアを引用した「台詞」が貰える。
ここまでのあらすじを読んで「さっぱり分からん」と思った皆様、ご安心を。最初から最後まで見たわたしも「さっぱり分からん」と思った。あれは、本筋のストーリーをがっつり楽しむドラマではなかったように思う。だから別に脚本や構成に文句はない。
だがしかーし! 4話ぐらいで登場人物の1人が言うのだ。何気ない日常会話のトーンであった。

「シェイクスピアで1番の復讐劇ってなんだと思う?やっぱりマクベス?」

ん???
「やっぱり」マクベス???
そもそもマクベスって復讐劇???

これ書いた脚本家さん、ほんとすいません。ディスってるわけじゃないんです。ただ、杉下右京ばりに細かいことが気になっちゃっただけでして。
なので検証してみることにした。シェイクスピアで1番の復讐劇って、一体なんだ?

シェイクスピアの喜劇はほとんどが結婚で終わる。復讐劇がハッピーウエディングエンドになるとは思えないので、喜劇は除外。史劇は史実を大まかに描いた感じなのでこちらも除外。ロマンス劇も結果的にハッピーエンドが多いので除外。
ということで、シェイクスピアの悲劇にあたる戯曲をひとつひとつ検証していく。項目は2点。【復讐劇点】【やっぱり点】だ。ゴリゴリの復讐劇でも、「やっぱり○○?」構文に当てはまらなければ、知識をひけらかしたい嫌味になってしまう。
ちなみに、悲劇やら喜劇の分け方は、大まかにいうと「人の名前がタイトル」は悲劇、「英国王の名前がタイトル」が史劇、「それ以外」が喜劇らしい。
時系列で『ペリクリーズ』以降はロマンス劇になる。無論、細かく分類しようとすればいくらでも細かくできる。問題劇とか、円熟喜劇とか。

①タイタス・アンドロニカス

【復讐劇点】☆☆☆☆
【やっぱり点】☆
【カニバリズム点】☆☆☆☆☆

幻の作品的な位置づけで、原文欠損もある。当然ながら「やっぱり」ではない。
これR-15付けずに上演していいの?ってレベルに血なまぐさい悲劇で、復讐相手の子供を殺してパイにし、食べさせるなんて描写もある。スプラッタ好きは読んでみるといい。

②ロミオとジュリエット

【復讐劇点】☆
【やっぱり点】☆☆☆☆☆
【最大瞬間風速点】☆☆☆☆☆

誰もが知るロミジュリだが、あれはモンタギュー家とキャピュレット家が争ってたが故に娘と息子の恋愛が割を食った話なので決して復讐劇ではない。
彼等が出会ってから死ぬまでたったの5日だというのは、知る人ぞ知る名作の裏側である。

③ジュリアス・シーザー

【復讐劇点】☆☆
【やっぱり点】☆☆☆
【タイトルこれでいいのか点】☆☆☆☆☆

ジュリアス・シーザーがブルータスたち暗殺団に殺されてから、シーザーの腹心の部下アントニーが天下を取るまでのお話なので、復讐劇ではない。アントニーは別にシーザーの復讐のために暗殺団のメンバーと戦ったわけでもないから復讐劇っぽいけど復讐劇ではない。
そしてシーザーは中盤で死んで以降出てこない上にブルータスの懊悩がメインだったりするので、『マーカス・ブルータス』の方がいいんじゃないのかなんて言われたりもする。

④ハムレット

【復讐劇点】☆☆☆☆
【やっぱり点】☆☆☆☆☆
【タイトルしか知らん人多すぎ点】☆☆☆☆☆

いや、これやろ。普通に考えてド王道の復讐劇である。敵は父王を殺し母親と再婚したクローディアス。父王も亡霊になって「復讐してくれ」なんて言っちゃう。
議論があるのは、最後の最後までハムレットが悩み続けたことと、最後の復讐を遂げる場面、
①「クローディアスは自分を殺すつもりで毒を塗った剣と毒入りワインを用意したらしい
②「ワインを誤って飲んで母ガードルードが死んだ
③「自分も毒を塗った剣で傷つけられて死ぬっぽい
④「なんか知らんけど剣が入れ替わって今自分が毒を塗った剣持ってる
ことから「えいっ」とぶっ刺しただけなので、これでいいのか感があるからだと思う。

⑤トロイラスとクレシダ

【復讐劇点】☆
【やっぱり点】☆
【女心と秋の空点】☆☆☆☆☆

悲劇じゃなくて問題劇に分類されることもあるぐらいびっみょーな悲劇です。珍しく死人がとても少ない。
トロイラスと結ばれてたはずのクレシダが思いっきり心変わりして浮気する話です。トロイラス、どんまい。

