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『コンラッド短篇集』ジョウゼフ・コンラッド

 エドワード・サイードによって「故国喪失者(エグザイル)についてこれまで書かれた、おそらく最も妥協なき表象であろう」(『故国喪失についての省察』)と評された『エイミー・フォスター』を含む6篇。登場人物は皆、異国の地で孤独、無理解、敵意にさらされ、不幸な結末を迎える。その舞台も、イギリスの僻村、ロンドン、パリ、ナポリ、南米の小島、革命戦争下のチリと幅広く、帝国主義と資本主義が拡張する領野をその範囲とする。
 ポーランド生まれでロシアの流刑地で育ち、フランス船に乗り込んで作家となったコンラッドの文学は、英語で書かれたという以外に、英文学の枠に収まるものがない。それはたんに言語の問題だけでなく、語り口の「奇妙さ」による。


 これらの短篇に共通するのは、故国喪失者たちの悲劇を過去の話として、別の人物たちが語り合う「枠物語」の形式をとる点にある。その語りは、その内容が「奇妙」であるただそのためにのみ語られようとする。読み手はそのストレートな仕立てに応じるように、グイグイとページをめくる。


 読み手は語り手と同じ地平で、悲劇の主人公に対して余裕がある。読む行為によって、そこからさらに自らの加害性を意識する。さらに読むことが止められない。


 孤独な男たちの多くは、ある女性を一途に崇拝する。女性はそれに対し冷淡である。そこにはロマンティック・ラブらしきものが、一見あるようでない。構造以外ない。そこが数多あるエグザイルを主人公とした物語と大きく異なる。

『コンラッド短篇集』
著者:ジョウゼフ・コンラッド
訳者:中島賢二
発行:岩波文庫
発行年月:2005年9月16日

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『故国喪失についての省察 1』より〈12 故国喪失についての省察〉エドワード・W・サイード


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