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つるりつるりとうわべをすべり

よく覚えていないと白を切ったはいいものの、うすうす思い出してきたと迷走し始め、軽率にサインしてしまったかも、と大人らしからぬ発言を厭わずに漏らす。かと思えば、うすうす思い出されていた記憶はどこへやら、記憶にございませんと三谷幸喜の映画ばりに10連発をかまし、結局は覚えていないと開き直る。そして今では、揺さぶりをかけられているのだと被害者面だ。そもそも、少しでもまともな政治家であれば、揺さぶりをかけられるような弱みを握られない。記憶が戻ったり消えたりと動揺せざるを得ないのは、揺

    • 名もなき朝

       朝方の東京に垣間見える無防備さが好きだった。「冬の朝日はきれいだから」、ただそれだけの理由で朝の5時過ぎに起き、誰もいない駅で待ち合わせて多摩川へと歩いた。人は、とりわけ大学生の頃は、僕らの関係性に名前をつけないでおこうなどとくだらぬ予防線を張りたがるけれど、その頃の私と彼とはまさにそのステレオタイプにぴったりと収まるような二人で、あまりにも隙間なく収まっているものだから、どうにもこうにも身動きの取れない状態で、それが安らぎでもあれば波風でもあった。 歩いているうちに、こ

      • 某日、陽の当たる某所にて

        海の見える街に越してきてからもう二年経つ。朝から昼にかけては山並みに船の汽笛がこだまし、日によっては目覚まし時計のお役も御免だ。名残惜しさを抱えながらも布団から我が身を剥がし、身支度をしている間に洗濯機を回す。船の汽笛には遠く及ばず、それでも確固たる意思を持つ音がピーピーと鳴る頃には、大方の朝の準備が終わっているのが常である。 ベランダで洗濯物を干すその時間。より正確に言うならば、ベランダに続く窓を開けたその瞬間。その時私の目に入るもののすべてが、私がここにいる理由に思えるほ

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