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『決定版 パリ五月革命 私論 転換点としての1968年』西川長夫

 1968年のパリ五月革命の現場に「偽学生」として居合わせた著者による手記。50年近く前の記憶をたどりつつ、当時の写真、証言、壁への殴り書き、パンフレットの言葉などをコラージュ風に並べるという手法が懐古調を遠ざける効果を発揮している。ドキュメントとしても成立している。パロールが、エクリチュールが沸き立つが、同時に著者の実直な文体によって、「革命」がひんやりと伝わる。


 パヴェ。パリの石畳の基材である敷石。時に武器を持たない市民の武器として、時にバリケードの資材としての、反抗と革命のシンボル。そのパヴェが剥がされた下から砂浜が現れる詩的なイメージを著者は記録・記憶する。
 革命を語るとは、つねにすでに遅延とともに語ることである。著者は時系列で丁寧に報告しようと努めるが、読者が革命に居合わせることは叶わない。そのむずかゆい感覚なしには、革命を想起することができないことを明らかにさせる。


 本人の言葉ではないにもかかわらず一人歩きした「構造はデモに加わらない」という言葉がふさわしい構造主義者ロラン・バルトの論考「出来事のエクリチュール」から著者は、五月革命に疎遠なバルトとより深い「革命」の意味を問うバルトという両義性を見出す。「街頭」から一種の暴力を見出すバルト。解放された言葉や自由な接触の場を列記しながら、その直接性・無媒介性を警戒するバルト、というように。


 また、今回の「決定版」で追加された、著者のパートナーである西川祐子による長いあとがきは、感性的に出来事を思い出す文体であり、「革命」についてのもうひとつのドキュメントとなっている。

『決定版 パリ五月革命 私論 転換点としての1968年』
著者:西川長夫
発行:平凡社ライブラリー
発行年月:2018年11月9日


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