⑥オセロー

【復讐劇点】☆
【やっぱり点】☆☆☆☆
【サイコパス点】☆☆☆☆☆

イアーゴーという名のサイコパスによって破滅した武人のお話なので復讐劇ではないです。読めばわかるんやけどイアーゴーまじやばい。
オセローはムーア人で色黒だったため、かの有名なボードゲームの元になったと言われてるとか言われてないとか。

⑦リア王

【復讐劇点】☆
【やっぱり点】☆☆☆
【仮面ライダー555点】☆☆☆☆☆

娘3人の中で自分にもっとも誠実な者を見抜けなかった老人の悲劇なので復讐劇ではないですね。
オセローもそうなんだけど、「最初の段階できちんと話し合えば解決する」悲劇が多い。そのもどかしさが最後のカタルシスにつながるのかもしれないけど、そういう悲劇は400年後に仮面ライダー555あたりでみっちり引き継がれ、視聴者を絶望させています。

⑧マクベス

【復讐劇点】☆☆☆
【やっぱり点】☆
【俺がお前でお前が俺で点】☆☆☆☆☆

確かに復讐劇と取れないこともないかな、とは思う。マクベスに一族郎党皆殺しにされたマクダフ、マルカム陣営から見たら思いっきり復讐劇なんだけど、これマクベス目線で進んでくんですわ。少なくとも「やっぱり」ではない。断じてない。
3人の魔女が出てきて「綺麗は穢な、穢なは綺麗」などと意味深な予言をぶちかますのがすべての始まり。これを撞着語法(Oxymoron)と言うそうです。

⑨アントニーとクレオパトラ

【復讐劇点】☆
【やっぱり点】☆☆
【恋愛難しすぎ点】☆☆☆☆☆

絶世の美女クレオパトラに翻弄されるアントニーのお話ですね。復讐劇ではないです。アントニーよ、お前ジュリアス・シーザーから一体なにがあったんだ……。

⑩コリオレーナス

【復讐劇点】☆☆☆☆☆
【やっぱり点】☆☆
【マザコン点】☆☆☆☆☆

個人的にいちばんシンプルな復讐劇はこれだと思ってんだよな。民衆に媚びなかったら護民官にめっちゃ嫌われて追放されたので攻め入ってみました☆って感じの。ただし知名度がアホほど低い。
キレ散らかしてるコリオレーナスを鎮めるのは母親なんだけど、家族を重んじるのは時代やなーと思います。

⑪アテネのタイモン

【復讐劇点】☆☆
【やっぱり点】☆
【執事はつらいよ点】☆☆☆☆☆

人に頼まれたらなんでもお金出しちゃう、なんなら頼まれなくても出しちゃうアテネのタイモンは、浪費が高じて破産寸前。今まで施してた人たちに頼めばいいよね、と思ってたら全員から断られました、って話なので復讐劇ではないですね。浪費する方もする方だし、貰うだけ貰ってずらかる周りも周りだし、板挟みになってた執事さんはめっちゃしんどかったことでしょう。
あとわたしは皮肉屋の哲学者、アペマンタスがめっちゃ好きです。

【番外編】テンペスト

【復讐劇点】☆☆☆☆
【やっぱり点】☆☆☆
【人がゴミのようだ点】☆☆☆☆☆

ロマンス劇なんだけど、一応最初は復讐がベースになってます。書斎派で魔術とかの勉強にうつつを抜かしてたら弟にミラノ大公の座を追われて島流しにあっちゃった!って主人公が、弟たちを乗せた舟が島の近くを通るらしいから復讐したろ、と魔法で嵐(テンペスト)を起こして始まります。
最後に主人公の娘が「素敵な人たちがいっぱい!なんて素晴らしい新世界なの!」って言うんですけど、島に流れ着いてから父親以外の人間見てこなかったから「素敵な人たち」「素晴らしい新世界」なわけであって、実情はなかなかのゴミ人間が揃ってたっていう作者の皮肉とも言われてる。ドラマの1話でこの台詞が出てくるのだがちょっと皮肉のきいた使われ方だったので「おっ」と思ったというどうでもいいお話でした。

【結論】

普通にハムレットやろな、って感じですよね。個人的にはコリオレーナス推したいけどさすがにドラマでそれ出す訳にはいかないし。まぁハムレットでしょ。他にないよ。
以上、解散!

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