負から正へ変わる理由はいつもつまらないものだったりする。


欅坂46が苦手だった。
鮮烈なデビューを飾った曲として紹介される【サイレントマジョリティー】という曲がどうしても苦手だった。
どんな場所でも全力で立ち向かい続ける【不協和音】という曲はさらに苦手だった。

それがどうしてなのかずーっと疑問だった。
乃木坂も日向坂(ひらがなけやき時代含め)も好きだし、
俗に言うアイドルっぽくないアイドルが嫌いなわけでもなかった。
ダンスのキレとか、表情とか、
純粋にすごいなぁと思っていたし、
そもそも嫌いなわけではなかった。
ただ何となく、苦手だった。

一昨年のレコード大賞で彼女たちが歌った一曲が、年を越すまで頭から離れなかった。
【アンビバレント】
これだ、と思った。
私がずっと彼女たちに感じていた苦手意識の正体と、
私自身の幼稚でみっともない信念とが、
言葉になって、メロディに乗せて、
一気に私に流れ込んできた。

要するに私は、全く何にも抑圧されていなかったわけである。
【サイレントマジョリティー】も【不協和音】も、我慢や忍耐という言葉で操られすぎた人たちの呪縛を解き放つ曲で、
だからこそカリスマ性のある、半ば宗教チックに人々を熱狂させていったのであった。
(決して貶しているわけではなく、むしろ前向きな意味で捉えてほしい)

だが、如何せん私は人生において我慢の“が”の字もなければ、何かあればすぐに逃げ出す根性無しだ。
何より、他人と合わせるということに対して壊滅的にセンスがない。
この“the村社会”日本ではまあ生き辛い。
だけど自分の性格や思考を今更変える余力もない。言わばお手上げ状態。
そんな人間が、
「君は君らしく生きていく自由があるんだ
」とか
「不協和音を僕は恐れたりしない
嫌われたって僕には僕の正義があるんだ」
とか歌われたところで、何を今更と思ってしまう。
大体、そんなカッコよく披露されたって、そこに歌われる人生はなかなか辛いぞ?と、余計なことばかり考えてしまっていたのだ。
だからずっと苦手だった。

【アンビバレント】

それは他者の抑圧からの解放ではなく、
自分の中に潜むくだらないリミッターに微笑を浮かべながら、
ただただどうしようもなく、そんな自分に呆れる気持ちが淡々と歌われていた。

共感とそれに伴う感動がすごかった。
涙は流れなかったが、気持ちは思いっきり泣いてた。
他人との関わりはとても面倒だけれど、
無ければ無いで少しばかり欲してしまう。
いつだってないものねだりの自分を、
彼女たちが歌っていた。

気怠げに、それでいてキレキレで、
その表現力は異常であった。
絶対的センターと言われる彼女がいないでそのパフォーマンスだ、
彼女がいたら一体どうなってしまうんだろう。
欅坂46というグループの真髄を初めて見た。
というより、今までロクに見ようともしていなかったから知らなかった。
素晴らしく、とんでもないグループであった。

それからしばらくは欅坂ばかり追っていたが、徐々に他グループの応援に移りなかなか追えずにいた。
今年の1月、絶対的センターの彼女が脱退したというニュースを見て、久しぶりに欅坂を見るようになった。
欅坂として最後の曲になった【誰がその鐘を鳴らすのか?】という曲はそれまでの彼女たちの表題曲のどれよりも、私たちに語りかけている曲に思えた。
彼女たちの曲は社会的に弱い立場にある人、
もっと言えば、疎外され除け者にされ存在しないものとされているような人へ向けた曲が多い。
しかし彼女たちが歌う最後の曲は限定なし、世界中のすべての人に向けた曲であった。

それは今まで目線を向けてきた、
あらゆる絶望を見た人や様々な環境に苦しむ人々だけでなく、
その絶望を見せた人や、苦しみを与える立場にある人にも優しく語りかけていた。
そして、彼女たちがこれまで歌い継いできた“一人”“孤独”という言葉を肯定しつつ、
それでいて“対話”を求めていた。
誰も他人の話に耳を傾けていない、だからこそ“一人”や“孤独”が生まれるのかもしれない。それならどうか、少しだけ黙ってみてほしい。
そして聞いてほしい、
他人の嘆きや悲しみ、喜びの声を。
そんなことが歌われていた。

たしかに一人は良いけれど、たまには誰かと話したくなる。(あ、またこれも【アンビバレント】だ。)
でもきっと、誰も自分を見てはくれない。みんな自分の話に夢中で聞こうとしない。
そんな時に誰かがこちらを見てそっと微笑んでくれたら、近寄ってきて話し出すのをじっと待ってくれたら、それがどれほど嬉しいか。
自分が話し終えたら、今度は私が誰かの話を聞こう。その相手の話が尽きるまで聞こう。
この世界でどれだけちっぽけな存在であったとしても、自分にできることはある。

最後の最後まで欅坂の物語を繋ぎながら、それでいて新しい思考をプラスする粋な演出。
秋元康、天才すぎないか?
とにかく、私は欅坂46が大好きになった。乃木坂も日向坂も大好きだから、晴れて坂道制覇となった。(吉本坂は知らん)
自分の中にあった意味不明なトゲが抜けたことでこんなにも人を好きになれるなら素晴らしい。人間行くとこまで行ったなと思っていても、意外とまだまだ変われる。

あとまあ、小林由依ちゃんが好きです。
レコ大アンビバのセンターが彼女だったこともあって、余計に好き。
ダンスも歌も素晴らしいけれど、表情がめちゃくちゃ良いんです。めちゃくちゃ好き。
櫻坂も楽しみです🌸

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