三十五年前、妻の実家のある信州佐久で帰農後、現在米農家として営農しながら、農的人生を楽しむため、いろいろな試みを実践している。 冬を暖かく過ごす薪ストーブライフ、自家栽培ソバで打つ十割蕎麦、自家産パン小麦で焼くパン、庭で飼う日本ミツバチの蜂蜜など、米作りの傍ら、楽しみの多い毎日だ。そんな田舎暮らしに、自家産コーヒープロジェクトを始めてからすでに十年以上になる。観葉植物としてのコーヒーの苗木を育てながら、実を収穫し、焙煎し、コーヒーも飲むというものだ。 コーヒ
今年の正月だったか、久し振りに帰省した子供たちと、地元に初めてできた本格的な喫茶店への口コミやら写真を投稿して盛り上がっていたときのこと。試しにこのサイトに、「幻の十割蕎麦」と銘打ち、撮り貯めてあった中から、良さそうな何枚かの蕎麦写真をアップしてみた。石臼挽きの製粉とか、夏の白いソバ畑の写真もアップしてみた。蕎麦打ちの経験は長いが、実際に店を開き営業しているわけでもないので、住所も電話番号もメニューもない、ただ地図上に「幻の十割蕎麦」と点示されるだけの、ちょっと奇妙な案
父が死んでからもう四十年近くも経つのだが、今でも台所の前に立ち、料理を作っているその姿をよく思い出す。 素晴らしい献立が食卓に並んでいたという記憶はあまりないが、煮魚、焼き魚、刺身、煮物、青物のおひたし、酢の物、豆料理、漬物などからの組み合わせで、海産物の豊富な港町小樽にふさわしい魚中心のシンプルな和食メニューが多かった。 夫婦共稼ぎで、特に母親が行商で市外に出かけることが多かったせいで、普段の食事を父が作ることは珍しくはなかった。 町中にあった我が家の近くには、大
数日後にお盆というある日の午後、突然五人の老人たちが我が家にやって来た。余りに暑く、炎天下の野良仕事はとてもできず、家でごろごろしていた時のことだ。 表で大きな声がして、続いて「いるかい」と言いながら、扉を開け男性が顔を覗かせた。どこかで見たような、と、あっ、かみさんの叔父さんの節夫さんだ。後ろにはぞろぞろご婦人たちも。五人そろって姪っ子のかみさんの顔を見に寄ったというが、生憎かみさんは東京に遊びに行って留守だ。先頭の節夫叔父の後方で老婦人四人が口々にわめていて姦しいが、