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自家産のコーヒーを飲む

  
 三十五年前、妻の実家のある信州佐久で帰農後、現在米農家として営農しながら、農的人生を楽しむため、いろいろな試みを実践している。  
冬を暖かく過ごす薪ストーブライフ、自家栽培ソバで打つ十割蕎麦、自家産パン小麦で焼くパン、庭で飼う日本ミツバチの蜂蜜など、米作りの傍ら、楽しみの多い毎日だ。そんな田舎暮らしに、自家産コーヒープロジェクトを始めてからすでに十年以上になる。観葉植物としてのコーヒーの苗木を育てながら、実を収穫し、焙煎し、コーヒーも飲むというものだ。  
 コーヒー栽培などというと、寒地佐久には似つかわしくないが、薪ストーブの暖で、冬でも十度以下にならない部屋に置けば越冬可能だ。五月~十一月初旬までは庭に置き、冬季は屋内で。栽培のノウハウも分からぬままの実践で、時には枯らすことも。それでもあきらめず、実を播いて苗を育て、今や寒地佐久産コーヒーの木が三十鉢にまでなった。  
 豊作不作といろいろあるが、一番大きな木には昨年四百粒もの実が成り、七杯の極上コーヒーを楽しんだ。不作の今年は残念ながら一杯だけだったが、初夏に咲いた三鉢の花の数からすると、来年六月には十杯近いコーヒーが飲めるはずだ。佐久で生まれたコーヒーの木が、今やたくさんの実を付けるまでになった。毎年新しく苗木も育っているので、二、三年後には二十杯は飲める計算だ。純粋佐久産のコーヒーを飲むプロジェクトは、かくして力強く、楽しく進行している。  
 寒い佐久でコーヒーを育てる?なんて、初めは冗談のようだったが、今では間違いなく実現し、さらに将来を目指している。(ビニール)ハウス栽培ならぬ(家)ハウス栽培なので、コストのかからない省エネ無農薬栽培というのもいい。大台の年間百杯もあながち夢ではないところまで来ていて、楽しみは増すばかりだ。
 初夏に咲く白い花も魅力的で、たくさんの木に咲く白の光景は、この地では見られない別世界の趣だ。蜜を求めて群れ飛ぶ蜂の羽音にも痺れる。風景を創り出し、結果として美味なるコーヒーを堪能できる。何というクリエイティブな実践だろう。
 佐久産コーヒープロジェクト、元気に楽しくやってます。

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