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ズッ友 第八話

第八話

 真夏の風が熱風となって、身体、顔に吹き掛かる。「暑い……」、暑さが増す要因、高校行くのになんで、わざわざ袈裟なんて着る必要があるのか。袈裟はそんな俺の気持ちを知った事かと、バイクの風で気持ち良さそうになびいている。
「真島さんって、不良だった?」
 俺は後ろから真島に声を掛けた。
「何で?」
 結構なスピードを出しているバイクの所為で、真島はいつもよりやや声がでかい。
「だって、しょっちゅうバイク飛ばしてるし、なんか真島さんって繕ってる感じするし」
「言うね。確かに、竜晴と同じ位の歳にね、友達とよくここら辺の廃墟に入って荒らして、不法侵入で警察沙汰になったな。タバコ、酒で補導されるのも度々あった」
 意外だった。そんなに荒れてるとは思わなかった。
「その頃は両親と剃りが合わなくてね。両親と喧嘩して家を飛び出した夜、いつもの如く廃墟、いや、あの日は廃寺だったな、行く宛もなくそこにいた。鬱憤ばらしで荒らしたい気持ちもあったが、何より何か未知のモノが出てきそうでワクワクした。現実に飽き飽きしていた私は、そう言った理解不能なものにすごく興味が惹かれたんだ。そう言ったもので満たされない気持ちを補おうとしていたのさ。まぁ、根本は今も変わらないけどね」
 真島はカーブに沿ってバイクを左に傾けた。
「そしたら現れたのが住職、竜晴の親父さんだった。寺を荒らしている奴がいるって、近所の住人がチクったらしい。わざわざ廃寺まで様子を見に来たってわけさ」
 俺は何も言わず、真島の話に耳を傾ける。
「今ではあんなガミガミ叱るけど、あの頃はまだ住職も若かった。叱るでもなく、俺の話に耳を傾け、共感してくれて、時にはアドバイスをくれた」
 ここからでは真島の顔を窺い知ることはできないが、きっと笑っているような気がする。
「住職は私の両親に話をつけてくれて、一週間程、鹿島家に泊まる事になったんだ。その時に眼福寺の仕事について色々教えてくれたよ。住職は今では考えられないが、その頃冗談もよく言った。檀家さんにも慕われていて、求心力のある人だと感じたのをよく覚えている」
 俺は、「へぇー」とだけ答えた。その時、真島は「あぁ!」と急に何かを思い出したようで、その振動で少しバイクが揺れた。
「竜晴のお母さんにも会ったよ。優しくて綺麗な人だった。君と同じで見える質らしく、私がお世話になった期間もその影響で体調を崩していたそうだ。でも、私をビビらそうと住職が嘘を付いているだけだと思って、その頃はまだ信じられなかった。竜晴もいたけど、まだバブちゃんだったな」
 そう言うと、真島はクスッと笑った。真島の過去を知るにつれて取り繕った部分が少しずつ剥がれていく気がして、面白い。
「感銘を受けた私は、仏門に入る事に決めた。大学三年の夏休みに、眼福寺に見習いとして研修に行ったんだ。住職は、私の事を覚えてくれていたよ。嬉しかったな。でも、その頃には君のお母さんは既に亡くなっていた」
 そうなんだ。俺は母さんの事をあまり覚えていないから、ピンッとこないのを後ろめたく思った。
「住職は一人で君を育てていたから、よく檀家さんの葬儀にも連れて行っていたらしい。ある檀家さんの葬儀で君は遺影を見て失禁してしまったんだ。しかも、相当怯えていた。畳がビショビショだったよ」
「悪かったな!全然、覚えてないけど!」
「住職は慌てて檀家さんに謝って、私に竜晴を外に連れて行って宥めるよう言った。私があの手この手で宥めていると竜晴が言ったんだ、『こわい』って、何が怖いのか聞くと、『おこってる』って。なんでも、遺影の中の爺さんがものすごい形相で睨んでくるらしい。でも、実際の遺影の写真は微笑んでいる写真だった。これは、母親の血筋だね」
 記憶には残っていないけど、幼い頃から自分はそうだったのか。
「私はその後、他の寺院で経験を積んで、満を辞して眼福寺に戻ってきたわけだ」
 真島がバイクのスピードを緩めた。高校のグラウンドで炎天下の中、野球をしている学生の姿が目に入った。
「親父のファンかよ!」
 と、ツッコミを入れると否定するでも肯定するでもなく、俺の目を見た。
「君のファンだよ」

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