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【美術・アート系のブックリスト】みうらじゅん著『「ない仕事」の作り方 』文春文庫

 TBSラジオ「安住紳一郎の日曜天国」を聴いていたら、みうらじゅんがゲストとして登場した。2015年初出、18年に文庫化された本書が本屋大賞の「発掘部門/超発掘本!」を受賞したという。少しだけ話された内容を聴いて、興味をもった。

 結論からいうと、感動的であった。
 地方自治体のイベントで隅っこにいる着ぐるみに興味をもち、自分の足で出かけては写真を撮り、話を聞き、情報を収集し、雑誌に売り込み、イベントを仕掛けた。のちに「ゆるキャラ」とネーミングされて市民権を得て今日までそのブームは続いている。
  ビデオ「吉本新喜劇ギャグ100連発」は、東京の関西人向けといいつつ単に自分が欲しいという情熱だけで働きかけて実現したらしい。
 一日に数本しかバスがこない地獄のようなバス時刻表を「地獄表」と名付けることで田舎のバス停に光を当てたり、ボブ・ディランのベストアルバムを企画したものの許可が下りずお蔵入りになったが、のちボブ・ディランが登場する漫画を描いたらそれが映画になって曲の使用許可がおりたり。自分の好きという気持ちをとことん突き詰めた先に大逆転が到来する体験が綴られる。
 表面的には実にくだらないものなのかもしれないけども、人にくだらないと思われようとも、一向に気にすることなく突き詰めていく。自分が好きなもののためにここまでできることがまず凄いのだが、それを広める努力と戦略は、途中から読んでいてほとんど感動で涙が出るほどだった。
「アウトドア般若心経」は「空」「無」「般」「摩」など般若心経に使われている278文字を街角の看板に見つけて写真に撮って集めたもの。駐車場の「空あり」という看板に「ないものがある」という仏教の真髄を見た著者が行った修行であった。この修行の先に、世の中は関係のないものの一時の集まりであるという、まさに「空」の認識に至ったという。
 自分の先達として岡本太郎、横尾忠則、そして糸井重里が登場する。この師弟関係も示唆的であった。糸井の若い人への態度には感心した。就職の面接は接待である、好きの貯金をしようなど、何気ない言葉にも、体験から身につけた著者なりの真実がある。
「他人と同じことをしていては駄目。なぜかというと、つまらないから」というあとがきの言葉は、アートを目指す人への声援にも思える。みうらじゅんは武蔵野美大出身。美大で学ぶアーティスト志望の人にも読んで欲しい。

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