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田中靖浩、山本豊津著『教養としてのお金とアート 誰でもわかる「新たな価値のつくり方」』

東京画廊の山本豊津さんと、公認会計士の田中靖浩さんの対談。
予想とは違っていて、というと失礼かな。面白かった、というか面白い部分がありました。

「アート思考」や「ビジネスには美意識が必要」といった、ビジネスマンに向けたアートに親しむための今時よくある指南書かと思ったのですが、むしろ世界史や日本史をもとに経営の概念がどう変わってきたか、それと美術品コレクションがどう変化してきたか、という内容でした。

価値や価格という概念が、会計学と美術ではまったく異なっているとか、価値を生み続けるためにアーティストは何をしているのかといった、文化論と文明論ともいえる内容。ですから、何かのハウツーを期待する人には、話が分散してしまって役には立たないでしょう。

しかし、美術家や美術界が抱える本当の問題や、アートとは何か、美意識の本当の意味とは何かを考える上では、面白い視点が提供されています。

私にとって面白かったのは、価値を価格に変えて初めて美術は社会的意味をもつのに、学校では教えていない(206頁)。若いアーティストは岡倉天心の時代から精神構造が変わっていない(280頁)、という山本さんの発言。どうやら山本さんは、武蔵野美術大学の建築学科でたまたまマルクス経済学を学ぶことができたらしく、美術と経済を知っているというだけでなく社会や国家といった視点から両者を見ることができているようなのです。

ビジネスにはアートが必要、などといういま流行りの美意識論やアートシンキングとは、その意味で一線を画しています。むしろアートにはビジネス感覚が必要であり、それを教育の問題としてでなく、歴史や文明として捉え直すことの必要性を示唆します。

対談でありながら、決して読みやすい本ではありません。話が拡散していて、読者の方がうまく読み取らないと、何かが分かってすっきりした気分にはなりません。しかし、これを読んでおくと、世間の胡散臭いアートビジネス本に騙されなくはなるでしょう。その意味でオススメです。これから画家を目指す若い人たちにも幾分か役に立つでしょう。

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2020年9月26日

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