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ズッ友 第十一話(最終話)

第十一話

 翌日、島波高校の教室に真波、佳世、悟、圭佑を呼び出した。教室の後方には、田辺先生がいる。その周りには複数の警察官がいた。無論、私が呼んだ。
 佳世の前に、モスグリーンのヌチャラ星人を出す。そして、願い事ボイスを再生した。
「 晴美が死んで、悟が私だけを見てくれますように 」
教室内が、静まり返った。
「なっ、なんだよ、これ!」
悟が佳世に詰め寄る。
「お前が晴美を殺したって言うのかよ!なんでなんだよ!」
 悟は怒りや悲しみや失望や無力感などの感情がないまぜになって、胸が爆発しそうになっているようだ。佳世は顔をくしゃくしゃにさせて、
「殺したよ。だって、しょうがないじゃん!悟を晴美に取られちゃうっ!嫌だよ!私の方がずっと長く一緒にいたのに。悟の事が好きだったの、ずっと」
 と言うと、悟は口を継ぐんで何も言えなくなってしまった。

「佳世さんがトイレに行くと言って圭佑さんと別れた時に一回目の犯行に及び、浜辺で晴美さんを捜索した時に二回目の犯行に及んだ、と私達は考えているのですが、間違いありませんか?」
 私は佳世に確認した。佳世はコクリと頷いて、ポツポツと犯行当日の事を話し始めた。
「まず、田辺先生を犯人に仕立てあげようとしたんだけど、失敗ちゃった。まさか、ちゃんとしたアリバイがあるなんて思わなかったから。思い付きで適当にやるのは良くなかった」
 田辺は教え子になんて言葉をかけたらいいか分からず、俯いてしまった。佳世は誰に催促されるわけでもなく、また話し始める。
「圭佑と別れた後、晴美との待ち合わせ場所に行ったの。私は晴美が海で悟に告白する事を、真波だけにこっそり話しているのを聞いてしまったの。真波は流されやすいからさ。真波に悟との事を応援してもらって、私が二人の間に入れないようにしたんだ。晴美は私に嘘をついた。二年生になったばかりの頃、私言ったんですよ。『悟のことは好きにならないでね。晴美、悟のタイプそうだからな。絶対に好きにならないでよ。約束だよ』。それなのに、許せなかった。何がズッ友だよ。約束したじゃん、隠し事しない、嘘つかないって!」
 真波は絶望の表情を浮かべた。
「だから私も嘘をつく事にしたんだ。晴美に海での告白応援するよって。そして、提案したの、悟にサプライズを仕掛けよう。海で遊んでいる途中で体調悪いって抜け出して、海の家の裏側で待ち合わせしよう、私も後でそこに向かうから。晴美と待ち合わせ場所で落ち合ってから、夕陽が綺麗な誰にも邪魔されない場所がある。私が悟をそこに連れて行くからそこで告白しなよって言うと、嬉しそうに『ありがとう!』って笑ってたよ。嘘つかれているとも知らずに、バカみたい」
 佳世は話し続ける。
「晴美を皆んながバカみたいに探している最中に、私は待ち合わせの場所に行ったの。そして、私自分のスマホショルダーに付いているヌチャラ星人の願い事ボイスを晴美に聞かせた。『私との約束忘れてなーい?』って。そしたらなんて言ったと思う?悟は私の事が好きだと思うから、諦めて欲しいって!何様だよ。気が付いたら、晴美が横に倒れていた。私、いつの間にか晴美の腹を刺していたみたい。私は、崖から晴美を落とそうとした。その時、晴美の小指が目に入ったの。その時、嘘をつく晴美の小指なんて切り落とした方がいいと思った。約束なんて二度と結べないように」
 佳世が一気に話し切ると、悟を見つめてこう言った。
 「好きになって、ごめんね」

 約束は時として人を縛り、
 願いは執着になる。

「浮かない顔だな」
 ヘルメットを被ろうとした俺に、真島は声を掛けた。
「これで良かったのかな。これじゃ、みんな不幸だ」
 三人の約束も願いも何一つ叶っていない。最悪の結末じゃないか。
「どの立場の人の視点から見るかで、物事の良し悪しは変わるさ」
「どう言う事?」
 俺はすかさず、聞き返す。真島はバイクに跨り、俺もそれに続く。エンジンを噴かし、島波高校を後にした。
「つまり、ヒーローから見れば悪人でも、悪人から見ればヒーローは悪者なのさ。私達は僧侶、成仏できない魂を成仏させる事だけ考えよう。きっと、成宮晴美の魂は納得してくれるさ」
 バイクの振動に揺られながら、顔を上げて、空を見る。頼むから、成仏してくれよと空に願う。
 真島のウエストポーチからヌチャラ星人の足が出ていた。
「そう言えば、それ」と、ヌチャラ星人を取り出す。そこには三体あった。晴美と佳世のがあるのは分かる。だが、何故真波のもあるんだ?俺が言いたいことが分かったのか「もう、要らないんだとさ」と真島は言った。
 約束も願いも何一つ叶っていない、お守りと言うよりは呪いだなと、ヌチャラ星人を見て思う。真島も同じ事を考えていたようで、「帰ったらお焚き上げしよう」と言った。
 その時、ようやく俺は気が付いた。
「!」
 三つのヌチャラ星人をまじまじと見る。
「あ!」
「どうした?」
「田辺に似てる!」

(了)


 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。少しでも、楽しんで頂けましたら幸いです!

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