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私の大切なアルバム その2 The Beach Boys「Pet Sounds」


私がビーチ・ボーイズを知ったのは中学生のころ。レンタルカードを作れるようになって、自由に映画や音楽を借りられるようになってから、有名なアーティストや「名盤」とされるアルバムを借りるようになりました。

ビーチ・ボーイズで最初にレンタルしたのは『Sounds Of Summer』というベスト盤。それとは知らず聴いたことのある曲も多くて好きだったものの、特別アルバムやビーチ・ボーイズにはまるわけでもなく、たまに通学時に聴くくらいでした。そして、次に借りたのが『Pet Sounds』。レンタルショップでもポップ付きで「ロック史に残る不朽の名盤!」みたいなことが書いてあったし、アメリカの老舗音楽誌ローリング・ストーンでも不動の2位(2020年の最新版でも守られました)というのもあって、聴いてみようかなと思い、軽い気持ちで手に取りました。

最初の印象はずばり、「わけわからん!」。今でもCM等で耳にする"Wouldn't It Be Nice"と、彼らの代表曲で先に述べたベスト盤にも入ってた"God Only Knows"は好きだった。でもあとは全くピンと来ない。借りたのがモノラル盤だったのもあってか、音はこもってるし、ボーカルはふにゃふにゃしてるし…と、全く魅力に気づくことなくしばらくiPodの中で放置されていました。

私は昔から周囲に馴染めないタイプだったけど、中学生の時は他のどの時期よりも周りから浮いていて、向けられる視線や言葉に息苦しさを感じていました。家でも親との折り合いが合わず、心の落ち着くところがありませんでした。でもどうしたらいいかわからず、ひたすら悶々と考えあぐねた挙句、「自分の存在が悪いんだ、自分が諸悪の根源なんだ」という結論に達してしまい、世の中で何かが起こる度に自分を責めていました。

そんな日々の中、浮かない気分で通学している時にふと再生したこのアルバムに、ものすごく惹きつけられている自分がいました。その時の感覚をより正確に表すなら、心を持っていかれ、音の中に入ってしまったという感覚。自分でもここまでの体験は後にも先にもこれだけで、上手く表現できないのがもどかしいのですが、とにかくすごい勢いで私はこのアルバムを聴きまくるようになりました。なんだかわからないけど、音が自分の心の中から出ている気がしたのです。だから登下校時にリピートしては、自分に対してこのアルバムを聴くことで、自分の気持ちを代弁してもらっていました。

このアルバムがこれまた「パーソナル」であることを知ったのはもっと後です。ライナーノーツと対訳が読みたくてもう一度レンタルしたときに、その制作過程を知りました。詳しく書くと長くなるので割愛しますが、要はバンドのリーダー格であったブライアン・ウィルソンが、メンバーやファン、時代も追いつけないほどの作品を作ってしまったということ。そしてそれは彼自身の「自分が周りから受け入れられない、そんな自分は駄目な人間なのかもしれない」という苦しみから生まれたものだったのです。このアルバムは、まさに中学当時の自分の苦しみと同じことを表現していました。そしてそれは、歌詞がわからなくても、制作背景を知らなくても、私に優しく、包み込むように諭してくれました。「君は一人じゃないよ、だってここにも一人いるんだから」と。


※私個人はモノラルバージョンが好きですが、古い音楽に慣れていない方は、最初はステレオで聴いてみることをおすすめします。


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