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ズッ友 第三話

第三話

 真島が思いあぐねていると、向こうで掃き掃除をしていた筈の竜晴が、いつの間にか目の前にいた。
「真島さん、そんな眉間に皺寄せてると老けて見えるよ。まだ、二十代なのに貫禄出し過ぎだし」
 ケラケラと笑いながら、いつもの如く茶化してくる。竜晴は年上でも物怖じしない。だがこの業界、それではやっていけない。住職、礼儀から教えないと駄目でしょか。苛立ちを抑えつつ、
「体調は、もう大丈夫なのか?」
 と聞くと、「うーーん、まぁ、ぼちぼち」という歯切れの悪い言葉が返ってきた。
 ここで私は思案した後、はぐらかされたら、それまでだという気持ちで聞いてみた。「竜晴、お前成宮晴美の葬儀中に何か見たか?」
「……見たって、何を?」
「霊だよ。成宮晴美の幽霊」
 竜晴は少し考えた後、次第に目を輝かせながら、
「見たよ!見た見た!なんで?真島さんも、もしかして見えちゃう人?」
 と、竜晴は興奮気味に言った。
「残念ながら違うな。私は一度も見たことがないよ。見えたらどれだけ良いかと思ったことはあるけどね。お前が成宮晴美の棺桶を見て、怯えていたように見えたからさ」
「あぁ、そういう事ね。見えたよ。棺桶から成宮晴美が這い出て来て、参列者の顔を順番に見つめていくとこ。怖すぎだよねー」
 私が幽霊を見る事が出来ないと分かると、一気に興が冷めたらしい。ゴミのない砂利の上を箒で意味もなく、掃き始めた。まぁ、見えた人にしか分からないものもあるのだろう。私は、更に続けた。
「成宮晴美は、何か未練を残していると思うか?」
 すると、竜晴は箒を動かしていた手をピタッと止めた。そして、私の方をじっと見つめてきて、こう言った。
「成宮晴美は、本当に事故だったのかな?」
「どうして、そう思う?」
「だって、顔……パンパンに膨れ上がっててさ、酷かったけど……」
 竜晴には成宮晴美の遺体は見せていない。住職が流石に同世代の女の子の無惨な亡骸を、今はまだ息子に見せたくないと思ったのだろう。しかし、本当に見えている事が分かり、不謹慎にも関心してしまった。
「けど?」
 先を促す。
「成宮晴美が棺桶から這い出てきた時に、顔よりも指が気になっちゃって。だって、おかしくない?両方の小指がなかったんだぜ?変じゃない?」
「へぇ……、両方の小指がねぇ……」
 私が棺桶の中で眠る成宮晴美を見た時に身体の損傷が激しかったのは、覚えている。しかし、警察によると水死体は損傷・欠損は多いもの。物的証拠も出なかった事から事故として片付けられた。確かに小指が、しかも両方ともないとなると違和感がある。
「竜晴、小指と言えば何が思い浮かぶ?」
 竜晴は、即答した。
「約束」
 竜晴の中である程度、結論が出ているようだ。
「つまり、お前は成宮晴美が事故死ではないと言いたいんだな?」
 竜晴は、静かに頷いた。
「あの子はまだ未練があって、親父の経でも成仏出来なかった。誰か人を探しているように見えたし、すごい恨んでいるようにも見えた。だから、事故死ではない理由としちゃ弱いけどさ、俺の直感がそう言ってるわけ」
「なるほどな。確かに、根拠としては薄いがお前の直感は無駄に当たるからな。事故死じゃないとすると、自殺。いや、他殺か?」
「自殺する前に、指切る奴いる?指切った後に、海に飛び込んだって事?」
「自殺幇助した者がいたとして、その見返りに小指二本を差し出したとか」
「何、そのサイコパスな考え!怖すぎなんですけど!真島さん、ちょっと引くわ……」
 竜晴は怪訝そうな顔をして言った。どうやら、学生時代にそう言った類の書籍や映画を見過ぎたせいらしい。昔から不可解珍妙な現象やら、人の想像を超えた心理、衝動、行動原理などが好きだった。だからか、この件、成宮晴美の死因にしても、鹿島竜晴の体質にしても興味を抱かずにはいられなかった。そう、今分かった。私は、ワクワクしているんだ。不謹慎、不謹慎と、自分に言い聞かせる。そして、周りに心の内を悟られてはなるまいと、自分に再度、言い聞かせた。

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