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【美術ブックリスト】『誰のための排除アート?: 不寛容と自己責任論』五十嵐太郎

著者は建築史が専門の大学教授。
寝そべることのできないベンチ、突起物で埋め尽くされた空き地など、都市空間にたくさん見られる「排除アート」の成立と問題点を考察する。2020年東京・幡ヶ谷で起きた女性ホームレス殺害事件を機にひろがったものだが、それ以前から新宿西口地下街のホームレスを排除したあとに動く歩道とともに設置された突起物など前例は多数あった。
ホームレスという特定の層のみに有効な排除目的のものがアートの名目で公共空間に増えることへの疑問から、実態を批判的にレポートしたのが本書。
ここまでが概要。

ここからが感想。
確かにこうした突起物は排除を目的としたものである。しかしこれだけをもって、社会の不寛容とか優しくないというのはどうだろう。行政が行っているのは公共空間から移動してもらう取り組みであって、存在の否定ではない。
行政は無料の宿泊施設や食事の提供、就労相談によって、ホームレス状態から脱出する支援を行っている。その全体を見ることなく、アートによるホームレスの排除といっても、批判にすらなっていない。それとも著者はホームレスはホームレスのままで生きればいいといいたいのだろうか。それを権利とでも思っているのだろうか。本当にホームレスのことを考えるなら、彼らにとって不便かどうかより、彼らが健全な社会生活を送れ健康で快適な生活が送れるように働きかけるべきではないかと思う。よってかなり疑問に感じた内容だった。

572円 64ページ A5判 岩波ブックレット 1064


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