オールドPENTAXレンズでは、デジタル一眼で絞り優先AEができない理由
PENTAXのデジタル一眼レフは、1975年にできたKマウントを(機能拡張しつつ)2021年になってもまだ使ってます。もうじき50周年ですね。
で、PENTAXというメーカーの生真面目さで、その後マウントに新機能が追加されても、後方互換性を(できるだけ)維持してたんですね。その生真面目さのおかげで、1975年当時の初代SMC PENTAXレンズも、今のデジタル一眼でも最小限の機能制限で使えるようになってます。
が。
今のデジタル一眼だと、電子接点がない初代SMC PENTAXおよびsmc PENTAX-Mレンズでは、自動露出ができない。(Mモードでハイパーマニュアルが使えるので、半自動露出くらいにはなりますが)
しかし、その世代のフィルムカメラボディでは、そのレンズで絞り優先自動露出ができていました。PENTAX MEなんて、絞り優先AE専用機です。
珍しく後方互換性が失われてる部分なんですが、それはなんで?
と思って調べていくと、一眼レフ用レンズの絞り機構がどのように進歩してきたかを順に遡っていく必要がありました。
一眼レフの絞り制御の歴史~自動絞り
レンズの絞りって、レンジファインダーカメラや二眼レフだったら、単に「絞りリングを回せば、設定値に絞り込まれる」というだけの単純な機構でよかった。
日本初の一眼レフカメラであるASAHIFLEXも、そういう単純な絞り機構で世に出ました。
しかし一眼レフは、撮影するレンズを通る光を直接ファインダーで見ます。よって、深く絞るとファインダーも暗くなります。被写界深度も深くなるから、ピント合わせも曖昧にしかできなくなります。撮影できないわけじゃないけど、いささか不便。
そこで、「自動絞り」というのができた。
絞りリングを回してもすぐ絞りは動かず、開放のまま。その状態でピントを合わせ、絞りリングを望みの絞り値に設定してシャッターを切ると、露光の間だけ絞りが作動する。露光が終わるとまた開放に戻る。
ちなみにちゃんと戻るのが全自動絞り、戻すのは手動なのが半自動絞りです。PENTAXでは、1958年のアサヒペンタックスKとオートタクマーレンズで半自動絞りが、1961年のアサヒペンタックスS3とスーパータクマーレンズで全自動絞りが実現しました。
TTL露出計の内蔵
自動絞りで使いやすくなったな、と思ったら、今度はTTL露出計をカメラに内蔵するようになった。レンズを通った光の量を測って露出をメーター表示して、絞りとシャッタースピードを簡単に合わせられるように、と。
ところがこれ、自動絞りと同時にやろうとすると、話が難しくなる。
自動絞りだとレリーズするまで絞り開放だから、TTL露出計は開放状態のレンズを通ってきた光しか測れない。
開放F2.8のレンズを絞りF5.6にして、シャッタースピードを露出計通りに設定してレリーズしたらどうなるか。2段絞ったことが露出計に伝わってないから、2段アンダーで撮れます。それじゃ使えない。
「自動絞り」かつ「TTL露出計内蔵」というと、1964年のPENTAX SPがそうですが、これで露出計を使うための撮影手順が以下。
まず絞り開放状態で構図を決めてピントを合わせて、露出計のスイッチを入れる。すると自動絞り機構がキャンセルされて絞りリングの設定値に絞り込まれ、同時に露出計が作動します。それからシャッタースピードダイヤルを回して(更に必要なら絞りリングも調整して)露出を合わせ、レリーズする。
自動絞りのメリットをスポイルしたようなやり方だし、操作手順がちと煩雑。
理想的には、レンズの絞りリングを操作したことがボディ側に伝わって、2段絞ってるなら2段分シャッタースピードを長くするように測光してほしい。それなら、明るいファインダーのまま、煩雑な操作もなく露出計が使える。
自動絞りと開放測光の両立~絞り優先AEへ
それを実現したのが、1971年のPENTAX ESと、SMCタクマーレンズでした。絞りリングに連動して動くレバーが追加され、それでボディ側が「開放からn段絞ると設定した」という情報を得られるようになったんです。
これで、自動絞りと開放測光が両立した。
PENTAX ESはさらに、速度を電気的に制御できる電子シャッターユニットも採用して、世界初の絞り優先AE対応の一眼レフカメラとして世に出ました。
ただ、この頃のPENTAXはまだM42スクリューマウント。
ねじ込み式のレンズって、締め具合によってレンズの固定される位置が動いちゃう。そうすると、絞り値読み取りレバーの位置も少しズレて、正確な値を読み取れない。
だからPENTAX ESとSMCタクマーでは、その締め込み具合のズレを検出して補正する機構が設けられてます。もちろん電子センサーとかじゃなく機械的に。
富士フイルムなど他の数社もM42スクリューマウントの一眼レフを作ってたんですが、この時期にどこも独自拡張で、絞り値の伝達を行うようにしていきました。
それで相互に互換性がない状態になり、メーカー問わずレンズを使えるユニバーサルマウントとしてのM42のメリットが薄れていくことになります。
バヨネットマウントへ
1970年ごろ、他社の一眼レフはバヨネットマウント(今のように差し込んで回してカチっとロックする)やスピゴットマウント(差し込んでから締め付けリングで固定する)に移行してましたが、PENTAXはユーザーのレンズ資産を無駄にできないからと移行を遅らせてました。
が、まあ、絞り値読み取りのためにスクリューマウントを魔改造して、さすがに無理があると悟ったか、バヨネットマウントへ移行します。
