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現在 モ 漂ウ オウムガイ

 アンモナイトオウムガイ。どちらもイカやタコと同じ、「頭足類」と呼ばれる生き物である。また、どちらも特徴として巻貝のような殻を持つ。

 古生代(5億4300万年~2億4800万年前)や中生代(2億4800万年前~6500万年前)には、これらの殻を持つ頭足類が繁栄していたとされる。
 オウムガイはアンモナイトよりも歴史が古く、5億年前(カンブリア紀)から進化せず当時の姿を保っているとされる、「生きた化石」である。チョッカクガイなどと共に、オルドビス紀に繁栄したとされている。
 オウムガイの発生から1億年程後(シルル紀やデボン紀)、オウムガイから分化してアンモナイトが発生、オウムガイと共に繁栄したとされる。更にその後、白亜紀(1億4500万年~6600万年前)に至る頃には、様々な(殻の)形をしたアンモナイトが世界中の海に生息していたと見られている。大型のもの、泳ぐのに特化した殻の高速型、逆に、泳ぐには不向きそうな殻が捻じくれたもの……多様な形態のアンモナイトたちが、恐竜や魚竜、首長竜たちと共に、その時代の海に広く生息していたのである。

 では、反対にオウムガイはどうだったのか。

 実はその時代には、オウムガイはアンモナイトの大繁栄によって、深海へと追いやられていたという説がある。現在、オウムガイは主に浅海~中深層(深度100~600m)に生息している。いわゆる「深海」に該当する場所である。

 アンモナイトもであるが、イカやタコの様に筋肉質でないことから、それらと比べ力強く素早い動きはできず、殻の中のガスを浮袋として海中を漂い、主に死骸をエサとしているようである。アンモナイトの様な多様性は無く、イカやタコの様に生きた魚介類を捕食することも出来ないことから、どちらかといえば、浅い海向きではないように思える。

 こうして、「憂き目」に会うこととなったオウムガイだったが、両者の運命は思わぬ形で逆転することとなる。
 白亜紀の末期、大量絶滅(「K-Pg境界」と言われるもの)が発生する。それまで3度の大量絶滅を乗り切り、多様性を維持していたアンモナイトであったが、遂にここで絶滅することになる。
 一方、オウムガイはというと、周知のとおり、この大量絶滅を乗り切り、現在に至るまで生存している。

 この差は何だったのか。

 一説には、オウムガイが生息する深度(深海)へは、大量絶滅の影響が少なかったからだとされている。
 アンモナイトが絶滅したのは、海の食物連鎖の基本となるプランクトン類が大打撃を受けたことにより、エサとなるものが無くなったことだと考えられている。しかし、元々エサに乏しい、過酷な深海では、このことはあまり問題にならなかったのかもしれない。深海での生存に適応している生物は、いわゆる「省エネ」タイプであることが多く、それらはあまり動かず、それこそ必要以上の捕食行動も避け、無駄なエネルギー消費を避けるという、まるで断食修行や、それこそ、仙人の様に生活している。また、オウムガイは成長が遅く、寿命が長いことも関係していたのかもしれない。

 なんにせよ、皮肉なことに、ライバルの少ない閑散とした深海でひっそりと暮らしたことで、大量絶滅を乗り切ることができたのである。いや、乗り切ってしまったと言ったほうが正しいかもしれない。そうして、オウムガイは数奇な運命を辿り、現在に至っている。

 深海は地球最後の秘境とも言われる。このミステリースポットが、現代を生きる私たちを惹きつけるのは、きっと、そういった「彼ら」の存在があるからなのだろう。

 人類の生存うんぬんが語られることが多くなった今日、激動の時代を生きる私たちには、もしかしたら、自分の内に在る海の奥深く、静かに漂うオウムガイが必要なのかもしれない。

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