読書記録「令和その他のレイワにおける健全な反逆に関する架空六法」

「通称:令和反逆六法」
架空の法律から生まれる物語。SF×法律な短編集。
頭を回転させながら、あり得なさそうであり得ちゃいそうな現実を想定しながら、6つの世界観を濃厚に楽しめちゃう一冊だった。
架空の令和なので、世界線によって漢字が違うのも面白い。レイ、っていろんな漢字があるんだな。

第一話 動物裁判
礼和四年「動物福祉法」及び「動物虐待の防止等に関する法律」

動物同士の裁判を弁護するお話。
冒頭に訴状が記載されていて、この動物福祉法のある世界観にポンっと放り込まれる。
動物同士の裁判の中に出てくる、人間の動物的な性の面がブラック。
読み進めながら首を傾げたくなるような主人公の不快感がじわじわと効いてくる。

近頃、Twitterのオススメツイートでも性別の概念に対する意見を多く見る。
それが行き過ぎるとこの架空法律が生まれそう。
現実にはなさそう(ないと信じたい)だけど、多様性を強制的に認めさせようとしてしまう現代では、この架空法律のある世界観は想像しながら読める。
私は、認められない人がいることも認める事も、多様性のひとつだと思っている。

第二話 自家醸造の女
麗和六年「酒税法及び酒類行政関係法令等解釈通達(通称:どぶろく通達)」

禁酒法によって自家醸造が強要された世界。
料理が苦手な主人公はおいしいお酒がなかなか作れない。

この短編が一番好き。
ものすごく腑に落ちる、落ちざるを得ないラストが好き。
この短編集の中で唯一ハッピーエンドに近い終わり方。

第三話 シレーナの大冒険
冷和二十五年「南極条約の取扱いに関する議定書(通称:南極議定書)」

こことは違う世界に住んでいる主人公が、壊れていく世界を救うための冒険物語。

この短編の世界観に入り込むまでいちばん難しかった。
短編のタイトルに架空法律は書いてあるが、それがどんな法律かは、物語の中で徐々に明かされる。
前の二編では説明的だったけれど、ここが最もSFで架空法律の内容も現代から離れているので難しかった。

第四話 健康なまま死んでくれ
隷和五年「労働者保護法」あるいは「アンバーシップ・コード」

労働者のコンプライアンスが重視されることにより、労働者の健康が会社で管理なければならなくなった世界の物語。

物語に一貫してあるダークな雰囲気が辛い。
ラストは現代でも結構問題になっていそう……。
健康を管理しているのに、全然心が健康じゃない。

第五話 最後のYUKICHI
零和十年「通貨の単位及び電子決済等に関する法律(通称:電子通貨法)」

現金が廃止された世界。
旧一万円札であるYUKICHIがマネーロンダリングにも使用されることから、現金を所持している=非難される対象となってしまう主人公たち。
現金を所持しているだけで非難される世界の物語。

サラリーマン川柳や書籍の名前を載せることでリアリティのある世界観が書かれていた。
短編の中で一番あり得そうな架空法律だと思う。
ラストの展開も、最後の一行によって物語の捉え方が一変した。

第六話 接待麻雀士
例和三年「健全な麻雀賭博に関する法律(通称:健雀法)」

賭け麻雀が法律的に認められた世界。
賭け麻雀によるお金の取引で賄賂を渡す。
プロ雀士からは遠のき、接待麻雀士として仕事をしている主人公。

麻雀についての知識はなくとも楽しめる麻雀小説。
本当にあるイカサマの通称なのか気になった。
世界の作りこみがすごいので、すっと頭に入ってくる。


この一冊で作者の弁護士・プロ雀士・女性であることや個人としてのいろんな種類の強みが詰まっているのがかっこいい。
この作者にしか書けない作品であることがビシビシ伝わる。

今作は、作者のデビュー作である「元彼の遺言状」の読みやすいエンタメミステリからガラっと変わった作風で、ブラックユーモアがたっぷり。

次はエッセイの「帆立の詫び状」を読む予定。
エッセイまで書いているとは、本当に幅広い!


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