そして1975年に生まれたのが、アサヒペンタックスK2/KX/KMと、KマウントのSMC PENTAXレンズでした。
レンズは定位置にバッチリ固定されるから、絞り伝達レバーも素直に読み取れる。
プログラムオート露出への対応・電子化
しかし70年代末には、プログラムオート露出が出てきた。
絞り優先AEだとまだ絞りが手動、「シャッターボタンさえ押せば絞りも速度も自動」とやりたい。
ところがこうなると、PENTAXの方式って、「絞りリングを1段分動かすと、伝達レバーも1段分動く」という相対伝達しかしてない。
TTL開放測光の絞り優先AEならそれで十分ですけど、プログラムAEをやりたいならそうはいかない。
ボディ側で「この明るさならF4で1/250秒」と算出した。でも、F4で、といったって、つけてるレンズの開放F値がわからないと指示しようがない。F2のレンズだったら2段絞るし、F2.8だったら1段しか絞らない。開放F値より明るいF値を指定しちゃったりしても困る。
それで1983年、PENTAXスーパーAと、smc PENTAX-Aレンズが登場して、マウント面につけた電子接点でレンズの開放F値を伝えるようにしました。
絞りリングにもA位置を設けて、そうなってるときはボディに絞りの制御を任せる仕様に。
これ以後のレンズは、PENTAXの現行デジタル一眼レフでも自動露出が使えます。
(ここは「開放」F値と書いてましたが不正確で、電子接点の仕様を聞いたところ、最小絞り値と、そこから何段明るいところが開放か、という情報を伝達してるそうです)
ROMチップ内蔵へ
ここから1985年にαショックでオートフォーカスの需要が爆発、1987年にPENTAX SFXとsmc PENTAX-FレンズでAF対応になります。でも絞り関係はユーザーにわかる形では変更はされていません。
Aレンズは電子接点の導通有無でF値だけ伝えてたのが、Fレンズ以降はROMチップを入れて、F値以外の情報もデータ通信するようになってます。でも使う分には完全互換するように作ってるから、ユーザーは気にしなくてよくなってます。
機械式絞りリング読み取り機構の省略
そして2003年のPENTAX *istとsmc PENTAX-FA Jレンズをもって、レンズから絞りリングがなくなり、絞り値設定は完全にボディ側に任せられることになりました。
これに伴い、初期のSMC PENTAXレンズ・次のsmc PENTAX-Mレンズまでで使われていた「絞りリングが開放から何段絞りこむ位置にあるのか」を機械的に読み取る機構も、ボディ側で廃止されたようです。
厳密にはもう少し前、1997年発売のMZ-50など一部入門機も、Aレンズ以降しか使えない仕様になってます。
MZ-60なんかAFレンズしか使えないから、多分電子接点読まなくなってるんじゃないかな。
機械的な絞りリング読み取り機構は、1980年ごろまでの古いレンズにしか必要がない。コモディティ化してコストダウン要求が厳しくなった一眼レフカメラで、そのためにコストを割くのは厳しいんでしょう。
それで、省略されたままデジタル化して現在に至ります。
よって、今のPENTAXデジタル一眼レフでは、レンズの絞りリングがどうなっているかを機械的に読み取る機構が存在しないので、絞り優先AEすら不可能、ということになります。
ああ話長かった。
瞬間絞り込みハイパーマニュアルでの対応
現在のPENTAXデジタル一眼で初代およびMシリーズのレンズを使う場合、マニュアル露出モードでグリーンボタンを押すと、「絞りリングの設定値まで絞り込み、露出計を作動させ、読み取った露出に合うようにシャッタースピードを設定し、絞りを戻す」というハイパーマニュアル機能が用意されています。
PENTAX SPで手動で露出計を作動させてシャッターダイヤルを回していた操作を、ワンタッチで1秒足らずの時間でやってくれることになりますね。
ハイパーマニュアルがシャッター半押しで作動してくれれば、およそ絞り優先AEに近いような操作感になるんじゃないの? とも思います。
現物知らないんですけど、昔ニコンやミノルタが一部機種で採用して「瞬間絞り込み測光」と呼んでたのがこれかな。今のPENTAXのカメラでも、ちょっとした設定ができれば実現できそうです。
ま、今となっては、古いレンズを趣味的に使うときのわずかな操作性の違い、ってなレベルのことで、別にハイパーマニュアルでも瞬間絞り込み測光でもどっちでもいいですけどね。
余談: ミラーレス一眼と自動絞り
Eマウントのソニーα3000を使ってて、あれっ、と思ったんですけど、これは絞り値を変えるとリアルタイムに絞りが動いてる、つまり手動絞りらしい。
考えてみれば、「レンズを通ってきた光そのものを見る一眼レフだと、手動絞りでは絞るとファインダーが暗くなる」という問題への解決として自動絞りができたんだから、ミラーレス一眼のEVFだったら増感すればいいことです。
むしろ、被写界深度が変化するのを確認できるというメリットも出る。
一方、LUMIX GF1は自動絞りで、絞り値を変えてもその時点では開放のまま、レリーズ時だけ絞り込まれています。背景にボケを出すような撮影だと、ファインダーと実写でボケ量が違っちゃう。
でも「絞り込むと被写界深度が深くなって、ピントが合わせにくい」というのは、ミラーレス一眼でも起きてます。ピント合わせに関しては、AFでも開放状態で行うほうが正確でしょう。
手元にあるのだと、PENTAX Q-S1も自動絞り。
どっちも一長一短ではある。他社はどうなってるのかなあ。
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