鹿野の昔話「幸吉来い」
昔々のこと、鹿野の地に、大吉という兄と、幸吉という弟が住んでいました。二人とも、貧しいながらに田畑を耕し、山菜を採っては、なんとか暮らしていたそうです。
弟の幸吉は大変心優しく、兄思いの性格でした。兄には麦飯を食べさせ、自分は後でこっそり、粟や稗といった雑穀を食べていたのですが、大吉は弟がこそこそと食事をしているのを見て、
「幸吉の奴は、わしには毎日麦飯ばかり食わせちょるが、自分はあねぇにこそこそ隠れて、きっと白米をたらふく食うちょるに違いない」
と思い込んで、いつかそれを確かめてやろうと思っていました。
ある晩のこと、働き疲れて早々と眠ってしまった幸吉を見て、今日こそ確かめてやろうと、寝ている幸吉の腹を開けて中身を見てみました。
けれども、お腹の中には雑穀ばかりで、白米どころか、麦飯のかけらもありませんでした。それを見た大吉は、大変嘆き悲しんで、
「ああ、お前は雑穀ばかりを食べて、わしに麦飯をくれておったんか。お前を少しでも疑ってしまった、わしを許してくれ」
と泣いて悔やみました。
すると、その夜のうちに大吉の姿は鳥に変わり、夜空に羽ばたいて消えていったそうです。
それから毎日のように、日暮れになると、
「コウキチ、コイ。コウキチ、コイ」
と鳴きながら、山から山、谷から谷へと飛ぶ、一羽の鳥が現れるようになったそうです。
今でも、鹿野の里にタケノコが顔を出す頃の夕暮れ時には、「コウキチ、コイ。コウキチ、コイ」と鳴いて飛ぶ声が聞こえてくるのだとか。
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