何者というタイトルが、もう既に心を痛めるのです

映画【何者】
大学3年、初夏。
いまこの映画を見て、私は何を思えばいいだろう。
どう感じるのが正解なんだろう。

大学3年、就活はすでに始まっている。
何がしたいのか、どうなりたいのか、
そのために何をすべきか、
それを考える時期は、もしかしたらもう終わってしまったのかもしれない。
しかし私は、まだそこにいる。
スタートラインどころか、
ようやくグラウンドに足を踏み入れたところだ。

ここまで書いて、非常に怖くなった。
未だ自分は受け入れていないのであろう。
この状況を、この現実を。
来年の今頃、自分はどうなっているのか。
社会はどうなっているだろうか。
現在と未来とでは、
何がどう変わっていくのだろうか。
漠然とした不安が何度も何度もこの指を止める。
私がここに言葉を並べる時間は本当に必要なのだろうか。
この自己満足の日記を、私はどうして始めたのだろうか。
無論、紙に書きおけば良い。
わざわざネット上に稚拙な感想文をひけらかし、
下手に恥を晒すべきではない。
それではなぜ、
何度も止まるこの親指を、
私の脳は“動け”と命ずるのだろうか。

『何者』
あのアカウントと同じだ。
趣味:人間観察 とでも言いそうな、
あのアカウントと同じだ。
自分は正しいと世界中に認めてもらいたい。
せめてこの小さな画面の中だけでも。

画面から目を離すと、そこにはたくさんの敵がいる。
なんてことはない、こっちが一方的に敵だと思っているだけなのだが、
あまりの軍勢に圧倒されて萎縮してしまう。
しかし視線を画面に落とすと、
そこはいつでも自分の正しさが広がる世界である。
あのアカウントと、
私のこのnoteは、
きっと全く同じだ。


私は以前にも一度、この映画を見たことがある。
当時はまだ高校生で就職など先のことを考えるよりも、まずは目先の大学受験に集中しなければと思っていた。
だから当時は、この映画を見たところでそれほどのダメージは受けなかった。
理香と隆良がなんとなく鼻につくキャラクターだったので、この2人の就活が上手くいかない有様を少し面白く感じた覚えがある。
我ながら、非常に残酷であったと思う。
高校生の私は、拓人と同じように彼らを笑っていた。


大学3年、再びこの映画を見ようと思ったのは、今現在感じている漠然とした不安を和らげる何かが、数年経った今なら得られると思ったからだ。
そして結論は冒頭に戻る。
何も得られなかったのだ。
ただ、就活の厳しさ、理不尽さを知ったのみである。
そして、瑞月の言葉で身体が固まった。
「私たち、もうそういうところまで来てるんだよ」
申し訳ないけれど前後の台詞はあまり覚えていない。この言葉があまりに鋭すぎたので、すっかり忘れてしまった。
でもこの言葉だけでも伝えたいことは十二分に分かるのではないだろうか。
私たちに逃げてる暇はないということだ。
嫌なことから目を背けて逃げる生活は終わりにしなければならない。
そして就活におけるその“嫌なこと”とは、
『自分と向き合うこと』だろう。

大学生の何割が自分と向き合って生きているか?
例外なく私も、自分と向き合うことから逃げ続けている。
向き合うことで、自分がどのような人間であるか気づくのが怖いのだ。
もっと砕いて言うと、
向き合った結果、自分が『何者』でもないことに気づくことが怖いのだ。
私はその結果を受け入れられるだろうか。
ネット上に映画の感想文など載せて
自分の承認欲求を満たそうとしている私が、
その悲しく残酷な結果を、
受け入れられるだろうか。

私はギリギリまで逃げていたい。
ただ何となく進み続けると大きな壁にぶち当たる。
思わず退いてしまった時、音も立てずに足元の小石が落ちるのだ。
後ろを振り返ると、今まで歩いてきた道は崩れ去り、下が見えないほど高い崖に立っていることに気づく。
もう逃げ場はない、と気づく。
その瞬間の私の、火事場の馬鹿力のようなものに期待したいのだ。

しかしそれは空想に過ぎない。
生憎、私に逃げるという選択肢は与えられていない。
何がしたいのか、どうなりたいのか、
自分のことはまだ何も分からない。
それでも今すぐに動き出さなければならない。
だから少しずつ、知っていこうと思う。
自分自身と向き合っていこうと思う。
映画のラストシーン、拓人の心に変化が現れたように感じた。
あの瞬間を、私も体験したい。


演出について一つ、印象に残っている部分があるので書き記しておく。
拓人のバイト先で、光太郎が“内定を祝して”
拓人と乾杯するシーンがある。
この場面、直前に拓人のツイート画面を見せながら
「内定というものも、思いもよらないタイミングで出るのかもしれない。」
というナレーションが入ることから、私はてっきり、拓人に内定が出たものかと思った。
しかし、実際に内定を貰ったのは光太郎であった。
この流れ、“報われない拓人”が暗に描かれていて(下手の横好きレベルの感想だが)非常に上手いなあと思った。

あとこれは完全な偏見だが、佐藤健にはドSな医者や信念を持つ心優しい剣士ではなく、多少の腹黒さを持った役が似合うなあと思う。

『世界から猫が消えたなら』とかね。


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