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『へろへろ 雑誌『ヨレヨレ』と「宅老所よりあい」の人々』鹿子裕文

 面白い。こんな本読んだことない。なんと評すればよいかうまい言葉が見つからずもどかしい。


 まったくうだつのあがらないフリーの編集者の「僕」がひょんなことから福岡の宅老所「よりあい」にかかわる羽目に陥り、やがて「よりあい」の雑誌『ヨレヨレ』を作ってくれと依頼され、宅老所が特別養護老人ホームを建てるまでの経緯を綴る。


 高齢者介護の現場のドキュメントといえばその通りなのだが、「僕」の見た目によればドタバタな人間喜劇と化す。メインスタッフの介護士、利用者のお年寄りらが交わすヴァナキュラーな福岡弁が虚構と現実のあわいに、いつしか私たちを誘う。


 「僕」の文体は絶えず自己韜晦が先に立つヒューモアがある。「僕」は編集者として「よりあい」に集まる有象無象を冷静に笑うが、それ以上に「僕」自身がけたたましく笑われている。


 それでも稀にヒューモアがヒューマニズムに転じる。それは介護に対する彼女ら/彼らの姿勢をしっかりと共有する「僕」の次の言葉に端的に現れてしまう。「その人の混乱に付き合い、その人に沿おうとする。添うのではない。沿うのだ。ベタベタと寄り添うのではない。流れる川のように、ごく自然に沿うのだ」(49ページ)。


 本書では軽くしか触れられていないが、雑誌『ヨレヨレ』創刊号はブックスキューブリック箱崎店の売り上げトップを十四週にわたり維持するという「事件」を起こした。それはやがて全国の独立系書店などに「伝染」する。脳裏に刻まれるモンド君の魅力的なイラストを目にした方も少なくないはずだ。

『へろへろ 雑誌『ヨレヨレ』と「宅老所よりあい」の人々』
著者:鹿子裕文
発行:ナナロク社
発行年月:2015年12月15日


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