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【第37回】川の沿いに住んだ僕は背中を痛めた。

僕は今、川沿いにあるアパートに下宿している。

川と言ってもそんなに広くはない。街の中を流れる両岸に街路樹が植えられているような小さな川だ。ただ休日になると釣りをしている人がいたりするような市民の憩いの川になっている。

川沿いというと大雨による氾濫などが心配されるけれども、堤防がかなり高いのでまあ大丈夫だろう。数年前の大雨でも耐えてくれた。

晴れていたりするとたまにコンビニで買ったおにぎりなどを持って川沿いに行き、川のせせらぎを見ながらぼーっと昼食を取ったりする。それが爽やかで気持ちがいい。あんまり長居すると蚊に刺されるので、春か秋にやるのがいいと思う。

結構自然豊かな地域に住んでいて僕は心地よいと思っているのだけれども、難点もある。

とにかく虫がめっちゃ出ることだ。

洗濯物を外に干そうものなら、絶対何匹かは虫がついている。取り込んでる最中に蛾がバサバサッ!と飛んでいくのは心臓に悪い。

そのせいで最近はずっと部屋干しだ。風呂場にある乾燥機能があるお陰で助かっている。ありがとう。

昔は虫取りを楽しんでいて虫が好きだったはずなのに、いつからこうなってしまったんだろう。

今のアパートで、今までゴキブリが発生したことがないのは不幸中の幸いだと思う。発生したらたぶん僕は恐怖で死んでしまうに違いない。

僕にとって一番身近な虫はヤモリだ(正確にはヤモリは爬虫類であるから虫ではないのだけれども)。夏頃になると帰るたびに共用廊下の壁や床を我が物で這いずり回っている。家から出るとたまにボトッと落ちてくるのは目ン玉が飛び出そうになる。見た目が可愛らしいのがまだ救いだと思う。

一度だけクローゼットの中からがヤモリが出てきたのはびっくりした。ゴキブリが出なくてヤモリが出る家ってなんなんだ。さすがに殺しはせずに逃したけれども。ただヤモリは「家守り」といって家を守ってくれるらしい。僕を守ってくれよ。

なんだかんだ虫は身近になりつつあるのかもしれない。

そんな割と虫を身近に感じ、だいぶ慣れてきた僕だけれども一人暮らしを始めた頃に虫に関して大失敗をしたことがあった。

誰と電話をしていたか今となっては覚えてないのだけれどもその日の夜、僕は誰かと電話をしていた。

慣れない一人暮らし。ずっと一人で暮らすことに憧れて家を飛び出したのだけれども人恋しかったのだろう。かなりの長時間電話をしていた。

そんな中、突然雨がザーザーと降ってきたのだ。電話をしながら「あ、雨が降ってきた」とつぶやき窓を明け外を確認するために空を見上げたのだ。今振り返るとこの行為が間違いだった。

「ひどい雨だなぁ」と思いながら、降りしきる雨をぼんやりとしばらく会話をしながら眺めていたように思う。

ひとしきり感慨にふけり窓を閉め、眠くなってきたので電話をしながらロフトへ上がることにした。いちいち布団を敷いたりしまうのが面倒なので今もロフトで寝ている。

部屋の電気を消し、ロフトの電気をつけ上へと続くはしごを登る。

いつものようにはしごを登りきろうとして、ロフトの上に顔を出した時、そこにいつもの景色はなかった。

梯子を登りきった目と鼻の先の電球に細くて大きな見たこともない虫がベタッと貼り付いていたのだった。きっと窓を開けた時に入ってきたのだろう。

決して大声を上げるわけでもないけれども心底驚いた僕は体をビクッと震わせのけぞってしまったのだ。

グラッ……。

スマホを耳にあてて電話なんてしているからバランスが悪い。ああ、視界が歪む。

気がつくとドスン!という鈍い音とともに背中と後頭部に強い衝撃を感じた。

痛い。ズキズキと体中が悲鳴をあげる。特に背中が痛い。

どうやらはしごから落ちたらしい。しかも盛大に落ちたものだから、はしごの反対側にあった棚をぶっ壊していたのだ。

そのハプニングが恥ずかしすぎて電話の向こう側から「ドスン!ってすごい音がしたけど大丈夫?」という問いかけに曖昧に答え勝手に電話を切ったの覚えている。

結局その虫を倒すのに数十分苦戦したと思う。倒すコツとしては部屋の明かりを一つに絞ることで虫の習性を利用して集めて倒すというのを、この時に学んだわけだ。

そのときに痛めた背中はなかなか治らなかった。棚は解体して捨てた。無念。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました! ご支援いただいたお金はエッセイのネタ集めのための費用か、僕自身の生活費に充てさせていただきます。