見出し画像

建築と権威.アメリカ第46代大統領就任式を見ながら考えた.

アメリカ第46代大統領にジョー・バイデン氏が就任しました。テレビで連邦議会議事堂の姿を見た人も多いと思います。それよりは1月6日の前大統領トランプ支持者に占拠されて大混乱に陥ったアメリカを象徴するような議事堂の映像 https://time.com/5926883/trump-supporters-storm-capitol/
の方が印象に残っているという人も多いかもしれませんね。

トランプ氏は大統領の時、国の建築は「美しく」なくてはならないと言って、今後建設される国の施設は、連邦議会議事堂に代表されるような歴史的な建築の姿を纏うものにする、という決まりを作ったのです。https://www.dezeen.com/2020/12/21/trump-executive-order-beautiful-classical-architecture-news/
何が「美しい」かという問題はまた面白いテーマですが、いったん横に置いておいて、この話のポイントは、歴史的な建築が醸し出す「権威」のイメージを理解することです。

例えば、連邦議会議事堂ももちろんですが、例えば、日本の国会議事堂を思い浮かべてみてください。それがどのような建築の姿か。
(ちなみに、国会議事堂のデザインがなぜ今の姿になったのか、紆余曲折のストーリーも面白いです https://www.ndl.go.jp/kaleido/entry/28/index.html

そうですね、この二つが参照にしている歴史的な建築様式の姿は異なれど、左右対称で、まさに正統派の建築らしく威風堂々とした姿をしているということが分かりますね。これらは、いずれも古典建築と呼ばれる様式が採用されています。古典建築様式とは、ギリシャあるいはローマ時代の神殿をモチーフにしたものを指します。https://www.re-thinkingthefuture.com/architects-lounge/a380-10-iconic-structures-of-classical-architecture/
当然、当時の最高峰の建築です。神様に捧げる建築ですから。その姿に権威が宿るのはごく当然のことですよね。

このようにして生まれた古典建築は、その後も歴史の中で繰り返し登場します。欧州でキリスト教が広まり、中世では教会建築が「神の家」としてしばらく最高峰の建築の姿になっていくわけですが、ルネサンスでまた古典建築がリバイバルします。まさにルネサンス(再生)です。その後、バロックやロココなど宮殿建築が神というよりは当時の権力者の象徴的な姿として君臨しますが、科学が発展し産業革命が起こり、時代のパラダイムは大きく転換します。近代社会の誕生です。

そこでは、信仰より経済が政治の主要ツールとなり、美しいことより、機能的であることが重要になってきて、工場や倉庫といった建築が立ち並び、古典建築は特別な場所に追いやられることになります。その特別な場所が「権威」を誇示するべき施設、ということになります。国家権力を誇示する議事堂、大学や学校等の教育施設、あるいは銀行や駅舎なども当てはまるかもしれませんね。
(ただ、面白いことに、当時の工場や倉庫さえもその偉大さを表現するために古典建築に寄せたデザインのものが多くありました https://www.khanacademy.org/humanities/art-1010/architecture-design/international-style/a/peter-behrens-turbine-factory

第2次世界大戦前後。ナチスドイツには、ヒトラーお抱えのアルベルト・シュペーアという建築家がいました。当時のナチスドイツは、シュペーアによる権威の象徴としての建築を多く建設、計画しました。 https://www.theguardian.com/books/gallery/2016/jun/02/nazi-architecture-then-and-now-in-pictures
まさに、威風堂々とした古典建築のエッセンスがふんだんにちりばめられています。巨大で、左右対称で、中心性が強くある建築。それは、時の権力者が我が力を誇示するための道具としての建築デザインだったのかもしれません。

さて、そういう知識を踏まえたうえで、トランプが「美しい」建築をつくるべきだ、という決まりを作っちゃったというのが、ちょっと恐ろしい発言だった、ということが理解できるのではないかと思います。古典建築そのものに罪はありませんし、確かに美しい建築であるということについては僕も意義はありません。問題は、彼の言う美しさがある種の権威を現していて、それが絶対的なものであるという理解に基づいているということにあるんです。本当に危険なことは、最初は素敵な言葉を纏っているとも言われます。

そういえば、どこかの国のかつての首相も「美しい国」をつくると言っていましたね。美しいという言葉に隠された権威への憧れを見るとき、そこにはちょっとした怖さがあることを忘れないでいてほしいと思います。美しさの解釈とは本来、自由であると思います。誰かが決めた美しさに縛られるような世界に、僕は居たくないと思います。みなさんはどう考えるでしょうか。

そんなわけで、アメリカの歴史ある建築家や業界団体が、バイデンが大統領になったら、トランプが定めた「美しい建築」を作る決まりを破棄するように求めたと言います。https://www.dezeen.com/2020/12/22/aia-trump-beautiful-architecture-order-news-us/?utm_source=feedburner&utm_medium=feed&utm_campaign=Feed%3A+dezeen+%28Dezeenfeed%29
これは民主主義が彼の国に根付いている証拠です。おそらくそうなるでしょう。

バイデンのメッセージはなかなか心に響くものがあったと個人的には思います。
https://www.politico.com/news/2021/01/20/joe-biden-inauguration-speech-transcript-full-text-460813

国民の多くが真っ二つに分かれたアメリカ合衆国のこれからの変化、どうお互いを理解していくのか、目が離せません。日本だってその影響下にあるわけですから。

ただ、建築を含めた表現が、ひとつの価値観やひとつの美意識に支配されることなく、多様性を許容できる世界がやはり良いなと思います。連邦議会議事堂の前で話すバイデン大統領を見ながら、そんなことを考えていました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?